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そして彼らは再び出会う 2

「・・・ちっ。ほら、これを」

「うわわっ!?えっと・・・これは?」


 痛みに喘ぎ、苦しそうにしているセラフの姿に、青年は面倒臭そうに舌打ちを漏らすと、雑な仕草で何かを投げて寄越す。

 そんな突然の彼の行動にも、セラフがそれを何とか受け取れたのは彼女の運動神経の賜物か。

 しかし彼女はそうして受け取ったガラスの小瓶を前に、これが何の意図で渡されたのか分からないと、不思議そうに首を傾げてしまっていた。


「・・・治癒のポーション。いいから、早く使え!!」

「は、はい!!」


 これが何かとセラフに問い掛けられた青年の、答えはとてもぶっきらぼうなものだ。

 しかし彼はそれでも、痛々しい彼女の姿が見ていられないと顔を顰めると、さっさとそれを使えと怒鳴りつけている。

 彼のそんな声に慌てて、セラフはガラスの瓶の蓋を取ると、それを一気に身体へと振り掛けていた。


「ふぁぁ・・・凄い、痛みが消えてく」

「ふんっ、当たり前だ馬鹿!・・・もう平気か?なら、さっさと行くぞ」


 セラフの身体に降りかけられたポーションは、緑色の優しい光を発しながら揮発し、それが収まった頃には彼女の身体の傷跡は、綺麗さっぱり消えていた。

 その様子と、消えていく痛みに感動しているセラフに、青年の先を急ぐ声が掛かる。

 もはや一刻も惜しいといった彼の言葉はしかし、セラフがついて来るのを待って、一歩進んだ所で立ち止まっていた。


「えっ、もう!?ちょ、ちょっと待って!すぐ行くから・・・って、あれ?」

「どうした?まさか、まだ痛いとかいうんじゃないだろうな?いっとくがあのポーションは結構・・・」


 青年の急な出立に驚くセラフは、制止の腕を伸ばしながら慌てて彼の後へと続いていく。

 そんな彼女の姿を待つように、青年は振り返っている。

 そうして初めて、彼の顔をまじまじと見詰めたセラフは、そこに誰かの面影の姿を見つけていた。


「あーーーっ!!!あ、あんたもしかして・・・マックス!マックスじゃない!!?」


 何かを確かめるように青年の顔を見詰めるセラフに、彼は気味悪そうに仰け反っている。

 そうして彼女は何かに気付き、その顔へと指を突きつけ叫んでいた。

 マックス、と。


「確かに俺はマクシミリアンって名前だが・・・あんたに呼び捨てにされる謂れは・・・っ!?お前、まさか・・・セラフィーナ・エインズワースか?」


 自分の顔を指差しながら、自らの愛称をいきなり叫んでくるセラフに、マックスと呼ばれた青年は怪訝な表情を見せている。

 しかしそれも、目の前の女性の姿にかつての面影を見つけるまでの話しだ。

 こんな場所にいる筈のない彼女の面影を、目の前の女性から見つけたマックスは、一度驚愕に目を見開くと、すぐに心底嫌そうに表情を顰めてしまっていた。


「そうそう、セラフよセラフ!!いやー、懐かしいわねー!!でも、あのチビで弱っちかったマックスが立派になっちゃって!!驚いちゃった、昔と全然違うんだもん!」


 そんな目の前のマックスの表情など気にも留めずに、セラフは幼馴染に再会した嬉しさを、興奮した様子で捲くし立てている。

 彼女は成長し、昔とは大きく変わってしまったマックスの姿に、嬉しげにその肩を叩こうとしていた。

 しかしその手は、当のマックスによって振り払われる。


「・・・もう、昔の俺じゃない。余り馴れ馴れしくするなよ、エインズワース」


 馴れ馴れしい態度をとってくるセラフを睨みつけ、はっきりと拒絶の言葉を告げたマックスは、そのまま踵を返し足早に立ち去っていく。


「ちょ、ちょっと待ちなさいよ!!こんな所に、私一人置いてく気!?危ないでしょ!!助けたんだから、最後まで責任もって面倒見なさいよ!!」


 去っていくマックスの足は早く、それは明らかにセラフを連れて行く気のないものであった。

 ポーションに治療されたとはいえ、まだ本調子ではないセラフは、それに追いつくことは出来ない。

 そのため彼女は何とかマックスを引きとめようとするが、彼は聞く耳を持たない。


「・・・知るかよ、そんなの自分で何とかしろ」


 彼女の声に、マックスが立ち止まったの一瞬だけだ。

 それもはっきりと彼女を見捨てるという宣言をするためだけで、それが終わると彼はそのまま立ち去っていってしまう。


「そんな・・・この、薄情者ーーー!!!」


 洞窟の暗がりに、もはや見えなくなってしまったマックスの姿に、セラフは愕然とした表情で立ち尽くしている。

 そうして彼女が叫んだ負け惜しみは、洞窟の閉ざされた空間にいつまでも、わんわんと反響し続けていた。


「はぁ・・・これからどうしよう?・・・ん?え、これってもしかして・・・!?」


 彼女が振り絞った大声を聴く者は誰一人、いない。

 そう、人間は。

 こんな場所に一人取り残された事に途方に暮れ、溜め息を漏らしているセラフの耳に、どこかから地響きのような音が届いていた。

 この場所で、そんな音を響かせながら殺到してくるものなど一つしかない。

 そう、魔物だ。

 魔物の大群だ。


「ちょ、やばっ!?あ、足が動かない・・・!?だ、誰か・・・マックス、マックス助けてー!!お願い!マクシミリアン・グラッドストン様!!お願いだから、助けてーーー!!!」


 迫り来る地響きのような足音は、確かな死の気配を漂わせている。

 それに慌てて逃げ出そうとしたセラフはしかし、恐怖のためか、それとも怪我の後遺症の為か足をうまく動かす事が出来ない。

 そうして、もはや逃げる事すら出来なくなったセラフは助けを求め、大声でマックスの名を叫んでいた。



「助けに来たよ、セラフ!!」



 誰にも届くことはないと思っていた声はしかし、確かに届いてこの場へと現れる。


「マックス!あんたやっぱり・・・って、あれ?」


 しかしそこに現れたのは、セラフの予想とは違った存在であった。

 ここまで相当急いできたのだろう、その豊かな胸を激しく上下させ、今にもやってきそうな魔物達へと供えているのは、栗色の髪をした優しそうな女性である。

 予想だにしない存在はしかし、その姿にもセラフはどこか見覚えがあった。


「もしかして、アリー?アレクシア・コーツ?」


 その女性は、かつて共に過ごした親友ではないか。

 しかし目の前のその姿は、かつての印象とは余りに違う。

 セラフの思い出の中の彼女は、どちらかという引っ込み思案で大人しい少女であった筈だ。


「そうだよ、セラフ!もう安心して、私が助けてあげる!」 


 しかし目の前の女性は自信に溢れ、それどころかセラフを守ってあげると宣言している。

 それはどちらかといえば、セラフの役割であった筈だ。


「っ!?皆、準備はいい!!」

「「おうっ!!」」


 近づいてくる魔物の気配に、アリーは弓を構えると後ろに控えていた仲間達へと声を掛ける。

 彼女の後ろに控えていた屈強な男達は、それぞれの得物を構えると一斉に持ち場へと向かっていく。

 そこに、魔物達が押し寄せてくる。

 そこからは、あっという間の出来事だった。

 ここまでお読み下さり、ありがとうございます。

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