献血界の救世主
「正直、あなたの頼みはききたくない」
警戒心をあらわにしながら、光がみのると鈴に歩み寄る。
光の言葉に、失意を表情に浮かべる鈴。それを鋭い目で見ながらも、光は続けた。
「でも、あなたの話が本当なら、南とかいう医者を止めなきゃいけない」
それは光自身の正義感によるものであり。
四葉を含む、光の周囲の人間の安全を守るためでもあり。
そして――。
「世界をぶち壊そうとしている、力を持った悪人を、見て見ぬフリをするなんて。わたしの『正義』が許してくれない」
――信仰による呪縛でもある。
「わたし自身、何かを成し遂げるために、無関係な人たちを巻き込んできた。正義感を押し付けてきたんだよ。だから、自分の信仰を使ってこんなことをしたあなたを、一方的に責めることはできない」
それは、彼女にとって正しくないから。
悪人による犠牲をなくすために、自分の力を使って協力者を集める。それは、光自身がしてきたことであり。物理的な信仰であったが故に暴力的な手段に出た鈴への矛先を鈍らせた。
「そう、わかっているけどさ。許せないんだよ。太君に一方的に攻撃して、一方的に失望したり。小さい子ども達まで巻き込んだり。わたし達にも、命に関わるような攻撃をしてきた。だから、ただ許すなんてできないし、無条件で協力するのも納得できないよ。だから――」
ぱちん。
平手が頬を打つ、軽い音がした。
赤くすらなっていない、打たれた頬に手を当てて、その痛みの小ささに驚くような表情をした鈴。そんな彼女をひと睨みしてから、光はふっと表情を緩めた。
「これで、わたしは手打ちにしてあげる。いいよ、わたしは協力する。殺す、のは出来る気がしないけどね」
鈴の目が見開かれた。
「い、いいの……?」
「それがわたしの在り方だから」
光は誇らしそうな。いや、むしろ悲しげな笑みを見せた。その瞳の奥の深さに、鈴は息を呑む。
「光がそう言うなら、私もそうしよう」
意気揚々と撫子も右手を振り上げながら、鈴に近寄る。撫子も散々にやられ、顔に傷を負わされ、思うところがあったのだろう。
が、みのるが両手を広げて割って入り、焦った声で制止する。
「撫子先輩がやったら死んじゃいますって!」
「私だって死ぬ目にあったんだが」
「どうか、どうか我慢してください」
撫子は不満げに唇を尖らせた。
「このモヤモヤの埋め合わせはみのる君にしてもらうからな」
「僕ですか!?」
驚くみのるから視線を外し、撫子は鈴に向き合う。
「みのる君が対価を払ってくれるらしいのでな。私も協力しよう。ただし、光と同じく人を殺すことは出来ないかもしれんがな」
光とみのるの目があう。みのるは小さく頷いた。
「僕も協力します」
「んじゃあ、俺も」
太も声を上げた。
「いいの? 江原君……」
太はサイリウムをしまいながら、言う。
「今のところ、カッコいいとこないし。それに、本物の巨悪と戦うのに不参加なんて嫌だし……なんか俺だけ動機が軽い感じがして、もう既にカッコ悪いような気もするけど……」
太の声がだんだんと小さくなり、最後はごにょごにょと口ごもる。
光がにっと笑った。
「ありがとう!」
憧れた物語の主人公のように、カッコよくありたい。
それもまた、立派な生きる意味なのだ。そして、人が戦う理由としては十分だ。
「本当に、ありがとう。ごめんなさい……」
鈴が深々と頭を下げる。
誰にも見られていないながら、蓮もひっそり頭を下げた。
光は鈴の肩を軽く叩き。
「いいって。それじゃあ、片付けしよっか」
その言葉に改めて体育館を見渡せば、散乱する画鋲やロープ・ワイヤー、床を真っ赤に染め上げる――主にみのるの――血液など、ひどい有様だ。
床や壁を破壊するような武器が使われなかったのがせめてもの幸いか。修理は不要で、ただただ片づけが必要な状態だ。
「念力でパパッと片付けられそうだが」
撫子の言葉に、太も頷く。
「さくっと出来るんだろ?」
戦闘に使われた小道具が次々と宙に浮かび、鈴のリュックに吸い込まれていく。
掃除用具箱から、蓮がバケツを持ってきた。
「血液はこれに入れて、トイレにでも流せばいいかね」
最後に残った血だまりに、鈴が手のひらを向けるが、全く動く気配がない。
「液体は動かせなかったりするのか?」
撫子の問いに、鈴は首を横に振る。
首を傾げる一同に、みのるが気まずそうに言った。
「あの……ネットで見たことがあるんですけど、血液って400MLで数万円するらしいです」
「たっか!」
光が驚愕を口にした。
ゴム手袋が見つからなかったために、みのるの手作業と鈴の念力だけで掃除をすることが決定した。
「これからはゴム手袋常備した方が良さそうですね」
みのるはがっくりと肩を落とした。
傘無 心 さんからレビューを頂きました。
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