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父
「1人にしないで──。」
──母の顔に、白い布が被せられていた。
幼くとも、なにが起こったのかは理解した。
小さな頬を、大粒の涙が濡らした。
10歳の時、母が亡くなった。
父は、月瀬の社長の側近だった。
だから私たち家族は月瀬の屋敷に住んでいた。
父は、母と幼い私を置いて、姿を消した。
仕事ばかりだった父との思い出はほとんどなく、顔も覚えていない。
──父は、母の葬式に来なかった。
幸い、私の面倒は屋敷の使用人が見てくれた。
そして2人の兄弟が、私の心の支えになっていた。
父は、病弱な母と、なにも出来ない幼い私を置いて行った。
──私は父を、恨んでいた。