変化
朔弥への気持ちに気づいてから、朔弥と話すのにもだいぶ慣れてきた。
あのデートから、私たちの距離は少し、縮まった気がする。
というのも、あれから朔弥は、なにかと私に突っかかってくるようになったのだ。
廊下を歩いていてすれ違えば、
「あー千夜璃」
といちいち反応をして、
庭を挟んでいても私を見つけると、
「千夜璃ーー」
と、手を振ってくるようになった。
私は、それが嬉しかった。
そして、朔弥の口から女の子の名前を聞かなくなったことも。
今日は、部屋で真幸様の側近の信楽さんに頼まれていた刺繍をしていた。
縫い物は幼い頃、母が教えてくれたのでそれなりに得意だった。
2時間ほどかけて、その布が出来上がった。
私はそれを信楽さんの部屋まで届けに行った。
「千夜璃です。失礼します」
襖に手をかけ、ガラッと開ける。
そこに、書類に目を通している信楽さんが座っていた。
こちらに気づくと、手招きされた。
私は言われたように信楽さんの前に座る。
「頼まれた布、できました」
こちらです、と刺繍を施した布を手渡す。
信楽さんは、おお、と言って受け取った。
「とても綺麗ですね……ありがとうございます」
「いえいえ、またなにかあったらいつでも言ってください」
私は笑顔で言った。
「その布は何に使うのですか?」
ふと、疑問に思った。
「ええ、実は──雅様のお召し物を…」
「──雅様とは、零兄ちゃんや朔弥のお母様ですよね?」
「──ええ」
雅──零や朔弥の母とは、名前は聞いたことがあるものの私は会ったことがない。
「雅さんは、どんなお方なんですか…?」
その言葉に、信楽さんは少し表情を曇らせた。そして、話せば長くなります、と言って私にお茶を出してくれた。
「──雅様は、旦那様の真幸様がお仕事で忙しくされて、雅様と過ごされる時間が少なくなってから、お心を病まれてしまったのです」
それから信楽さんは、雅が今は屋敷の離れに住んでいること、零や朔弥ともほとんど会わないことを話した。
「そうなんですか……。」
信楽さんはお茶をすすって、また口を開く。
「あの頃のように、元気になられるといいのですが──。」
信楽さんは悲しそうな目をしていた。