ワオ伏魔殿へハイ〇ース
1日の準備期間を置いてから、みのる達は四葉の家の前に集まっていた。
前日の夜に四葉の携帯電話に連絡し、四葉の両親に取り次いでもらったのだ。
「仕事とかに支障が出ているとは思えないから、こういう事務的な連絡は受け付けてくれるはずだよ」
と、光が提案したからだ。
幼稚園には連絡せず、四葉の両親に紹介してもらう形をとっている。これは事前に人数を伝えないことで、光が自由に動けるようにするためだ。
最初はみのる達のことをいぶかしんでいた四葉の両親だったが、「ミサキ先生に挨拶をしたい」というように伝えると、喜んで協力してくれることになった。
四葉の通う幼稚園への送迎はバスではなく、ワゴン車を父が運転し、家族全員で行くようだ。
助手席に四葉の母が座り、その後ろのシートには四葉とみのるが。一番後ろのシートに光と撫子が座る。
「いやあ、門倉さんたちが来てくれて嬉しいわ」
「ああ。きっとミサキ先生も喜んでくれるだろう」
ミラー越しに見える四葉の両親は、ニコニコと上機嫌だ。
「突然のお願いにも関わらず、快く応じてくださり、中村さんには感謝しています」
撫子が折り目正しく礼を言った。中村とは、四葉の家族の苗字だ。
今日は光はすっかり存在感を消して、撫子の陰に隠れるようにし、目立たないように過ごしている。
「いえいえ。うちの四葉が、門倉さんとミサキ先生の縁を結んだなんて、こんな喜ばしいことはないな」
四葉の父がそう言い、母も笑い声で返す。
「は、はは」
追従して笑う撫子の声は乾ききっていた。
――これは、想像以上かもしれない。
みのるは信仰による影響に、冷や汗が首筋をつたうのを感じた。
「四葉ちゃん。静かに聞いてね。ないしょのお話だよ」
耳元に口を寄せて話しかけるみのるに、四葉はこくんとあごを引いた。
「僕らは、四葉ちゃんを助けに来たんだ。きっと、ミサキ先生は悪い魔法を使って、四葉ちゃんのパパやママ、お友達をおかしくしちゃったんだ」
四葉は不安そうな面持ちで、こくりと頷く。
「だから、僕と撫子お姉ちゃんが、ミサキ先生の魔法を解くよ。その間、光お姉ちゃんが四葉ちゃんのことを守ってくれるから」
四葉は涙目でみのるの腕を引く。耳元に口を近づけ、小さな声で言った。
「みのるお兄ちゃんたちは? だいじょうぶなの? わるい魔法かけられたりしない?」
みのるは笑って、四葉の頭を撫でた。
「大丈夫だよ。僕らは、魔法にかからないんだ。もしかしたら、魔法にかかったフリをするかもしれない。でも、それは作戦だから安心してね」
「さくせん」
「そう。作戦。で、四葉ちゃんは、作戦を成功させるために、光お姉ちゃんとずっと一緒にいて欲しいんだ。出来るかい?」
「できる。よつば、できるよ」
よつばは、ふんすと小さな拳を固めた。
みつるも拳を固め、四葉の小さなそれに、こつんと合わせた。
「頑張ろう」
「うん。がんばる」
みのると四葉が、秘密の作戦会議をしている間。運転席では延々とミサキ先生を褒めるような会話が、ひたすら和やかに続き。後部座席からは、撫子が声を張ってそれに応えていた。
はたから見れば異様な状態が10分ほど続き、車は幼稚園に到着した。
カラフルな色彩で待ち構える「ワオキツネザル幼稚園」の看板に、園長のセンスを疑いつつ、みのる達は車から降りた。
みのると撫子たちは、四葉の家族たちに普通に続き、光だけは撫子の長身に隠れるように動いている。
幼稚園の玄関は、寂しさを覚えるほどに静まり返っていた。対照的に、奥からはやけに楽しげなざわめきが聞こえてくる。
まるで、この玄関が四葉のいる場所で、奥がミサキ先生たちの居場所だと暗に言われているようで。光は密かに、奥歯を強く噛みしめた。
四葉の両親は後ろをゆっくり歩く四葉を振り向くことすらせず、大人の歩幅で、足早に歩き出す。
撫子とみのるも、素早くスリッパに履き替えて後を追った。
「わたしたちは、ゆっくり行こうか」
光は四葉と手を繋いだ。
ぎゅ、と強く握られた手に、光は短い時間目を閉じて、深く息を吸い込んでから、幼稚園の奥を強く睨み付けた。




