決着 1
「くっ・・・間に、合わなかったか・・・」
振り下ろした剣に、それが致命傷となっていても、発動した装置は同じく致命の一撃をマックス達へと届けるだろう。
それは半壊している彼らの状況に追い討ちをかけ、全滅へと導くことを意味していた。
「・・・何だ、一体どうなっている?」
しかし奔った黒き閃光が消え去り視界が晴れても尚、マックスの意識は途切れることなく続いていた。
それにいぶかしむマックスが身体を見下ろしても、そこにはボロボロな、しかし先ほどと変わっていない自分の姿があるだけであった。
「・・・どういう事なの?」
そしてマックスと同じような疑問を、セラフもまた口にしていた。
いや、彼女が抱いている疑問は、マックスのそれとは違う。
彼とは違い、彼女は目の前で起きた事態が理解出来ずに、疑問を口にしていたのだ。
その、疑問とは―――。
「ははは、はははははっ、はーっはっはっは!!」
それは、突如笑い始めたジークベルトの姿を見れば分かる。
正確には彼の肩口辺り、そこに縫い付けられたように静止しているセラフの剣を見れば。
「何で?私なら、私の攻撃なら通る筈なんでしょ?だって、さっきは・・・」
「そうだ、その通りだよお嬢ちゃん!!いいや、その通りだった!!」
ジークベルトの身体のすぐ上へと静止してしまった剣先に、セラフはそれをどうにか押し込めようと力を込めている。
しかしそれは、決して動く事はなかった。
その事実に、信じられないと首を振るセラフに、ジークベルトは彼女の言葉を肯定しては、その顔を覗きこんでいる。
「知っているか?お前達が経験値といっているそれは、魔力に似ている。だが似ているといってもそれは、大きな違いで決して交わることない不可逆なものなんだが・・・俺様ともなると、それを乗り越える事も出来るのさ!!勿論それには、大量の魔力が必要なんだが・・・くっくっく、どうやら成功したようだな」
セラフが自分を傷つける事が出来たという事実を、過去の事だと語ったジークベルトは両手を広げると、その種明かしを語り始める。
それは彼が先ほど発動させた黒い閃光は以前のそれとは違い、セラフに経験値を与えレベルアップさせることが目的であったようだ。
視界を覆いつくすような黒き光は、レベルアップ時の輝きをも覆い隠したのだろう。
つまり、セラフはもはや一桁のレベルではなくなり、ジークベルトを傷つけられる者もまた、存在しなくなってしまったのであった。
「ど、どういう事よ!?」
「ふふん、分からないのか?つまりお嬢ちゃん、あんたはもうレベル二桁の一端の冒険者になったって事さ!!おめでとう!このジークベルト、心から祝福する!!」
ジークベルトの説明を受けても、セラフはその事実を理解する事はない。
それは彼女が、その事実を受け入れたくなかったからか。
しかしジークベルトはそれを許すことなく、懇切丁寧にそれを説明し直すと、パチパチとわざとらしいほどに大袈裟に拍手を打ち鳴らしてみせていた。
「そんなっ・・・そんなの、そんなのって・・・うわあああぁぁぁっ!!!」
唯一の切り札が、為す術なく奪われてしまった。
その事実を受け入れる事が出来ないセラフは、その瞳を迷わせるとふるふると首を横に振っている。
そうして彼女は、その事実を否定するように遮二無二剣を振り下ろし始めていた。
「もういい!もう十分だ!!下がれ、セラフィーナ!!」
そんな彼女の姿に、悔しそうに顔を歪めたマックスが呼びかけている。
それは諦めの言葉だろう。
事実、ジークベルトを傷つけられる唯一の存在であったセラフが、その手段を封じられてしまったのだ。
彼らにもはや、打つ手は残されていなかった。
「おいおい、無駄な足掻きはよしてくれよ。なんだか、こっちが悪い事してる気分になるだろ?ちっ、しょうがねぇな・・・そら、よっと」
幾らセラフがその剣を振り下ろそうとも、レベル二桁以上の攻撃は通さないという概念結界に守られたジークベルトの身体は傷つかない。
それでも決して諦めず、叫び声を上げながらそれを繰り返すセラフの姿に、どこか申し訳なさそうに表情を歪めたジークベルトは、自らの身体に突き刺さったままの剣を引き抜くとそれを振り払う。
それが刃の部分でなかったのは、彼のせめてもの情けだろうか。
しかし魔人の圧倒的な力を叩きつけられたセラフは、為す術なく弾き飛ばされてしまっていた。
「やれやれ、これで・・・ん、何だこれ?血、だと・・・?」
セラフを弾き飛ばし、ようやく肩の荷が降りたと気を抜いているジークベルトは、そこを解きほぐすようにさすっている。
しかしそこには違和感のある、ぬめった湿り気が帯びていた。
その冷たさに手を翳せば、そこには紫色の血がべったりと付着している。
「どういう事だ・・・?レベルなら確かに・・・っ!?そ、その剣は、まさかっ!!」
見れば、先ほどセラフが何度も剣を振り下ろした箇所に、ぱっくりと傷口が開いてしまっている。
その前に剣を突き刺されて出来た傷も今は塞がり、表面上は跡がなくなっている状態に、その傷口は明らかについ先ほど出来たものであった。
その事実に有り得ないと動揺するジークベルトは、自らが吹き飛ばし今も床へと倒れ伏しているセラフが手にしている剣に、驚き目を見開いていた。
何故なら彼女が手にしているその剣が、眩いばかりに光り輝いていたのだから。
「っ!まさか、あれがそうなのか・・・?セラフィーナ!!」
眩いばかりに光り輝く剣を振るい、魔人を退けた先祖の話を、彼は何度も聞かされてきた。
しかしそのお話に登場する剣は、彼の家の宝物庫には存在せず、当の昔に失われてしまったのだと考えられていた。
その剣が今、目の前で光り輝いている。
伝承の通りに、魔人を引き裂く力を持って。
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