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セラフ式レベルアップ術 1

「・・・ではウィリアム様は、あの大昔に滅んだといわれていた開拓村からやってきたと?」

「うん、そうらしいよ。何でもお嫁さん探しに、田舎から出てきたんだって」


 ほんのりと辺りを照らす壁面に、薄暗い洞窟が周辺に広がっている。

 そこは紛れもなく、ダンジョンの内部だろう。

 その片隅にある小ぶりな岩の上に腰を下ろしたアリーは、隣に控えているケイシーと何やら謎の男、ウィリアムについて話しているようだった。


「・・・ここも十分に、田舎では?」

「あはは、確かにそうかも。でも、彼からすればきっと都会なんだよ。こんなに人が多いの、初めて見たっていってたし」


 田舎から出てきたという言葉は、都会にやってくるときに使う言葉だ。

 それをこんな田舎にやってきておいて使うのはおかしいと突っ込むケイシーに、アリーも軽く笑みを漏らしている。

 しかし彼女はすぐにどこか感傷的な表情を見せると、ウィリアムの境遇に同情するように悲しそうな呟きを漏らしていた。


「そう、ですね。しかし、彼ほどの腕前で結婚相手に困るとは思えないのですが・・・何故、こちらにやってきたのでしょう?」

「うーん・・・何でも彼が言うには、『自分は周りの足を引っ張ってばかりで、嫁の成り手がいなかった』からなんだって。信じられる?」


 アリーの言葉に、同じように感じ入る仕草を見せたケイシーはしかし、彼ほどの実力の持ち主が何故、こんな所にまで嫁を探しにこなければならなかったのかと不思議そうな表情を見せている。

 そんなケイシーの疑問に、アリーは余りに衝撃的な事実を話していた。


「まさか!?しかしそうですね、あの話を考えれば・・・」

「うん。レベルが遺伝に影響を与えるって考えれば、彼の村ではそれが長年ずっと続けられてるってことになる。ならきっと、とんでもない能力の持ち主ばかりなんだなって・・・そう、思えるな」


 その事実に驚きの声を上げるケイシーはしかし、どこか納得した様子をみせていた。

 それは、アリーと同じ考えだろう。

 レベルが遺伝に影響を与えるという研究が発表されたのは、ほんの数年前の話しだ。

 そのため、その効果を実践し結果を出している者は、まだいないといっても過言ではなかった。

 しかしウィリアムの故郷では、結果的にその研究が提唱している行動を、それこそ数十年、数百年といった単位でやってきたのだ。

 その結果が、あのウィリアムの凄まじい力だと思えば、それは確かに納得出来る事であった。


「あれほどの力をもってしても、落ちこぼれですか・・・恐ろしい話ですね」

「うん、そうだね。でも、もっと頑張らないとって思えるよ!だってあの研究が嘘じゃないって、証明されたんだから!!」


 先ほど目にしたウィリアムの凄まじい力は、まさしくあの研究の生きた証といえるものであった。

 それは彼自らが語った生い立ちからも、証明されている。

 これまでもそれを信じてやってきてはいたが、まだこの目にしたことのなかったその成果を、こんなにもはっきりと見せ付けられ、アリーはやる気が沸いてきたと力こぶを作ってみせている。


「ふふふっ、アレクシア様らしいですね。しかし、それに引き換えお嬢様は・・・一体、何をなさっているのですか?」


 そんな彼女の可愛らしい仕草に、ケイシーも思わず微笑を浮かべていた。

 そうしてケイシーは視線を壁際に佇むアリーから、広間になっているダンジョンの奥へと向ける。

 そこには取り囲む魔物達を軽くあしらっているウィリアムと、それを応援しているセラフの姿があった。


「いけー、ウィリアム!!そこで右ストレートだ!!!」

「右ストレート?こ、こうぜよ?」


 ウィリアムからすれば戦いにもならない筈の雑魚相手に、彼が苦戦してしまっているように見えるのは、その戦いの指示を逐一セラフが出しているからか。

 その的外れな指示に、戸惑いながらも何とか応えようとしているウィリアムの動きは、とんでもなくぎこちない。

 それは当然、魔物の身体を捉える事はないが、隙だらけなウィリアムの身体を狙う魔物の反撃もまた、彼にダメージを与えることはない。

 そうして彼らは、いつ終わると知れない戦いを永遠と繰り返していた。


「何で外しちゃうのさー!?しっかり狙いなさいよ!しっかり!!」

「そうはいっても、難しいぜよ!!もっと早く指示が欲しいぜよ!」


 盛大に空振ってしまったウィリアムの拳に、セラフは不満そうに彼へと文句をつけている。

 それに負けじとウィリアムも彼女に言い返しているが、その語気は彼女が明らかに悪いにもかかわらず、どこか弱い。

 それは、惚れた弱みというやつだろう。

 アリーに一瞬揺らぐ様子をみせていたウィリアムだが、やはり本命はセラフのようで、彼は理不尽に怒鳴りつけられながらも、それも悪くはないと満更でもない様子を見せていた。

 ここまでお読み下さり、ありがとうございます。

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