ジークベルト 3
「やらせないと、いった!!」
しかしそれも、再びマックスに防がれてしまう。
ジークベルトの背中を回り込み、その反対側にまで歩みを進めたマックスの速度は、彼の予想以上のものであっただろう。
そこからマックスは剣を振り払うと、ジークベルトの腕の軌道を逸らしている。
「これでも食らえ!!」
マックスはそれに止まることなく、自らの腰に差した短剣を左手で引き抜くと、それをジークベルトの目へと向けていた。
「っ!?い、一瞬びびったが・・・いっただろう、そんな攻撃意味がないと!!」
完全に眼球へと突き立った刃に、思わずその目蓋を閉じてしまったジークベルトも、それにダメージがない事を思い出すと、そんな意味のない行動を取ったマックスを煽り始めていた。
しかしそんな無駄な行動を、果たしてマックスが行うだろうか。
いいや、そんな事は有り得ない。
「セラフィーナ、今だ!!」
「今だっていわれても・・・あんたが邪魔でやりにくのよ!!あぁ、もう!!知らないからね!!」
眼球へと突き立った刃は、それを傷つける事はなくともその視界を十分過ぎるほどに阻害している。
それは彼女の攻撃のお膳立てとしては、十分な舞台だろう。
しかしそれを用意されたセラフは、マックスが邪魔で攻撃が出来ないと文句を零している。
そんな彼女が覚悟を決めて繰り出したのは、身体ごとぶつかるような突きであった。
「ど、どうなったの?」
マックスごと貫いてしまいそうな突きに、目を瞑ってそれを放っていたセラフは、確かな手応えにもその結果が分からずに、中々その目を開けれずにいた。
恐る恐るその目を開けて見ても、そこにはマックスの背中が広がるばかりで、その成果をすぐに目にする事は出来なかった。
「ふっ・・・その目で確かめてみろ」
セラフの尋ねてくる声に、マックスは静かに笑うとそっとその場から身体をどかしている。
開けた視界にその先に待っていたのは、セラフの剣をその腹へと深く食い込ませた魔人、ジークベルトの姿であった。
「ぐっ、はぁ・・・馬鹿な、この俺様が死・・・馬鹿な、馬鹿な、馬鹿なぁぁぁぁぁっっ!!?」
深々と差し込まれた剣先は、明らかに致命傷となる深さだろう。
人間であれば間違いないそのダメージが、果たして魔人相手にも通用するかは分からない。
それでも口から血を逆流させ、苦しそうに呻いているジークベルトの様子は、まさに死に逝く人のそれであった。
「ちょ、抜けない・・・きゃあ!?」
自らの傷の深さが信じられないように絶叫したジークベルトは、仰け反るようにしてその言葉を叫んでいる。
その身体へと深く食い込んだ剣に、それを引き抜こうと力を込めているセラフは、その動きに翻弄されてやがて振り落とされてしまっていた。
「セラフィーナ!?無事か!?」
「う、うん・・・大丈夫。でも、剣が・・・」
振り落とされ、床へと尻餅をついてしまったセラフに、マックスが慌てて駆け寄ってくる。
それは彼女が魔人討伐において、唯一の希望であるからだろうが、それでもどこか満更でもない様子でセラフは彼の手を取っていた。
「ふふ、ふふふ・・・そうだ、そんな訳がない・・・そんな訳がないんだ・・・」
セラフの剣をその腹に突き刺したままの魔人、ジークベルトはふらふらとどこかへ向かいながら、何やらぶつぶつと呟き続けている。
それは目の前の現実が受け入れられない、彼の逃避だろうか。
しかしそんな振る舞いを許すほど、彼の相手は優しくはなかった。
「待て!どこに行くつもりだ!?まだ決着は―――」
ふらふらと彷徨うジークベルトは、どこに向かうとも分からない。
しかしここは彼が封印されていた場所であり、どこに何が隠されているかなど誰にも分からないのだ。
そんな場所で彼を好きに動かせてはいけないと、マックスはその肩を掴む。
傷を与える事は出来なくとも、影響を与える事は出来るのか、ジークベルトの足はその場にゆっくりと立ち止まっていた。
「邪魔を・・・するなぁぁぁ!!!」
「しまっ・・・ぐはっ!!?」
すぐ傍にまで迫った死は、その人の最後の力を引き出してしまう。
それは往々にしてある話だが、その目の前の存在は伝説に謡われた魔人なのだ。
それが死に瀕して、引き出す力は一体如何ほどのものになるのか。
少なくともそれは、マックスに禄に反応させることなく、その腕を薙ぎ払う程度の力は持っていた。
「マックス!!?」
「来るな!!来ては駄目だ、セラフィーナ!!」
腕を薙ぎ払われ、深手を負ったマックスはその場に膝をついている。
その姿に慌ててマックスへと駆け寄ろうとしたセラフはしかし、その彼によって制止されていた。
今の魔人の力は、明らかにこれまでのそれとは違う。
そんな状況でセラフがそれに近づけば、抗う暇すら与えられずにその命を奪われてしまうだろう。
それだけは、防がなければならなかった。
「そうだ、あれが・・・あれがあったな・・・あれを使えば、あいつら・・・そうすれば後は」
あれだけ邪魔をされていた筈のマックスを打ち倒したにもかかわらず、ジークベルトはそれを気にする素振りもみせない。
ジークベルトはそのままずるずると足を引きずると、やがて彼が先ほどまで座っていた椅子へと辿りついていた。
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