決着 2
「それを使うんだ!それなら、それなら奴を・・・魔人を倒せる!!」
「え、えっ!?何よ、急に。だってさっきは・・・えっ、何これ眩しっ!?」
絶望の中で見出した希望に、マックスは縋りつくように叫んでいる。
その言葉にようやく身を起こしたセラフはしかし、もはや無理だと諦めようとしていた。
しかしそんな彼女も、手にした剣が眩く光り輝いているのを目にすれば、驚き目を見開きもするだろう。
「そいつを・・・そいつを寄越せぇぇぇぇっ!!!」
セラフのレベルを無理やり上げることで、完全に無敵となった筈の身体が、あっさりと傷つけられてしまった。
その事実に震えるジークベルトは、怒りを顕にするとセラフへと飛び掛る。
その狙いは、彼女が手にする剣だろう。
「っ!?何だ、何に突っかかる!?」
今だに状況を理解していないセラフならば、そのまま為す術なくそれを奪われてしまうだろう。
しかし彼女へと飛び掛ったジークベルトは突然、その途中で突っかかるようにその足を止めてしまっていた。
「セラフィーナ!!それで・・・それで早く、こいつを倒すんだ!!」
それはボロボロで、もはや立つことすら出来そうもないブラッドが、その足を抱きかかえるように掴んでいるからであった。
「邪魔を、するなぁぁぁっ!!!」
「ぐぁ!?」
しかしそれも、すぐにジークベルトによって振り払われてしまう。
その際に自らの鋭い爪を振るったジークベルトは、ブラッドの身体を深々と切り裂き、彼は短い悲鳴を上げては、再び床へと倒れ伏してしまっていた。
「ブラッド・・・分かったわ!私が、あいつを倒してみせる!!」
それでもブラッドの決死の振る舞いは、セラフの心にも響いている。
光り輝く剣をその手に握り、立ち上がった彼女は決意を秘めて宣言する。
魔人を、ジークベルトを倒すと。
その言葉に呼応するように、彼女が握った剣は一際眩い光を放っていた。
「遅い遅い遅い、遅すぎるんだよぉ!!」
しかしそんな決意も、迫るジークベルトの速度を考えれば遅すぎた。
彼はもはや彼女の目の前へと迫り、その腕を振り下ろそうとしているのだから。
「ひぃ!?・・・あれ?」
その剣が例えジークベルトの身体に届くとしても、セラフの技量が彼に勝るという話でもない。
迫るジークベルトの爪に、セラフは反応も出来ずに短く悲鳴を上げるだけ。
しかしやってくる筈のその痛みは、いつまで待っても訪れる事はなかった。
「全く、世話が焼けますわね・・・もう、こんな炎しか出せませんのに・・・」
響いた声は甲高く、しかし力なく沈んでいく。
その声を発したのは、どうにか僅かばかり身体を持ち上げている金髪の美少女、エッタだろう。
見ればジークベルトの目元には、ゆらゆらと揺らぐ炎が纏わりついており、それが彼の視界を阻害してその爪から、セラフの身体を守っていたようだった。
「それが、どうしたぁ!!近くにいる事は分かっているんだ、見えなくとも関係あるかぁ!!」
始めの一撃こそ外したジークベルトも、近くにいる事は分かっているセラフに、諦めることなくその腕を振るっている。
その目を覆っている炎は弱弱しく、もはや身体を起こしている事すら出来ないエッタの姿に、やがて消えてしまうだろう。
それにその滅茶苦茶な軌道は、確かにセラフを捉えてはいなかったが、それがいつまでも続くとは限らない。
事実、今翻った彼の腕は真っ直ぐに、セラフの身体を狙って伸びようとしていた。
「心配するな、セラフィーナ。お前には・・・指一本、触れさせはしない」
それもギリギリの所で、マックスによって防がれていた。
彼はその半ばで断ち切られた剣と、短剣を使っては器用にジークベルトの爪を受け流している。
それは薄氷を踏むような、際どい攻防の連続だろう。
それを窺わせるように、ジークベルトの攻撃を受け流しているマックスの横顔には、冷や汗が絶えることなく伝い続けていた。
「・・・うん、分かった!任せたよ、マックス!!」
「・・・あぁ、任せろ」
それでも守りきってみせると口にしたマックスに、セラフも頷くと傷つけられるかもしれないという怯えを捨てて、両手で剣を握り締めていた。
そんな彼女の言葉に、応えたマックスの表情は窺えない。
しかしその声は、どこか嬉しそうな声色をしていた。
「何故だ、何故だ、何故だ何故だ何故だ、何故だぁあぁぁっ!!?何故抜けない!!俺様は、俺様は・・・魔人、ジークベルトだぞぉ!!」
目の前に存在する、最後の脅威にジークベルトの攻撃は激しさを増してゆく。
しかし幾らそれが激しく、強く素早くなろうとも、マックスの防御を抜く事は出来ずにいた。
既に深手を負い、体力も尽きかけボロボロなマックスの姿に、何故彼がそれを続けていられるのかと、ジークベルトは理解出来ずに混乱を叫んでいる。
そんな彼の反応に、マックスはニヤリと笑うと両腕をクロスさせていた。
「それが人間と、お前達魔人の違いだ!ジークベルト!!」
「っ!しまっ!?」
クロスさせた両腕を爆発させるように解き放ったマックスは、その振るった腕によってジークベルトの両腕を大きく弾いている。
それは致命的な隙だろう。
そんな隙をじっと待ち望んでいたものが今、そこへと踏み込んでいく。
「今だ!!ぶちかませ、セラフ!!!」
渾身の力を解き放ったマックスは、そこに踏み込んでいった存在と入れ替わるようにして、地面へと尻餅をついている。
そうして彼は叫んでいた、セラフと。
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