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こっくりさんはジャングルへ

 みのるの家に集まり、お茶と塩飴という、いつものスタイルでテーブルにつく。


「あんな小さい子どもを巻き込むなんて信じられないよ。そんなに注目の的になりたいなら、アイドルでもやればいいじゃん。なんで、幼稚園の保護者相手に信仰使ってんの」


 光の機嫌は最悪だ。

 みのるが「そうですね」と同意の前置きをしてから、付け足す。


「もしかしたら、自覚なく信仰を使っているのかもしれませんけど。その人にっては、ちやほやされるのが当たり前だったのでしょうから」

「モテたい、というのとも違うみたいだな。男女どちらも、大人も子どもも見境なく引き付けているのだから」

「まあ、だからこそ、四葉ちゃんがなおさら孤立しているんですけどね」


 ――厄介だ。

 みのるはため息をついた。


「4つのパターンを考えなきゃいけないかもね」


 光はそう言って、テーブルにルーズリーフを置き、ボールペンで書き始めた


1、自覚しており、なおかつ悪意がある。

2、自覚しており、罪悪感や違和感がある。

3、無自覚で、頭が悪い。

4、そもそも犯人がミサキ先生ではなく、別に信仰持ちがいる。


 とんとん、とボールペンの先で紙を突きながら。


「一番厄介なのは、4番目かなー」


 とぼやいた。


「いや、案外3の方が厄介かもしれないぞ。明らかに子どもを放置して親達がたかっているのに、それに気付かないなんて、相当な阿呆だ。どれだけ周りを見ていないんだか。もしかしたら、人間ではなくワオキツネザルかもしれん」


「なるほど」


 光が納得したように頷き、裏側に書き直した。


1、自覚しており、なおかつ悪意がある。

2、自覚しており、罪悪感や違和感がある。

3、ワオキツネザル。

4、そもそも犯人がミサキ先生ではなく、別に信仰持ちがいる。


 みのるは突っ込むことを諦めた様子で、1を指した。


「えーと、それじゃあ1の場合ってどう対処していきますかね?」

「ぶん殴る」

「叩き斬る」


 四葉の姿に、相当な苛立ちを溜め込んでいたのか、物騒な答えが返ってくる。


「めちゃくちゃ物理的な解決法ですけど、それで良いんですか?」

「といっても、子どもを巻き込むような強い悪意を持った人って、改心するのか微妙なところだしね。難しい問題だけど」


 問題はそこだ。

 平和主義者が聞けば怒り狂うかもしれないが、言葉では解決できないことは、多々ある。だからこそ、警察という一種の暴力装置があり、裁判という「理」をもって刑務所に叩き込むなりするのだ。

 だが、その法の力が及ばない悪人で、なおかつ改心させる余地がないのであれば。


「そのときは、痛い目を見せて脅しつけるような、野蛮なやり方が求められるかもしれないな」


 こうなる。

 それが正しいか否かは別として、選択肢の1つとして、暴力が浮かび上がるのだ。


「……わかりました。それじゃあ、改心する余地のない悪人だった場合には、直接的なやり方も検討するとして。2の場合はどうしますか?」


 悪人ではなく、現状に心を痛めていたり、何かがおかしいと気付いている場合だ。


「そのときは、信仰についての説明をし、今後どうしていくか一緒に考えていくのが望ましいだろうな」

「まあ、それで解決できるなら、それが一番よね」


 ――まあ、2の可能性は低いのだろうけど。

 もし、ミサキ先生が自分の力を持て余した、悪意のない人間ならば、四葉の現状をなんとかしようと手を回していてもおかしくない。

 もっとも、今3人の手元にある情報は、幼い四葉からもたらされたものだ。四葉が気付いていないところで、ミサキ先生が動いている可能性も否定できない。


「3の場合はどうするんですか?」

「ジャングルに送り返すよ。きっと、群れのみんなから愛される立派なボス猿になると思う」

「なるほど」

「4の場合は?」

「厄介だが……なんとか探し出すしかないだろうな。問題は、どうやって探すかだが」

「うーん。そもそも、1・2のパターンと、4のパターンをどう区別するかも難しいよね」

「改めて、信仰について確認してもいいですか?」


 みのるはあごに手をやりながら、2人に質問する。


「信仰での他人への影響って、どこまで間接的な作用をするんですか? 例えば、信仰持ちに接した人間だけが影響を受けるとか、噂話だけでも影響範囲を広げることもできるとか」


「作用には条件があるの。わたしの場合だと、わたしの姿を直接目にして、かつ声を聞いた人にだけ作用するみたい。まあ、だからこそ全校生徒の前に立つことが多い生徒会長になったんだけど」


「そういう理由があって、光先輩が生徒会長で、撫子先輩が副会長なんですね」


「なにその、信仰がなければ撫子のほうが生徒会長っぽいみたいな言い方」


 光は頬を膨らませた。その手元には、大量の塩飴の包装が転がっている。

 ――そういうところなんだけどな。

 みのるは喉元まできた失礼な感想をひっこめた。その代わりに、あることを思い出しながら言う。


「そういえば、この前の三上先生の信仰は、『三上先生が殺した死体を見る』が条件で影響を与えていましたよね?」

「話をそらしたね?」


 光はジト目を向けてから、答える。


「そうなんだよね。間接的に認識阻害を引き起こした、三上先生の信仰と同じように、かなり遠隔から影響を引き起こす信仰持ちもいるよ。わたしが今までに見たことがある中で、一番遠隔から影響を与えたのは、『こっくりさん』かな」


「あれも信仰持ちなんですか?」


 みのるは驚き、大きな声を出してしまった。


「そう。正しく、完全に定められた形式で、儀式を全うする。この条件をクリアした人間には『こっくりさん』の啓示を与えるっていうものね」


「もしかして、一般的に怪奇現象と呼ばれているものには、信仰が関わっている場合も多いんですか?」


「そうだな。呪いのビデオ、なんていうのも、信仰持ちによるものと考えられるだろう。ただ、そういった間接的に影響を与えるタイプの信仰は、条件が複雑化し、かつ影響が限定的になる傾向がある」


 こっくりさんは、遠隔で影響を与えるポテンシャルがあるが、儀式を行わなければならない。

 呪いのビデオは、強力な効果を発揮するかわりに、ビデオを長時間見せる必要がある。

 三上の死体隠蔽の信仰は、間接的なぶん、光の信仰よりも限定的な効果になっている。


「そこが区別のポイントになりそうですね」

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