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14.馬子にも衣装?

 


 週末。午前は休日出勤をして月曜までに必要な資料を仕上げた。

 いや〜休日に仕事をするなんて気が重いのなんのってね…朝起きるのが億劫で仕方ない。なんなら昨日は金曜の夜だと言うのにまるでテンション上がらなかったよ。


 午前頑張ったので午後からは存分に休日を謳歌したいと思う。


 本当はね、悠真くんとどこかに行こうかって話をしてたんだけど、今日は急遽予定が入ったみたいでまたの機会にしようってことになったの。「ごめんね舞さん」ってしょんぼり謝る悠真くんの頭には垂れ下がった耳が見えるような気がした。結局私も出社しなきゃいけなくなっちゃったし、今回はいろんな意味でしょうがなかったな。


 そんな自分を納得させる文言をあれやこれやと並べつつ、仕事道具を片付けた。




 さて、エントランスホールを通りかかった時だった。


「舞ちゃーん!」


 ぽふっ


 後ろからタックルされた。嘘。抱きつかれた。

 確かこの前もここで人に捕まった気がする…嫌な予感しかしない。もう既にこの時点で頭が痛い…


「舞ちゃん発見!」


 ひょっこり肩越しに菫が現れた。

 うん。知ってた。

 何を隠そう、仕事終わりに菫に待ち伏せされて捕まったことは一度や二度では無い。

 ちなみにこの光景を見ている他の社員には「松原さんに抱きつかれるなんて羨ましい」という目で見られる。というか実際言われるのである。切実に替わって差し上げたい。


「菫今日は休みじゃないの?なんでいるの?」


 そう聞きながらも帰ってくる答えはろくでもないものだろうと今までの経験から脳が信号を発している。


「私は休みだよ!でも舞ちゃんと遊ぼうと思ったから待ってたの。ちゃんとメッセージも送ったよ?」


 本当か?さっき見た時は来てなかったと思うんだけど…

 そう思って通知を確認すると、来てた。それも1分前に『下で待ってるよ!遊ぼー!』って…


「1分前!?それは連絡したうちに入らないでしょ!?」


 思わず突っ込んでしまった。いやいやいやいや…


「え、でも連絡はしたもん」


 かわいい顔してさらっと言う菫。

 明らかに計画的犯行でしょ…はぁ…なんかもう、疲れたわ。


 元々は悠真くんとデートする約束をしていたわけだし、危うくまた謎の『三人でお出かけ』なんて事態になりかねなかったわけです。

 無理、あの時はまだ悠真くんとも知り合って少しだったわけだし過去のことだし水に流す。でもさすがにもう同じようなことにはなって欲しくない…


 まあ、そう考えると残念だけど、残念だけども!悠真くんとのお出かけがキャンセルになってまだよかったのかも知れない…うん。そういうことにしておこう。

 無駄に自分を納得させる言い分を追加されることになるとは…


「はぁ…」


 ため息の1つもつきたくなりますよ。


「あのね、私これから用事があるの。だから菫とは遊びにはいけない」


 そうなのだ。ここは菫のペースにのまれている場合ではないのである。


「用事って?」


 小首を傾げじっと私を見つめる菫。


「用事は…用事は、買い物よ」


 ここで馬鹿正直に答えてしまう私も私だと思う。だけどもうパブロフの犬じゃないけど、菫の小首傾げからの直視には耐えられないの…


「わ!偶然だね!私も今からショッピングしたいなって思ってたんだ〜

 よし行こう!」


 パァッと明るく目を輝かせたと思ったらそう言って私の手首を掴み、トコトコと歩き出してしまった。


「……」


 もう何も言うまい…

 とりあえず買いたいものが買えればそれで良いもんね。

 完全に諦めの境地に達した私は、大人しくついていくことにした。

 こんな風に連れ回されるのは小さい頃からずっとだからもう、慣れよね。




 さて、おしゃれなカフェでランチをした後、足取り軽く進む菫に引きずられるようにしてやってきた先はとあるデパートだった。


「ねえ、菫は何買うの?多分だけど私と菫のお目当てのものは違うんじゃないかと思うの。だからここは別行動して後で待ち合わせしない?」


 最後の足掻きとばかりにダメ元でそう聞いてみたものの


「舞ちゃんは何買うの?」


 と質問を質問で返されて


「今日は服でも見ようかと思ってたけど…」


 馬鹿正直に答えてしまい


「私もだよ〜一緒に行こう!」


 とあえなく撃沈したのであった。

 ほら、デートとかする時にさ、かわいいお洋服が欲しいなってとっても女子らしいことを思ったわけなの。

 いや、我ながらすごく恋する乙女っぽい思考で恥ずかしくなってきたな…うん。だけどこういう気持ちも悪くないというか…今まで感じたことのない感情に出会えることはいいことだと思うから良しとしよう。



 と、自分の思考に照れていた所、気がついたら婦人服店が集まるエリアに着いていた。

 菫は早速あれやこれやと服を物色し始めていた。


 しばらくすると、


「見てみて!これすごく可愛くない?」


 と声をかけられた。

 菫はセンスもあるし自分に合う服を選ぶのがとてもうまい。体に当てているその服も菫によく似合いそうだった。


「うん。可愛いと思うよ」


 素直にそう伝えると、菫は花が咲いたように笑った。

 うぅ…か、可愛い…これは可愛い…と長年一緒にいる私ですら思ってしまう…


「やった!じゃあこれは買おう」


 すみませーん!と店員さんを呼ぶと手に持っていた服を預けてしまった。


 即決。早いよ…しかもここのお店の服どれもお高いじゃない…

 即決できる財力〜〜!

 菫は所謂良いところのお嬢さんで、株やらなんやらのあれそれでお金もそれはそれは持っていらっしゃるわけです。

 顔も可愛いし男女共に人気だしその上お金まであるなんてまるでお姫様だよね!まあ、私に対する行動が酷くなければ完璧にお姫様だと思うわ。


 それに比べたら私はなんて平凡なんだろう。考えれば考えるほど普通すぎる己のスペック。菫だけじゃなく篤や明も半端ないからな…

 比べるだけ無駄だと今は思えるけど、劣等感を感じたりそういう風に感じてしまう自分が嫌になった時期もあった。



「ねね、これ舞ちゃんによく似合うよ!」


 気がつけば、そう言って私の体に花柄でラインが綺麗に広がるスカートを当てる菫。


「でも普段こういう可愛い服あんまり着ないから…」


 柄物と言ってもストライプくらいで花柄は普段あまり着ない。


「もー。私はいっつもオススメしてるんだけどなぁ」


 そう、菫と買い物に来ると大体こういう可愛い感じの服を勧められるんだよね…

 菫には似合うけど私にはどうもこういう服は似合わないんじゃないかと思うんだよね。


 と、言うのも小さい頃珍しく裾にレースがついたスカートを穿いたことがあったんだけど「なにお前、そんなひらひらしたのお前には似合わないぞ」だの「え、どうしたの?何かあった??」だのむかつく顔で言われたことがあってだな…誰が言ったのかはご想像にお任せしますけども!

 大体「どうしたの?」って酷くない???

 どうしたもこうしたもの何もないわ!私に言われても知らんわ。母に勧められたんだよ!!!

 まあ、でも小さな私はその言葉がぐさっと刺さったわけですよ…それ以来スカートすらあんまり穿いてなかったな…

 中学生になって制服でスカート穿く様になってから私服でもシンプルなスカートとかは穿く様になったけども…



 しかし、だ。改めて鏡の中の自分を見つめてみると案外似合わないこともないのではなかろうか?

 悠真くんとお出かけする時にこんな服を着てたらなかなかに良いのでは??

 うーん。

 よし!


「買う」


 買いましょう!ちょっとお高いけどここは買いましょう!!


「え!?私が勧めといてなんだけど、本当に!?舞ちゃんが私のおすすめを買ってくれるなんて嬉しい〜」


 大きな目をもっと大きくパチクリさせたあと菫はそう言って笑った。


「じゃあさ!こっちのトップスもどうかな?このスカートに絶対似合うよ!」


 素早く新たな服を手に取る菫。勢いがすごい。いつもの3倍くらいの圧を感じるよ。


 どれどれとその服を見てみると、なるほど可愛い。スカートよりも甘さ控えめな感じでバランスが取れてて良いのではないだろうか。


「じゃあこれも買う」


 その後は「舞ちゃんの気が変わらないうちにお会計しよう」と菫に背中を押され、あれよあれよと言う間にショップの袋を腕にぶら下げていた。


 うん。今日のミッションはクリアしたね!





「あ!そうだ!舞ちゃんこっちこっち」


 何か思い出したらしい菫に次に連れて行かれたのは、


「……」


 ドレスがズラーーっと並んでいるお店だった。

 いや凄いね!?数回こんな風に連れてこられたことがあったけど何度見てもここは別世界だ。


「私今日はパーティー用のドレスを買わないといけなかったんだよね」


 そう言ってお店に足を踏み入れる菫。慌ててついていくと店員さんが声をかけてきた。


 菫は店員さんと手短に話した後、ドレスを持って試着室に入ってしまった。

 正直取り残された感が半端ではない。大人しく試着室前のソファの隅に座って待っていた。


 しばらくして、試着室の扉が開いた。中から薄紫色のドレスを着た菫が出てくる。

 いや、めちゃめちゃ可愛いなおい。


「どうかな?」


 ふわりと一回転しながらそう言う菫は本当にお花の妖精か何かの様に見えた…完全に幻覚である。


「うん!すごくよく似合ってるよ!」


「えへへ〜」


 はにかむ花の精、じゃなかった菫は鏡で全身をチェックすると満足げに頷いた。

 そして私に目線を遣すと


「舞ちゃんもお揃いの着よう!」


 と言った。


「え?」


 この子はなにを言っているんだ??


「すみませーん!水色の私が来ているのと同じドレスをこの子に試着させてください」


 私がなにも言えないうちにあれよあれよと試着室に押し込まれていた。

 このまま着ないっていうのは店員さんにも悪いし…よし、着るか!



 その後、


「舞ちゃんどう?着れた?」


 そう言ってドアノブに手をかける菫。おいおい〜もしまだ着替え終わってなかったらどうしてくれるのよ。とは思ったけど安心してください。ちゃんと着れました!


 ガチャリと音がして菫が入ってきた。


「わ〜いつもと違って舞ちゃんすごく可愛いよ!」


 目を輝かせてそう言う菫。

 いつもと違って、ってどう言う意味かな〜?ん〜?いつもは全然可愛くないみたいな?そう言う意味??もしかしたら、万が一素直に褒めてくれてるのかもしれないけど、同じドレスをめちゃくちゃ可愛く着こなしている菫に言われても「いやいや、菫の方が可愛いですけど???」とか思ってしまうんだよ。

 卑屈な考え方だなと思わなくもないけど。


「うーん。でもなんかちょっとこう、違うというかこれじゃない感じがしなくもないな」


 顎に手を添えて首を捻る菫。

 聞きましたか皆さん!これじゃないってなんやねーん!

 この様にわりと今でも貶されることがあるんですよね。それも息をする様に自然に…

 うん。そりゃコンプレックスも感じちゃうよねしょうがないしょうがない。


「はいはい。わかったわかった。もう脱いじゃうから出ていってね〜」


 これ以上ボロクソ言われるのは精神衛生上よろしくないので試着室から菫を追い出した。

 1人になってもう一度鏡を見てみる。可愛いドレスを着た疲れた顔をした私が映っている。私と菫が着てるドレスって色違いなんだよね???着ている人が違うとこうも見栄えまで変わってくるのかとしみじみと実感した。




 その後もなんやかんやと引っ張り回され、家に着いた頃には疲れ切ってとりあえず布団にダイブしてしまった。

 お疲れ自分。今日はよく頑張りました!

気がつけば2話続けてヒーロー不在でした。

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