暴走
「何よ何よ！！レベルはレベルはって！！えぇ、そうですよ！１ですよ、１！！それが何が悪いってのよ！！！皆、生まれた時はそうだったでしょうが！！！」
ビリビリと響く咆哮は、誰からも相手にされなかったセラフの負け惜しみだ。
彼女はその両手を激しく振り回しながら、それを叫び散らしているが、厳密に言えばそれは正しくない。
彼女の美貌と、その磨かれた手管は正しく男達を虜にしていた。
しかしいつも後一歩という所でレベルを問われ、それが１だと分かった瞬間、彼らは一気に冷めたような表情となり、彼女の事を相手しなくなってしまうのだ。
それは彼女には、とりわけショックな出来事であった。
「えぇ、分かったわよ！分かりましたとも！！レベルを上げてくればいいんでしょ！こうなったら、私一人で行ってきてやるから！！そこで見ていなさいよね！！！」
そう、思わず一人で飛び出して行ってしまうほどに。
「お嬢様、向こうでお話を伺ってきたのですが。どうやら少し切り詰めれば、私達でもどうにか雇える冒険者の方が・・・お嬢様？」
盛大な叫び声を上げて、そのまま駆け出していってしまったセラフの動きは素早い。
それは彼女の余りに悲惨な姿に、途中からその様が見ていられずに席を外し、別の手段を模索していたケイシーが、それに気付けないほどであった。
つい先ほどまで、抜け殻になったようにそこに立ち尽くしていた筈の主の姿は、既にない。
ケイシーはその余りの事態に、思わず立ち尽くしてしまっていた。
「お嬢様・・・？一体どこに行ってしまわれたのですか？お嬢様、お嬢様！！？」
突然、いなくなってしまった主に戸惑い立ち尽くしていたケイシーも、やがてその顔を真っ青に染めている。
それは今、目の前で起こっている事態がとんでもなく不味い状況だと悟ったからだろう。
それでもどこかそれを信じたくないと声を張り上げるケイシーに、近くの男が話しかけてきていた。
「お嬢様って、さっきのえらいべっぴんの姉ちゃんのことかい？その子ならさっき出て行ったぞ。ありゃ、一人でダンジョンに突撃していく口だな。あぁ、もったいないもったいない」
その男はケイシーに最悪の事態だけを伝え、拝むように両手を擦り合わせている。
それはまるで、セラフが既に死んでしまっているかのような仕草であった。
「っ！！？お嬢様！！！」
一瞬の沈黙に、彼女は自らの血の気が引いていく音を耳にする。
決してやってはならない失敗に息を呑み、青ざめて行く彼女の顔色はもはや土気色だ。
既にこの場に姿のない主の姿に、彼女が出来る事など限られているだろう。
それでも彼女は駆けだしていく、少しでも主に追いつけるようにと。
「っ！？す、すみません！！」
しかしそんな彼女のささやかな願いも、叶う事はない。
無我夢中で走っていたため前方不注意であった彼女は、このギルドへと入ってきた冒険者風の女性と正面からぶつかってしまったのだ。
「うぅん、大丈夫。そっちこそ、大丈夫？・・・あれ、貴女は・・・そうだっ！確かケイシー、ケイシー・リットちゃん！こんな所で会うなんて、いつ帰ってきてたの？」
かなりの速度でぶつかったにもかかわらず、その衝撃がさほどでもなかったのは、ぶつかった相手のその豊かなボリュームためか。
彼女は一方的にぶつかってこられたにもかかわらず、ケイシーの事を心配するように手を差し伸べている。
その途中で彼女は何かを思い出すと、ケイシーの名前を口にしていた。
「？確かに、私はケイシー・リットですが・・・あ、貴女はっ！？」
彼女の手を取り、引き起こされたケイシーは、その口にした言葉に不思議そうな表情を見せている。
貴族の社交の場ならばいざ知らず、このような場所に彼女の知り合いなどいる筈ないのだ。
しかし目の前の栗色の髪をした優しそうな女性は、完全に知り合いの距離感でニコニコと彼女に微笑んでいる。
そして、その見ている者を思わず幸せな気持ちにしてしまうような柔和な微笑には、彼女にも見覚えがあった。
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