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婚活の第一条件がレベルになったけど、私は絶対にレベル上げなんてしない!!  作者: 斑目 ごたく
だから私はレベル上げをしない
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決着 3

「任せない!!うおおおおおおりゃぁぁぁっ!!!」


 滾る気合に、応える剣は眩い光を放って、周囲を塗り潰すように光明のラインを引いている。

 それは力任せにそれを振り下ろすセラフの視界をも覆い尽くして、狙うべき魔人の姿を隠していた。

 それでも間違いないような確かな手応えが、この手には伝わっている。


「うぎゃぁぁぁぁぁっ!!?」


 そしてその後すぐに響き渡った悲鳴が、それが確かなのだと示していた。

 役割を終えたかのようにその瞬きを潜めた剣に、晴れた視界にはざっくりと袈裟切りに切り裂かれたジークベルトの姿がある。

 彼は切りつけられた勢いに押しやられるように、一歩二歩と後退しながら、まだ信じられないかのように自らの身体を見下ろしていた。


「馬鹿な・・・そんな筈が・・・そんな、筈が・・・ない、のに」


 一歩、よろめいた身体は、二歩引き下がる頃にはぐらりと傾いて、やがてそのバランスを支えきれずに仰向けに倒れてしまう。

 それはまさしく、敗北の姿だろう。

 その姿を目にして、セラフとマックスは思わずお互いの顔を見合わせていた。


「やった、やったわマックス!!」

「あぁ・・・あぁ!そうだな、セラフ!!本当に・・・本当に、よくやった!!」


 喜びにマックスへと顔を向け、そちらへと手を伸ばしたセラフはしかし、そこに期待した反応をもらう事はない。

 何故ならマックスは彼女が伸ばした腕を無視して、その身体を強く抱きしめてしまったのだから。


「ちょ、ちょっと・・・痛いよ、マックス」

「えっ?あ、あぁ・・・そうだな、すまないセラフィーナ。つい、な・・・」


 喜びの感情のままに彼女の身体を抱きしめる、マックスの力は強い。

 それはセラフの華奢な身体では、痛くもなってしまうだろう。

 それを訴える彼女の声に正気を取り戻したマックスは、慌ててその手を放すと、申し訳なさそうに頬を掻いていた。


「・・・セラフ」

「ん、何だ?」

「さっき、セラフって呼んだでしょ?だったら今更、セラフィーナなんて他人行儀な呼び方、許しません!ほら、もう一回!!」

「あ、あぁ・・・そうだな。セラ―――」


 今、唇を尖らしたセラフが不満げに漏らした言葉は、何も自らを抱きしめてきたマックスの振舞いに対するものではないだろう。

 彼女はどうやら、彼が口にした自らの呼称について不満があるようだった。

 その意味を理解しないマックスも、繰り返しそれを告げられればその意図を察することも出来るだろう。

 彼は若干照れ臭そうに目を逸らしながらももう一度、その呼称を口にしようとしていた。


「ふふふ・・・はははっ、あーっはっはっは!!」


 しかしそんな微笑ましいやり取りは、どこかから響いた無遠慮な笑い声によって掻き消されてしまう。

 それに不満そうに顔を顰めた二人はしかし、確かな違和感を覚える筈だ。

 一体誰が、この場でそんな笑い声を響かせるのかという違和感を。

 そしてそれは、この場でたった一人しかいない。


「おやおや・・・喜んでるねぇ、お二人さん!それはもしや・・・俺様を倒したからかい?馬鹿め!!俺様は、魔人ジークベルト!!神話に語られる獣だぞ!!そんな簡単に、くたばるわけねーだろ!!!」


 そうそれは、魔人ジークベルトだ。

 彼は今も、その紫の血をどくどくと垂れ流しながら大声で叫んでいる。

 その姿だけを見ればそれは負け犬の遠吠えでしかなかったが、その内容は不吉なものを感じさせるものであった。


「ふんっ、負け惜しみを!お前はもう間もなく死ぬ。最後ぐらいは、大人しく逝ったらどうなんだ?」

「あぁ、そうだ!俺様は死ぬ・・・それを果たしたお前達には、賞賛と・・・感謝を送ろう」


 ジークベルトが匂わせた不吉な予感を振り払うように、マックスは殊更それを負け惜しみだと強調し、彼のその振舞いを嘲笑っている。

 そんなマックスの言葉に素直に自らの死を認めたジークベルトは、敗北を悟ったようにも感じられる。

 しかし彼はその言葉の最後に、それとは相容れない言葉を付け加えていた。


「・・・感謝、だと?」

「あぁそうさ、感謝だ!!お前達には感謝しているのさ!俺様をここから解き放ってくれて、どうもありがとう、と!!」


 それには流石のマックスもいぶかしむ表情をその顔に浮かべ、ジークベルトへとその言葉の意味を尋ねようとする。

 しかしその必要もないほどにはっきりと、ジークベルトはその意味について自ら大声で叫んでいた。


「解き放つ?何をいっている、お前はここで・・・」

「そう、死ぬ!だが、それがどうした?俺様は魔人だぞ?当然、何度でも蘇るさ!!それも、この呪縛から解き放たれてな!!」


 死ぬと告げたかったマックスの言葉は、ジークベルト自らが奪っては補足している。

 ジークベルトがそれを堂々と宣言出来たのは、彼にとってそれが大した意味を持たないからだ。

 神話に語られる怪物、魔人はその命を殺しても滅びることなく何度でも復活する。

 それは御伽噺では珍しくもない展開ではあったが、現実として立ち塞がれば頭を抱えたくなる悪夢となっていた。


「なん、だと?馬鹿な、そんな筈が・・・」


 事実、ジークベルトのその言葉を耳にしたマックスはその表情を青く染め、ふるふると細かく震え始めてしまっている。

 それは、その事実を受け入れたくない拒絶の表れだろう。

 いや、どちらかといえば受け入れたが故の恐怖の表れか。

 ジークベルトの自信満々な語り口は、それが間違いようのない事実だと語っている。

 それが神話に語られる怪物の口から告げられた言葉だと考えれば、それを否定することは難しく、迷うように首を横に振っているマックスの仕草は、それを暗に認めてしまっている事を意味していた。


「本当は分かってるんだろう?それが有り得ると。認めちまえば楽になるぜ?何、流石の俺様もそうすぐには復活出来やしない。出来たとしても、五十年先か百年先か・・・ま、つまりはだ。あんたらは魔人を倒した英雄として、間違いなく賞賛されるってことさ。良かったじゃねぇか?後の世代の事なんて気にせずに、それを楽しめよ」


 そんなマックスの仕草に、ジークベルトは追い討ちをするように言葉を重ねている。

 それはもはや、彼が復活するという事を前提とした話だ。

 その言葉に、マックスもいつまでもそれを否定し続ける事は出来ないだろう。

 事実、彼は力尽きるようにがっくりと、その場に膝をついてしまっていた。

 ここまでお読み下さり、ありがとうございます。

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