縁側
夏が終わり、秋になった。
私は縁側に座ってぼんやりと月を眺めていた。
暗い空には真ん丸の満月が翡翠色に輝いている。
夜風が頬をなでて心地良い。
満月を見ると、今でもあの夜を思い出す。
──母が亡くなった日。
春の夜だった。
桜が翡翠色の月明かりに照らされて散っていた。あんな桜を、零れ桜、といっただろうか。そして家を出ていく父の背中を思い出した。
と、いつから居たのか隣に朔弥が座った。
私は視線を月にやったまま誰に言うでもなく呟いた。
「お父さん、どんな人だったのかな」
少し、寂しげな声で私は言った。
それを察したのか、朔弥が無言で私の頭を撫でた。
その手が大きくて、暖かくて、心が落ち着くのが分かった。
「お母さんに会いたいな」
思わず涙がこぼれた。
あれ、私なんで泣いてるんだろ、と必死に笑顔を作った。
朔弥は私を、抱きしめた。暖かく、優しく私を包み込んだ。
その瞬間、堪えていたものがどっと溢れ出す。
私は子供のように泣きじゃくった。
──寂しかった。
両親はいない。頼れる親戚もいない。家族はいない、あの日から1人で生きてきた。
朔弥はぽんぽん、と私の頭を撫でた。
「もう、強がるな」
墓参りに行った時と同じ、静かで優しい声だった。その声はどこか、零に似ていた。
母が亡くなった時も、毎日泣く私の隣に座り、泣き止むまでそばにいてくれた。
いつもへらへらしていても、時折見せる朔弥の真剣な眼差し。それは子供の頃から変わっていなかった。