表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/13

紅葉

 「千夜璃、入るぞ」


 とんとん、と(ふすま)を叩く音がして、振り返ると朔弥が立っていた。

「あ、朔弥。どうしたの?」

私は意識しないよう自然と振る舞う。

「ん、今日休みだからちょっと俺とデートしない?」

──その言葉にドクンと胸が鳴る。

「えっ、え?デート?」

驚きながら聞き返す。

「そんなに動揺するほど嬉しい?」

いつものように朔弥はにやにやしながら聞いてくる。

「いや、別にそういうわけじゃないけど」

「ふーん?」

零に似た口調でからかってくる。

「ま、そういうことだから用意しとけ」

 最後は朔弥らしい適当な返事で部屋を出ていった。

(朔弥とデート……。どこに行くんだろ)

 私は高鳴る胸を抑えながら、迷いに迷って服を選び、支度(したく)を終えた。


 「お、来たか」

朔弥が軽く手を上げた。

「どこ行くの?」

1番の疑問を聞く。

「まあ、楽しみにしとけ」

 私たちは、月瀬家の従者の車に乗り、30分ほど走った。

 その間、朔弥とは他愛のない話をした。私は終始ドキドキしていた。


「着いた」

朔弥はそう言って車を降りる。少し歩くと石段が見えてきた。

 こっち、と言って朔弥は石段を登っていく。

私もそれについて行った。


 石段を登り、視界が(ひら)けると目の前には見事な紅葉(こうよう)が広がっていた。

「わぁ、綺麗。」

私は思わず息を()む。

「綺麗だな」

 私たちは赤やオレンジ、黄色のグラデーションが美しい紅葉を眺める。

「そこ、座ろ」

朔弥がベンチを指さした。

 私たちは、近くにあったベンチに腰掛けて、しばらく美しい景色に見惚(みと)れていた。


「ねえ、千夜璃」

 突然朔弥が話しかけてきた。朔弥を見ると、どこか遠くを見ている。

「なに?」

「……千夜璃って好きな人いるの?」

一瞬躊躇(ためら)うように、朔弥は言った。

「…別に、朔弥に関係ないでしょ」

私はいつものように、できるだけそっけなく言う。

「へぇ、いるんだ?」

にやにやしながら覗き込んでくる。

「いないよ」

嘘だ、と言いながら朔弥がこちらに向き直る。


「──いないなら、俺が狙っていいよね?」

──え?

 朔弥は、表情の読めない顔で見つめてきた。真剣とも、ふざけているともわからない。

 数秒後、私はその言葉の意味を理解して、頬を赤らめた。

「い、今なんて……」

──!

 突然、朔弥の大きな手が私の頬に触れた。

朔弥が顔を近づけてくる。

(もしかして……)

私は目をつむった。


「なーんて。なに身構えてんの千夜璃」

朔弥は腹を抱えて笑っている。

 私は、そんな自分がとてつもなく恥ずかしくなって、朔弥と反対の方を向いた。

「うるさい、別に身構えてないし」

強がってそう言うと、朔弥は悪戯(いたずら)な笑みを浮かべて覗き込んでくる。

「ごめんね?千夜璃」

 煽られてすごく腹が立ち、同時にすごく恥ずかしくなる。


──と、私の指先に何かが触れた。

 見ると、私の指を少しだけ朔弥が握っている。

驚いて朔弥の顔を見上げた。

「なに?照れてんの?」

私は慌てて顔を背ける。

「照れてない」

 その後も、朔弥にからかわれながらも必死に冷静を装った。


 帰っても、あの感覚が頭から離れなかった。

(まあ、朔弥は女たらしだし……あんなの慣れてるよね)

 そう言い聞かせながらも、朔弥が言った言葉を思い出した。

──「いないなら、俺が狙っていいよね?」

思わず顔が赤くなる。

──あの言葉の意味はなんなんだろう…?

 そんなことを考えながら、眠るまで私の心臓は鳴り止まなかった。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ