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その男、おのぼりさんにつき 2

「トレイン!?対応班の奴らはどうした!?」

「さっき、酒場で見たぞ!あいつら、サボって呑んでやがる!!」


 その悲鳴は、一直線にこちらへと向かってくる。

 その合間合間に聞こえてくる声は、今の状況の不味さを伝えてくるものであった。


「・・・?トレインって、何?」


 響いた悲鳴に周りが慌てて逃げ惑う中、セラフだけが一体何が起こっているのか分からないと、その場に立ち尽くしていた。


「えっと・・・冒険者が手に負えない魔物を、ダンジョンから連れて出てくる事だけど・・・そんな事より、不味いよ!こっちに近づいてきてる!早く逃げないと!!」

「そんなに、不味いの?」

「いいから、早く!!」


 そんな彼女に簡単に状況を説明したアリーは、いいから早くとその腕を掴む。

 そうして彼女は、その場から逃げ始めていた。


「不味い!こっちに来るぞー!!ちょ、早っ・・・うわぁぁぁっ!!?」


 高台から動向を見極め、避難を呼びかけていた男が、来襲する魔物の余りの早さに避難が間に合わず、その建物ごと吹き飛ばされてしまう。

 その距離は、セラフ達からさほど離れてはいなかった。


「ま、待つぜよ!まだ話は終わってないぜよ!!」


 そしてこの場にもう一人、事態を全く理解していない者がいた。

 その男、ウィリアムはこの場から立ち去ろうとしているセラフの腕を掴んで、必死に引き止めようとしている。


「しつこい!もう、それどころじゃないっての!!」


 流石のウィリアムも、彼女を無理矢理引き止めようと強くは掴みはしない。

 そのためその腕は、セラフによって簡単に振り払われるが、その遅れは致命的だ。

 ダンジョンから這い出てきた巨大なサイのような姿の魔物、それは彼女達のすぐ後ろにまで迫っていた。


「グオオォォォォンン!!!」


 魔物は雄叫びを上げ、狙いを定める。

 それは肉の柔らかそうな、若い女二人であった。

 その直線状には、彼女達へと追い縋る大柄な男の姿が。

 しかしその魔物からすれば、そんな男など障害にもならない。

 その、筈だった。


「・・・邪魔ぜよ!!」


 猛烈な勢いで突っ込んでくる魔物に、ウィリアムが振るった腕は軽い。

 それはそれこそ、集ってくるハエを振り払うような仕草でしかなかった。

 しかしその結果は、激烈だ。


「・・・嘘だろ?あの魔物を一撃で?」

「それも素手で、だと?ば、化物か・・・?」


 ウィリアムが振るった腕によって吹き飛ばされた魔物は、その下半身から上が消し飛んでしまっていたのだ。


「ようやく止まってくれたぜよ。話を聞いてくれる気になったぜよ?」


 そして、そのとんでもない結果を齎した男は、そんな事を気にも留めずにセラフ達を引き止めることの方に夢中になっていた。

 彼は足を止めてくれたセラフ達に、ようやく話を聞いてくれる気になったのかと嬉しそうな表情を見せている。

 彼からすればそんな事は気にする価値もないこと過ぎて分からないのだろう、彼女達が何故呆然とした表情でその場に立ち尽くしているのかを。


「す、凄い・・・ウィリアムさん、でしたっけ?貴方、一体何者・・・?」

「おぅ!わしはウィリアムぜよ!名前を憶えてくれて嬉しいぜよ!!お嬢さんの名前は、アリーでいいぜよ?」


 この場の誰よりも、迫り来るその魔物の怖さを知っており、それ故に怯えていたアリーは、だからこそ目の前で起きた事態が信じられないとその目を見開いている。

 彼女はそんな魔物を一撃で倒してしまったウィリアムこそが化物だと、彼に怯えた表情すら向けていたが、その男はそんな事を気にする事もなく素直に嬉しそうにニコニコと笑顔を浮かべていた。


「えっと・・・私の名前はアレクシアですけど、別にアリーでも・・・」

「そうなのぜよ。わしもアリーって呼んでいいぜよ?それともアレクシアって呼んだ方が?」

「ア、アリーでいいですよ。そちらの方が慣れてるので」


 屈託なく笑うウィリアムに、アリーがどこかペースを握られ始めたのは、彼のその無邪気さにやられてしまったからか。

 一度握ったペースはもはや離さないと距離を縮めてきたウィリアムは、気付けば彼女のすぐ傍にまでやってきていた。


「それじゃあ、アリー殿と呼ぶ事にするぜよ!・・・よく見ると、アリー殿も美人ぜよ。結婚はしているぜよ?決まった相手は?」


 愛称で呼ぶことを許したアリーに、ウィリアムはさらに表情を破顔させると、その手を優しく掴まえている。

 そうしてすぐ傍で彼女の顔を観察すれば、その目立たない美しさに気付く事も出来るだろう。

 そうして彼は先ほどまでの緩んだ表情を一気に引き締め、アリーの瞳を真っ直ぐに見詰め始める。

 それは恋に焦がれる、男の表情だった。


「えっ!?そんな、さっきまであんなにセラフに夢中だったのに・・・ちょ、ちょっとそれ以上近づかないで!近すぎます!!セ、セラフ!!助けて、セラフー!!」


 さっき目にした突然のプロポーズにうっとりとしていたアリーは、それを行った同一人物が今また自分に愛を囁いている事実に、どん引きしては表情を曇らせてしまっている。

 それはその男が、このままなし崩しに口付けを交わせないかと唇と近づけてくれば、尚更。


「・・・ふふ、ふふふっ、あーっはっはっはっ!!!」


 力では敵わない男にその手を拘束されたアリーは、すぐ近くで沈黙を保っていた親友へと助けを求める。

 しかしその助けを求めた親友、セラフはわなわなと小さく震えるばかりで、彼女の声に反応しようとしない。

 それどころか彼女はやがて、大声を上げて笑い始めてしまっていた。


「これで、これで勝ったも同然だわ!!今に見ていなさいよ、私の事を馬鹿にした連中!!すぐに見返してやるんだから!!!あーっはっはっは!!!」


 腰に手をやり、気持ち良さそうに笑い声を張り上げているセラフの姿は美しい。

 彼女はどうやらウィリアムの凄まじい力を目撃した事で、これからの自分に輝かしい未来が待っていると確信しているらしかった。


「・・・これは、わしをパーティに入れてくれるって事なのぜよ?」

「ええと・・・たぶん、そうかな?」


 突然大声で笑い出し、周りに対して見返してやると宣言したセラフに、もはやそれどころではなくなってしまったのかウィリアムはアリーの手を放していた。

 彼はセラフの言葉の意図が分からないとアリーに翻訳を頼んでいたが、彼女もそれには余り自信がなさそうで、不安そうに首を傾げてしまっている。


「はぁ、はぁ・・・お嬢様、ようやく追いつきました・・・?こ、これは、一体・・・?」


 セラフやアリーから遅れる事しばらく、ようやく彼女達に追いついたケイシーは、その乱れた息を整えようと両手を膝へとやっている。

 そうしてようやく息を整えた彼女が顔を上げると、そこには訳の分からない光景が広がっていた。

 ここまでお読み下さり、ありがとうございます。

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