TSしたから全力で満喫しようと思う~その後~
「ほら、早く起きろって! 仕事遅刻するぞ!」
私は、未だ布団に包まっている遼をたたき起こす。
「あと五分……」
「だーめ!」
「んじゃ、行ってきます」
「行ってらっしゃい! 待ち合わせ! 絶対遅刻するなよ!」
「おー」
気だるげな遼を見送る。今日は十二月二十四日。クリスマスイブだ。夜の七時に、遼の会社の近くの大きなクリスマスツリーで待ち合わせがある。クリスマスデートだ!
大学を卒業して二年が経ち、遼と付き合い始めてもう三年になる。この生活にも随分慣れた。
卒業と同時に、私は遼とアパートを借りて同棲を始めた。初めこそ慣れない生活に戸惑いもしたが、今じゃすっかり馴染んだ。
メールダヨ! メールダヨ!
「誰だろ? …………あ! ひよりんだ!」
メールの差出人はひよりんだった。
『あおちゃん! おはようですわ! 実はちょっと相談事があるんだけど……。今日は時間空いてるかな?』
相談事ってなんだろ?
ひよりんは、卒業と同時に昌也とめでたく結婚した。驚きの余り、抜け殻みたいになってる二人のご両親に向かって、『ざまぁみろですわ!』とか言っていたのが印象的だ。
正直、羨ましい程のおしどり夫婦だ。いや、訂正しよう。昌也が尻に敷かれてると言った方が正しいかな。
「えっと、洗濯と掃除と……あと食器も洗わないといけないから……。お昼からなら空いてるよ、と。送信!」
ひよりんにメールを返信して、私はさっそく家事に取り掛かる。
~遼side~
「はぁ……」
「ん? どうした佐渡。溜め息なんてついて。もしかして、フラれたか?」
隣に座る同期の山田がおちょっくてくる。
「そんなんじゃねーよバーカ。不謹慎だからやめろよ。さっさとその仕事終わらせて飯食うおうぜー」
適当に返事をしながら、俺はパソコンに向かう。
「なんだよ~。って、飯っつってもお前は愛妻弁当じゃねえかよ」
「愛妻じゃねぇよ! まだ、妻じゃねぇし……」
「そうかそうか! んで? 今日はクリスマスイブだけど、言うのか?」
「うるせー……黙って仕事しろ」
考えないようにしてたのに……コイツは……。
~葵side~
今日はクリスマスイブって事もあって、街にはカップルやらで溢れ返っている。
私はコートのポケットに手を入れながら、ひよりんとの待ち合わせ場所である、駅前の喫茶店へ向かう。
「ごめん! お待たせ!」
喫茶店にやって来た私は、ひよりんを見つけ席に座る。コートは椅子の背もたれに掛けた。
「私もついさっき到着したところですわ」
そう言ってひよりんはふわっと笑う。
店員さんがお水を持ってきてくれて、私はアイスティーを、ひよりんはブラックのコーヒーを頼んだ。
「で、相談って?」
さっそく本題に入ると、ひよりんは少し拗ねた様な表情になって話し始めた。
「最近……ご無沙汰なんですの……」
「ごぶさた? って…………な、ななな!?」
ご無沙汰の意味を理解した私は、今にも火を吹きそうなほど顔が赤くなるのを感じた。
「結婚した当初は……もう毎日のように――」
「わー! わー! ひよりん!?」
慌ててひよりんの話を遮る為に大声を出したけど……すっごい顔で周りの人に見られた。
「急になんですの? 何をそんなに顔を赤くして……ってそういう話じゃありませんわよ!?」
ひよりんも私がナニを想像したのか理解したようだ。
「私が言っているのは……その、全然構ってくれないって話で」
「な、なんだぁ……ビックリしたぁ……」
てっきりナニの話かと思っちゃったよ。
「話が逸れましたわね。で、結婚当初は毎日のように『日和は可愛いなぁ』とか『日和がお嫁さんで僕は幸せ者だ!』とか言いながら、頭を撫でてくれたり、ギュッてしてくれたんですの」
恥ずかしげもなく言うひよりんだが、聞いているこっちは恥ずかしいし、羨ましくも思う。
だって、遼は甘えて来ないんだもん。いっつも私が甘える方だし、甘えた時の対応も『おー、よしよし』って漫画片手に、くしゃくしゃと頭を撫でてくれる程度。本当は、ギュッてして欲しいし、もっと撫でて欲しいのに。遼は……私の事どう思ってるんだろう……。
「でも! 最近は、お仕事から帰ってくると直ぐお風呂に入って、ご飯食べて寝ちゃうんですの! 私との会話なんて、『おかえり』と『おやすみ』だけですわ!」
机をバンッと叩きながら、怒りを顕にするひよりん。
「そ、それはきっと疲れてるんだよ! 休みの日は構ってくれるんだろ?」
私がそう言うと、更に怒った表情になるひよりん。あれ? 私もしかして地雷踏んだ?
「そんなことありませんわ! 休みの日になると、朝から何処かに出掛けて、夜に帰ってくるんですのよ!? 私に連絡一つなく! 信じられないですわ!」
うひゃあ……ひよりんメチャクチャ怒ってるなぁ……。でも、昌也がひよりんに連絡もせずに出掛けるとは……想像出来ないな。
「あのさ、最近構ってくれなくなったって、何時頃から?」
「ここ一ヶ月ぐらいですわ」
あっれ~? なんか答えが見えた気がするよ~? ここ一ヶ月でしょ? で、今月は十二月。もうなんかさ、昌也が何をしてるのか大体予想出来たんだけど?
「あのね、ひよりん。多分……いや絶対大丈夫だよ。昌也は理由無しにそんな事する奴じゃないし、今日か明日辺りに理由が分かるんじゃないかな?」
きっとサプライズか何かを考えてるんだろうけど……流石にそれをひよりんに言う訳にはいかない。
「そう……ですわね。私、信じてみますわ」
「うん」
~優斗&夏希side~
「なぁ?」
「何よ?」
「昌也と日和は結婚したじゃん? んで、葵と遼は絶賛同棲中じゃん? 俺達もなんかしたくね?」
「付き合うってこと? それはないわー」
「だよなー」
「なぁ?」
「何よ?」
「結婚する?」
「恋人でもないのに? ないわー」
「だよなー」
「なぁ?」
「何よ?」
「お互いにさ、彼女と彼氏居るのにさ、クリスマスイブに何してんだ?」
「だってユウスケ仕事だもん」
「アイナも仕事だわー」
「なぁ?」
「何よ?」
「暇だな」
「暇だね」
「だよなー」
こんな感じで、ずっと優斗の部屋で漫画を読んでゴロゴロしている二人だった。
~遼side~
「ふぁ……ねみぃ」
昼飯を食い終わり、またパソコンに向き合ってるんだが……流石に目が疲れたし眠い。そういえば、弁当開けてみたらご飯の上に『夜七時に集合!』って海苔で書いてあったな……。どんだけ器用なんだよ。
チラリと時計を見ると、時刻は18時を示していた。
「ふぅ……さっさと終わらせないとな」
再びパソコンに向き合い、今日の分の仕事を終わらせにかかる。
こんな寒空の下、葵を待たす訳にはいかないしな。
~昌也side~
「大丈夫……プランは完璧だ……落ち着け僕……」
何度も自分に言い聞かせるようにブツブツと独り言を言う。
結婚して二年。日和にはいつもお世話になってるし、今日ぐらいはカッコつけたいと思って、一ヶ月も前から計画してきたんだ。名付けて、末永くお願いします! ドキドキッ!? ラブラブデート!
三日三晩考え抜いたネーミングだ。そして、一ヶ月掛けて練ったプラン。
「フッ……失敗する筈がない。ネズミ一匹通さない完璧なプランだ! 必ず成功させるさ!」
この時、昌也は日和の不安や怒りを知るはずもなく。ただただ、高笑いを上げる。
~葵side~
「そういえば……随分伸びましたわね」
ひよりんが私の髪の毛を触りながら、いいなぁ……とか言ってる。
「うん。今までで一番長いんじゃないかな? 立ったら腰まであるし」
「でも、お手入れが大変じゃありませんこと? 私はこの長さで手一杯ですわ」
自分の髪をクルクルしているひよりん。ひよりんの髪の長さは大体肩甲骨より下ぐらいだ。
「んー……どうだろ? 大変……なのかな? 慣れちゃったから何とも思わないよ?」
寝てる時に遼がたまに私の髪の毛をスンスンって嗅いでくるんだけど……それがくすぐったいけど、嬉しいんだよなぁ。それに、長いから寝返り打っても気にならないし!
そうこう話していると、ひよりんのスマホに着信が入る。
「昌也ですわ! あおちゃん、ちょっとごめんね?」
「うん、いいよ。あ、私ちょっとお手洗い行ってくるね」
そう言って立ち上がった私は、チラリと横目でひよりんを見る。なんだか、凄く嬉しそうにしてる。やっぱり、昌也が何か考えてたんだろうな。いいなぁ……私も早く遼に会いたくなってきた。
お手洗いから戻ると、ひよりんが興奮した様子で話しかけてきた。
「どうしたの?」
「昌也が! デートしようって! だから、今から行ってくる!」
言葉を覚えたての外国人みたいに片言で喋るひよりん。余程嬉しかったんだろうなぁ。
「うん! 行ってらっしゃい!」
会計を済ませ、ひよりんと別れる。時刻は午後六時半。
「ちょっと早いけど、先に待ってようかな」
待ち合わせの時間まで後三十分。ここからクリスマスツリーまで、十分程度だ。私は、ゆっくり歩いていくことにした。
~遼side~
「佐渡? 良いのか? この書類の対応してたら待ち合わせに遅れるぞ?」
「分かってる。だけど、これをお前一人に押し付ける訳にはいかねーだろー」
そう言いながら、内心焦っている。
突然舞い込んできた書類訂正の案件。どうやら、後輩がミスをしていたらしい。その尻拭いをさせられているわけだが……。
「まったく……後輩の奴、こういう時に限って休みなんだからなぁ。しかも今日中に終わらせないといけないから……はぁ、気が遠くなるな」
山田は文句を言いながらも、手を動かし続けている。俺も、なるべく早く終わらせるために、パソコンと向き合う。
ごめん、葵。約束守れそうにないわ。
そう、心で呟きながら。
~葵side~
「遅い」
今は午後九時。かれこれ二時間は待っている。何度も遼に電話をかけるが、留守電になっていて繋がらない。
「はぁ……何してんだよ……遼」
周りはカップルが溢れ返り賑わいを見せる中、私は一人空を見上げる。
「ばか……」
そう呟いて、視線を元に戻すと、小さな男の子が泣いているのが目に止まる。
「パパ~? ママ~? どこ~?」
どうやら親とはぐれようだ。私は男の子に近づいていく。
「ね、君。お父さんとお母さんとはぐれちゃったの?」
男の子の前でしゃがみ込み、安心させる為に笑う。
「うん……。あのね、パパとねママとね、お買い物に来てたんだけどね、いなくなっちゃったの……」
一生懸命説明してくれる男の子。
「そっか……。お姉ちゃんは葵って言うの。君の名前は?」
「ゆうた……」
「ユウタ君か~。カッコイイ名前だね! よし、じゃあユウタ君? お姉ちゃんと一緒にお父さんとお母さん探そっか!」
そう言うとユウタ君は顔を上げて嬉しそうにする。
「うん! あのね、パパはねすっごい大きいんだ! でね、ママはパパより小さいんだよ!」
「よし! じゃあ、すっごく大きい人を探せば良いんだね」
すっごい大きい人かぁ……私からすれば大体の人が大きい人なんだよなぁ……。いやいや! ここで弱気になっちゃダメだ! 絶対にユウタ君の親を探し出すぞ!
~遼side~
「少し休んだらどうだ? ほれ」
山田がコーヒーを買ってきてくれた。もちろん俺のはミルクコーヒーだ。
「ありがと。でも、休んでなんていられねーよ」
時計を見ると約束の七時は過ぎ、今は午後十時を指していた。
「もうすぐ終わるんだよ。だから、一気に片付ける」
「そっか……うし! 俺も気合い入れてやりますか!」
そう言って山田は上着を脱ぎ、ワイシャツの袖を捲り上げる。
「ありがとな山田」
「気にすんなよ! さ、終わらせちまおうぜ!」
「おう」
~葵side~
「どう? お父さんとお母さん見つけた?」
「ううん……」
本来なら、交番に行けば良いんだろうけど……街はカップルやらで溢れ返っていて、警察の人もそれどころじゃなさそうだし、何よりもユウタ君を一人にするのは可哀想だ。
「大丈夫! お姉ちゃんが絶対見つけてあげるから!」
ユウタ君を勇気づける為に、繋いでいる手をギュッと強く握る。
「うん…………あっ!」
急にユウタ君が声を上げて、横断歩道の向こう側を指差す。
「ユウター! どこだー!」
「ユウタ~!」
横断歩道の向こう側で、すっごい大きい男性と小さい女性がユウタ君の名前を呼んでいた。
「パパ! ママ!」
そう言って横断歩道の手前まで来て、ユウタ君は声を上げ手を振る。
「ユウタ? ユウタ! おーい! そこで待ってなさい!」
「良かった! ユウタ!」
どうやら見つかったみたいだ。横断歩道が青になるまでユウタ君と待つ。
「良かったねユウタ君。お父さんとお母さんが見つかって」
「うん! おねーちゃん、ありがとう!」
信号機が青になり、ユウタ君が走り出す。
横から走ってきているトラックに気付かずに。
「ユウタ!」
ユウタ君のお父さんがトラックに気付いて叫ぶ。
「え?」
ユウタ君は横断歩道の中間ぐらいで立ち止まってしまった。
もう、すぐそこまでトラックは迫っていた。
「ユウタ君!」
気が付いた時には、体が勝手に動いていた。
全力で走り込み、ユウタ君を抱えて向こう側へ飛び込む。
間一髪、スレスレでトラックを避けた私は、ユウタ君を抱えながら地面を転がる。
「ユウタ!」
「ユウタ! 大丈夫!?」
ユウタ君のお父さんとお母さんが駆け寄ってきた。
「いったた……ユウタ君、大丈夫? 怪我してない?」
転がった時に体を打ったのか、少し痛む体を他所にユウタ君の安否を確認する。
「うん……大丈夫。おねーちゃんは大丈夫?」
「うん! お姉ちゃんは強いから大丈夫!」
「本当にありがとうございました!」
ユウタ君のお父さんが頭を下げる。
「いえいえ、大したことはしてないので。ユウタ君、もうはぐれちゃダメだよ? はい、ゆびきりげんまん」
そう言って私はユウタ君に小指を向ける。ユウタ君も小指で私の小指を掴む。
「ゆーびきーりげーんまーん」
「うーそつーいたーら、はーりせんぼんのーますっ」
「ゆびきった!」
約束をして、ユウタ君の頭を撫でてあげる。
「本当にありがとうございました。ほら、ユウタもお礼言いなさい」
「おねーちゃん! ありがと!」
「バイバーイ!」
そう言ってユウタ君達は家族三人で仲良く帰っていった。
「ふぅ……ホント、ちゃんと見つかって良かったぁ」
にしても、ユウタ君のお父さん。本当に大きかったな……遼よりデカかった気がする。
そんな事を考えていると、後ろから走ってくる音が聞こえてきた。何事かと思って振り返ると、誰かに前から抱き締められた。
「葵!」
「ふぇっ!?」
その声は聞き慣れた声だった。
「り、遼!? いきなりどうした――――」
「バカヤロウ! あんな危ないことして……もしかしたら死んでかもしれないんだぞ!?」
抱き締められているため、遼の顔は見えない。
「な、なんだよ! 死んでないし、男の子助けたんだから良いだろ! そもそも、お前が遅刻してくるから悪いんだ! バカ!」
ドンッと思いっきり遼の胸を頭突きする。
「いって!?」
ようやく解放された私は遼から二、三歩離れる。
「今何時だと思ってるんだよバカ! もう十一時だぞ!? 約束の時間は七時だっつーの! 四時間も遅刻だ! 何してたんだよ!」
私は怒りに任せて言いたいことを言い切る。そして、何故か涙が溢れてくる。
「仕事だ! そんで、急いで移動してたらお前を見つけて……そしたらあんな危ないことしてて……。心配かけさせんなよ!」
遼も声を上げて反論してくる。
「うるさい! 仕事? 今日は早く終わらせるって言ってじゃん! なんでこんな時間まで掛かるんだよ! つくならもっとマシな嘘つけよ!」
「嘘じゃねーよ!」
遼はそう言って、泣き叫ぶ私に近付いてくる。
「うるさい! 聞きたくない! どうせ……私なんかより素敵な人を見つけたんだ……」
「葵!」
思いっきり強く、遼に抱き締められる。
「俺が……お前以外の奴を、好きになるわけないだろ……?」
さっきまでの怒鳴り声ではなく、優しい声音だった。
「だって……じゃあ……なんで約束破ったんだよ……」
涙を堪え、震える声で聞き返す。
「さっきも言っただろ? 仕事だよ。急に舞い込んできてな……今日中に終わらせないといけない案件だったんだ。だから……こんな時間になっちまった。ごめん」
更に強く抱き締めてくる遼。
「…………に?」
「ん? なんだって?」
「ホントに……ホント?」
私は涙が溢れてくるのを必死に堪えながら、遼の顔を見上げる。
「本当だ。俺はお前以外見えてないよ」
そう言って遼は顔を近づけてくる。
「ん……」
お互いの唇が重なり合う。
「はぁ……えへへ」
「なんだよ? 急に笑って、さっき頭でもぶつけたか?」
「な!? 失礼な! 私の完璧な受け身を見てなかったの!?」
やいのやいのと言い合いをする。
「あ、そうだ。葵? お前に渡したい物があるんだ」
「えっ? なになに!?」
遼がカバンから取り出した小さな小包。綺麗に包装されたそれを、ビリッと破く。
「おいおい、折角の綺麗な包装が勿体ないじゃんか~」
「葵」
急に真面目な顔になった遼を見て、思わず私も緊張してしまう。
「な、なに?」
「あの……これ」
そう言って差し出された箱。
「え? なにこれ?」
「いいから、開けてみろ」
そっぽを向きながら遼は言う。
「えっ……うそ……これって……」
箱を開けると、中には指輪が入っていた。
「はぁ…………すぅ……葵! 結婚しよう!」
大きく深呼吸をした遼は、そう言った。
「けっ……こん……? えっ? 待って! まだ状況が理解出来なくて……えっ? えっ?」
戸惑う私に構わず、遼は抱き締めてくる。
「あ、えと……いいの?」
ドキドキしながら、私は遼を見上げる。
「お前以外、有り得ない。もう一回言うぞ? 結婚しよう葵」
その言葉を聞いた途端、目から涙が溢れ出した。
「あ……くっ…………お願いします!」
遼の服をギュッと握り締めて、私は震える声で答える。
「落ち着いたか?」
「うん、ありがと」
人気の無くなった街のベンチに二人で腰掛けている。
「えへへ……」
私は左手の薬指に嵌められた指輪を見て笑う。
「なんだよ?」
「嬉しくってさ……こうやって、遼と一緒になれて。遼の隣に居られて」
そう言って私は遼の肩に寄り掛かる。
「そっか……。葵、絶対幸せにしてやるからな」
「やだ」
「なっ!?」
驚く遼を他所に話を続ける。
「私だけ幸せになっても意味無いもん。『一緒に』幸せになるんだよ?」
にへらっと笑って遼を見る。
「あ! 雪だ!」
空を見上げると雪が降ってきていた。
「ホワイトクリスマスだな」
そう言う遼に対して私はちょっとイジワルをする。
「イブだけどねっ」
「うるせー。一緒だろ」
そう言って遼は私の頭を撫でてくれる。
「ね、遼?」
「なんだよ?」
「愛してる。これから先も、ずーっと!」
「そう言えば……なんで電話出なかったんだよ?」
「は? 電話? ……あ、電源切れてた……」
「このやろぉぉぉぉ!!!」