活動と憂鬱
6時限目の授業も終わり、放課後になった。部活がある者は、いそいそと部活に行く準備をしたり、今日部活がない者は、放課後の教室で友人と会話をし、時間を潰したりどこかに行く約束などをしていた。帰宅部は?という疑問を持つ者もいるだろう。帰宅部はいないのだ。この学校のモットーが文武両道なせいなのか少し特殊で全員が部活に所属していなければならないという校則が存在している。そのおかげか部活では、結構な数の部活が好成績を修めていると聞く。もともと部活に入る気のなかった俺としては、忌々しいことこの上ないのだが。今日も俺は、重い足取りで部室に向かって歩いて行く。
昼休み、巧己が自分の部活は文芸部だと言っていたが、正確には違うのだ。文芸部ではなく、第2文芸部という部活に入部している。第2が作られるほど人数があるかと思われるがそういうわけではない。さらに言えば第2文芸部は文芸部として活動している訳でもないのだ。なら何故そんな名前なのかというと、大分昔文芸部で書きたいものの方向性の違いにより、もう一つ文芸部を作ろうとしたのが始まりだったとか・・・。いや、小説は個人でつくるものなのだから、別に方向性が違ってても問題ないだろう。方向性だけでなく馬が合わなかったんだろうなというのが自分の考えなのだが、そういう大人になれない者のせいで自分は今、苦しめられていると思うと、少々腹立たしいな。
そして、まだ語っていなかったが、この部活の活動も意味が分からないのだ。何故こんなことを・・・、などと考えていると、第2文芸部の部室の前に到着してしまった。短くため息を吐いて、少し気合いを入れ、恐らく中に1人いるであろう部室に足を入れた。
部室の中には、一人の黒髪の美少女が本を読んでいた。何も喋らない分には、深窓のご令嬢だな・・・。別に彼女は社長令嬢でも、どこかのお嬢様という訳でもない。いたって普通の家庭の一人娘なのだが、あまり自分のことをクラスメイトに話さないのか、上品な口調も相まって、巷ではどこかのご令嬢じゃないかなどと噂されていた。不本意ながら、彼女の本を読む姿に見惚れていたら、彼女が顔を上げこちらの存在に気付く。
「・・・あら、来てたの。来てたなら声を掛けてほしいのだけど。存在感がないものだから驚いてしまったじゃない。」
「存在感がないは傷つくな・・・。そんな存在感薄いか・・・?ってお前が呼んだんだろ。そんなこと言うなら部室来ねえぞ。」
「冗談よ。あなたには冗談というものが伝わらないのかしら?大丈夫よ、安心して存在感はあるわ。少々目障りだと思うことがあるくらいには。」
こいつ、冗談とか言うけど、言い方のせいでまるで冗談には聞こえないし、さらに目障りだとか言いやがった。これも冗談か・・・?いや半分冗談ぐらいか。俺がうるさくすると偶にとてつもなく冷徹な目をしてた。そのときは、北極に着いたのかと思ったぞ。凍えるかと思った。人って視線だけで凍らせることができるんだな。正直ここでまたツッコんでも話が進まない気がするので、話を変える。
「まあ、いいや。で、今日も来てないの?お客さん。」
ずっと言ってなかったが、この部活、第2文芸部は文芸部ではない。何をしているかと言うと、困っている人たちの依頼を受けて、解決してやろうという部活らしい。らしいというのは今は五月、部活が始まってから一ヶ月依頼は来ていないのだ。正直この部活について知ってる者はほとんどいない、顧問の紹介によってここに依頼が来るというシステムにより、一見さんお断りみたいな京都の老舗のような状態になっている。そりゃ、依頼も来ないわけだ。自分としては、依頼が無いのは楽なのでそのまま、一生来なくていいと思っている。だからシステムに関して何も言わない。
しかし、今回俺が恐れていたことが起こってしまったようだ。彼女は、俺の問いに、口の端を少し歪め、答えた。
「それが、今回やっと来たわ。第2文芸部始まって以来の初のお客様よ。明日、ここに来る予定らしいわ。」
・・・めんどくさい。遂に来てしまったか、依頼よ。別に俺たちに頼まずとも、先生に解決してもらえばいいじゃねえかよ。しかし、先生方も忙しいらしくよっぽどのことで無い限りは、生徒に任せるつもりらしい。本当かよ。厄介ごとが嫌で押しつけたとかじゃねえだろうな。どうしよっかな。明日サボるのもアリだな。そうしよっかな。・・・うん、そうしよう!
「明日サボるとか考えてないわよね。もしそうするなら、あなたの家に押しかけてそこで依頼を受けるから、無駄よ。おとなしく登校しなさい。」
「そ、そんなこと考えとらんわ!ちょっと面倒だと思っただけだよ。」
「そう、なら別にいいわ。」
思いっきりバレてた-!なんだそんなわかりやすい顔してたか、俺。クソ、サボったらもっとややこしいことになる。簡単な依頼であることを祈るしかない。・・・はあ。明日が来なければいいのに。