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氷塊と規格外

気がつけば3月。


訪問していただき、ありがとうございます。

「おおおぅ…。すごぉーい…」


中庭から少し奥に入った広い敷地に、数種類の薬草がところ狭しと生えていた。そこからは、ホールも少しみえるし、夜会の音楽も聴こえていたが、サフィーナと言えば目の前の薬草に釘付けだ。


サフィーナの記憶…というか、異世界の記憶の中で、薬草の記憶もあるが、アロマとかハーブと言うぐらいしかうかばない。今の世界で幼少より慣れ親しんだ薬草の記憶の方が強い。


「すごぉーい!これってシオン?うわあああ…ほしいぃ…」


薬草に触れられるぐらいに手をのばすが、いつものように薬草を手にした瞬間、自分がどうなるかぐらいは、わかっているサフィーナは、触れることはしない…はずだった。


「それに触るな」


その突然の突き刺すような声に思わず瞬間、薬草に手が触れてしまった。驚いたサフィーナは、後を振り返った瞬間、尻餅をついていた。それが幸いした。


なんと、サフィーナがそのまま振り返っていたら、サフィーナに突きつけられている尖った刃に、頬を斬られていただろうから。


「ご、ごめんなさいっ!い、今のは、触ろうと思って触ったわけじゃないのっ。ビックリしてっ!あのっ!それに、もともと、触ろうとは、思っていなかったのっ!そりゃ、我が家の薬草園にも、欲しいなとは、思ったけど…。でも!人の物盗ろうなんて思わないわ!それに、こんなに素敵な薬草園をしている人を尊敬するもの!」


剣の先に怯えながらもサフィーナは、薬草と剣先を交互に見ながら、必死に自分の思いを伝えていた。


「ここの主は、死んだ」


冷たくいい放たれたその言葉に、剣の先から根元をたどり、その剣の持ち主をサフィーナがとらえた。


驚愕で、息をのむサフィーナ。まるで時が、止まったかのように動けない。夜会の音楽も聴こえているはずなのに、サフィーナの耳から消え去ってしまっていた。


何故ここに?この人が?サフィーナの頭の中は、そんな事しか思う事が出来なかった。


何かを続けて話す…なんて事も。その剣の持ち主の名前を呼ぶことすらも…。


サフィーナに、突きつけられていた剣が、空を切り鞘に収まった。カチンと小さな金属音がし、サフィーナの耳に夜会の音楽が戻ってきた。


時が、止まっていたわけではないのに、時が、動き出したようにサフィーナは、感じた。ふうっと深く息をはきだして、地べたについていた腰をあげ、土汚れしたドレスの裾を軽くはらって居住まいをただした。


「こんな場所で、何をしている」


剣は鞘におさまっているけれど、視線と声色が棘のようにサフィーナの身体に突き刺さっているように感じる。


「や…薬草をみていました」


それ以外に答えは無い。何故みてわかるようなわかりきった事を聞かれるのかが、サフィーナには、不思議だった。


「…夜会に招待されているんだろう。何故、薬草をみていた」


だから、どうした?夜会に招待されてるから、薬草をみたらダメなのか?と問いたい気持ちになるサフィーナと、流石にそれは不敬だとも突っ込むサフィーナもいる。


何しろ、サフィーナを冷たい表情で射ぬいているのは、この国の騎士団、副団長にして王族でもある本日の主役であるフィニアスなのだから。


正直な所、サフィーナは、薬草をみていたらダメだったのか、フィニアスに問いたい。だが、問うたら不敬…その無限ループにはまりこんでいた。


「どうした?答えられないのか」


苛立ちを隠しもしないその声に、サフィーナも、つい…苛立ってしまい、質問に質問で返す。という業をはっきしてしまった。


「どうして、薬草園を見ては、ならないのすか?」


不機嫌な雰囲気がさらに増した。フィニアスの威圧的オーラは、膨れ上がるばかりだ。

だが、サフィーナとて、ただ薬草を見ていたことが、このように言われるのが、我慢ならなかった。


「…この夜会には、王太子や…私の婚約者を探すという意味も、あることを知らないのか」


いえ、知ってます。だからあれほど、街の娘さんたちが、色めき立っていたんだから。と、サフィーナは心の声で告げてみた。


「王太子や私だけでない。騎士団員達の出会いも兼ねている」


ええ、もちろん承知しておりますとも。王太子は無理、フィニアス様も無理…となれば、騎士団員の未婚者の片方との出会いを求めるでしょう。などとも、サフィーナが心の中で呟いても伝わるはずもない。


この国の騎士団員であれば、もともと貴族でなくとも、騎士団員として、一代限りの准貴族として、扱われる。准貴族になれば、交遊関係は平民よりも広がり、騎士団で功績をあげれば、領地を与えられ、貴族の仲間入りが出来るのだ。


でも、そんな事、サフィーナには、どうでもいいことだった。小さいながらも男爵家に生まれ、記憶持ちという他人から見れば気持ちの悪い存在であるサフィーナを可愛がって、なに不自由なく育ててくれた両親と、サフィーナを慕ってくれる弟や、使用人…。領地は、弟が継いでいくのも承知している。サフィーナ自身は、自身と一緒にいずれ領主となる弟を支えてくれる伴侶が見つかればいいと思っているのだ。だから、あえて必死になる必要性をサフィーナは、感じていなかった。


いや…ただ単に、夜会が面倒…というのが、一番の理由だと、一人ゴチていた。






花粉にくるしんでいます…。

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