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夏祭り

 季節は秋に近づき、少し涼しくなった。

夏ももうすぐ終わる。


 いつものように朝食を食べていると、零が広間に顔を出した。零は私たちより早く起きて、月瀬の仕事を色々しているらしい。

「千夜璃、朔弥。今日神社で祭りがあるみたいなんだけど、3人で行かない?」

私は迷いなく返事をした。

「うん、行く!」

それを聞いて零は微笑んだ。

 一方で朔弥がだるそうに口を開く。

「俺は環奈ちゃんと行くからいいわ」

また違う人の名前が飛び出した。が、驚きはしない。そんな朔弥に私は言う。

「さすがたらし」

「だろ」

満更でもない。──別に褒めてないのだけれど。

 じゃあ、と零は言う。

「2人で行こっか、千夜璃」

零と2人なら楽しめそうだ、と私は思う。

「うん、朔弥はほっとこ」

あはは、と零が笑った。

「お二人でごゆっくり」

と手をひらひらさせて朔弥は部屋を出た。

「じゃあまたあとでね」

私も皿を持って立ち上がった。

「うん、またあとで」

優しい声で零は言った。


──日が傾き、少し涼しくなった頃。

 私は浴衣を着て、零の部屋を訪ねた。

(ふすま)を叩き、声をかける。

「零兄ちゃん、そろそろ行く?」

中から足音が聞こえる。

 と、目の前の襖ががらっと開いた。

「うん、行こうか」

零も浴衣に身を包んでいた。

思わずドキッとする。

長い手足が、浴衣を引き立てる。

「浴衣似合うね、零兄ちゃん」

私は見惚(みと)れながら言った。

「ありがとう。千夜璃もすごく似合ってる」

私は照れながら ありがとう、と言った。


 神社には屋台がたくさん出ていた。

焼き鳥などが焼ける良い匂いが鼻腔をくすぐる。

「いい匂いがするね」

零が言う。

「お腹空いちゃうね」

笑いながら答える。

「なにか食べたいものある?」

そう言われて、焼き鳥を2本買ってもらった。

「ありがとう、零兄ちゃん」

焼き鳥を頬張りながら、礼を言う。

「いいえ」

零は優しく微笑んだ。


 「お、千夜璃と兄さん」

そこに女の子を連れた朔弥が現れた。

「え、朔弥」

私はなんで来たのと言わんばかりの視線を向ける。

「まあまあ、そうあからさまに嫌な顔すんなって」

それを察したのか、朔弥は笑いながら言う。

それを聞いて零が笑う。

 少し他愛もない話をしたところで、朔弥が言った。

「じゃ、俺らは回ってくるわ」

さよなら、と手をひらひらさせてこちらに背を向ける。

 と、朔弥が足を止めて振り返った。

「あ、そーいや夜に花火あるらしいよ。階段からならよく見えるから」

そう言って朔弥はまた前を向いて歩き出した。

「そうなんだ。ありがとう、朔弥」

零が朔弥の背中に礼を言う。

朔弥は軽く手を挙げた。


 日が沈み、辺りは暗くなってきた。

「そろそろ花火始まる頃かな」

零が言ったので、私たちは階段へ向かうことにした。

歩いていると、人が多くなってきた。

──次の瞬間、人にぶつかり、零を見失ってしまった。

「あれ、零兄ちゃん…?どうしよう…」

人が多くて、とても見つけられない。   

 どうしようとおどおどしていると、誰かが私の手を掴んだ。

──!

ぐいっと手を引かれ見上げると、朔弥が私の手を握っていた。

「え、なんで朔弥が?」

「とりあえずついてこい」

言われるまま朔弥に手を引かれ、ついて行った。

 「千夜璃!」

零がこちらに気づき走ってくる。

やれやれ、と言った様子で朔弥は言った。

「環奈ちゃんと座ってたら、兄さんと後ろにいる千夜璃が見えたから」

「ありがとう、朔弥」

朔弥に礼を言った。

「ごめん、千夜璃。良かった。朔弥ありがとう」

ほっとしたように零が言う。

「次は気をつけろよ」

と言って朔弥は人ごみに消えていった。


──朔弥に掴まれた方の手が、少し熱を帯びるのを感じた。


 私たちは階段に座った。

しばらくして、花火が上がった。

「綺麗だね。」

私は見惚れて言った。

「うん、すごく」

零も見惚れていた。

 花火は夜空に大きく咲いて、静かに散った。

大きな音が夜の神社に響く。

私たちは、その花火に目を奪われて、しばらく時間を忘れていた──。


 花火が終わり、私たちは屋敷に帰った。

「楽しかったね。今日はありがとう、零兄ちゃん」

屋敷に着いて、下駄を脱ぎながら言った。

「2人で出かけるなんて久しぶりだから、すごく楽しかったよ。こちらこそありがとう」

にこ、っと眩しい笑顔をこちらに向けて、零が言う。


 部屋に戻り、今日のことを振り返った。

──朔弥が私の手を掴んでくれた。

 朔弥は「ろくでなし」なんて言われてるけど、昔からなんだかんだ助けてくれた。

 そんな昔の朔弥を思い出しながら、眠りについた。

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