表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/13

墓参り

 朔弥が言いかけた言葉を続けた。

「──今日はお前の母さんの命日だな」

私は振り向かずに言った。

「──覚えてたんだ」

「当たり前だろ」

今までの明るい声とはまるで違う、低く落ち着いた朔弥の声だった。


と、そこに零が来た。

「千夜璃、朔弥。」

「あ、零兄ちゃん」

「今日は──千夜香(ちよか)さんの命日だね。」

──千夜香。

私の母の名だ。

 零は朔弥と同じことを言った。兄弟なんだなと改めて思う。

「そうだね。あれからもう7年か」

私は記憶を(さかのぼ)る。


──母は、優しい人だった。いつだって暖かい笑顔で、私を包み込んでくれる。

 ()()色の黒髪と、白い肌。その瞳は私を吸い込みそうなほど透き通る。美しい人だった。

 病気だった母は、みるみる弱っていった。

「千夜璃」

優しく私の名前を呼ぶ母の、弱々しい笑顔を思い出す。


 朝食を食べ終わり、3人で、母の墓参りに行った。

じりじりと焼けるような暑さだ。

 母の墓は小高い山の上にある。石の階段を上る度に汗が顎からぽた、と垂れた。

 墓の前にしゃがむと、静かに目を閉じて、手を合わせた。その沈黙に蝉の声だけが響く──。


 3人は立ち上がった。

「千夜璃のお母さんは、すごく美人だったよね」

零が遠くを見ながら言った。

「そうだな」

いつもはへらず口ばかりの朔弥も、今日は真剣で優しい表情だった。

「とても優しい人だった」

「うん、お母さんはすごく優しかった」

朔弥に、いつもより優しく返した。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ