1.口は災いの元とはよく言うもので
「私にだって彼氏ぐらいいるわ!」
あー。言っちゃった…やらかしちゃった。酔ってたのが悪い。カクテル甘くて美味しいからグビグビ飲んじゃったのが悪かった。だって飲み放題だったんだもん。飲むしかないじゃん?元取る勢いで飲むしかないじゃん?
私、絶賛焦ってます。時を巻き戻したい。ついイライラが爆発して大嘘ついてしまった。
「え、舞ちゃんそれ本当!?なんで教えてくれなかったの?私達って親友だよね…ひどい!」
「はっ!
嘘つくんじゃない。お前なんかに彼氏がいるわけないだろう!」
「うーん。どう考えても舞に恋人がいるとは思えないな。もしかして妄想?」
待って、順番に言いたいことがある。
まず最初に発言した松原 菫!私、あんたの親友なんかじゃない。そんなんじゃない、ただの腐れ縁だわ!
次に、安藤 篤!お前なんかとはなんだ!失礼だろうが!!
最後に日野 明!あんたが1番ムカつくわ!妄想ってなんだよ!私はそんな変態じゃない!妄想ではなくただの真っ赤な嘘だよ!!
「ふっ。驚いたみたいね!嘘じゃないんだから!私には愛するダーリンがいるんですぅ。そう言うことだから私はもうあなた達とは一切関わりませんので!」
嘘です。ダーリンなんて存在しません。存在したことありません。いないけど!ここで引いたら負けだ!見栄を張るんだ!!嘘だとバレなきゃ良いんだ!
今こそハッタリをかます時だ!
「そんな…舞ちゃんに彼氏がいるなんて…」
菫が泣き出した。やめてよ。泣かないでよ。ほら、篤と明がこっち睨んできてるんだけど。
「おい!菫のこと泣かせてんじゃねーよ!」
うるせー。菫に関しては過保護だよね。菫バカは黙ってろ!
「どう考えても舞の妄想だと思うけど本当にいるなら僕たちに会わせてね。」
「何?疑ってるの?良いわよ、会わせてあげるわよ!」
「わかった。じゃあ明日、ちょうど土曜日だし会わせてね。皆んな、僕の家に13時に集合してね。」
そう言って3人は去って言った。
しかし私は頭の中で警告音が鳴り響いていた為、その場を動くことが出来なかった。
あぁ!!!彼氏を会わせる約束をしてしまった〜いない彼氏をどうやったら会わせることが出来るんだよ!無理だろ!!
現在、会社の飲み会が終わり21時を過ぎたところです。明日の13時までに彼氏用意しなきゃだよ。
無理だよ。私今までの25年間の人生で恋人なんか1人もいないんですけど!!
でも、嘘ついたのがバレたら絶対絞められる。どうにかして解決しなきゃいけない。
酔いが回って正常に思考できない私にはなんの策もひねり出せそうにない。
そもそもあっちが私の事を散々バカにしてきたのが悪いんだよ。
あれは毎年我が社でやっている夏の飲み会も終わり、さぁ帰ろうと思った時だった。
菫が私を見つけたらしく
「舞ちゃん!今日の飲み会、席遠くて全然話せなかったね…寂しかったよ〜」
と言ってやってきた。そう、3人とも同じ一流企業、A&Dの同期である。菫は秘書、篤と明は営業だ。3人とも同期の中では目立つ。
ん?私?私は総務ですよ!課長も部長もいい人たち!先輩にも恵まれている素晴らしい職場です!
最近、可愛い後輩も出来てますます仕事が楽しいです!!
さて、ここで目立つ3人を御紹介しよう。
まず、菫は可愛い。守ってあげたくなるタイプの女の子だ。しかも天然で女子にも好かれる。
次に、篤と明は営業部のホープだ。篤はワイルド系イケメン、明はインテリ系イケメンだ。女子にモテるのはもちろん、男性にも仕事が出来ると一目置かれているらしい。将来有望らしい。
実は、そんな3人と私は所謂幼馴染だ。だが、私は認めない!ただ実家が近いだけだ!!
私の家 / 篤の家 / 菫の家 / 明の家
とお隣さん同士なのだ。それだけの関係なのだ。そうだと思いたい。
私達4人で幼稚園から高校、はたまた就職先まで一緒だとか嫌すぎる。大学はなんとか別のところに行けたのが唯一にして最大の救いである。
この3人、私の事をパシリだと、都合の良い便利係だと思っている。
菫は私の事を親友だとかなんとか言ってるが、違う。だって親友って対等な関係なはずだよね?後の2人には完璧にパシリだと認識されている。
例えば、高校生のとき菫が
「私、このお店のケーキ食べてみたいな〜でも、朝早くから並ばなきゃ行けないみたい…舞ちゃん、買ってきて欲しいな!」
とか言ってきたので断ったら。
「舞ちゃんは私の事嫌いなの?」
とか言ってポロポロ泣き出した。それをみた篤と明が
「おい!お前、何断ってるんだよ!素直に買いに行って来い!」
「そうだね。舞はお使いが大好きだもんね。もちろん引き受けてくれるよね。引き受けてくれないんだったら、学校中に舞が菫をいじめてるって言いふらすよ。」
とか言ってきた。脅しだよ。パシられたいなんて思ったこと一度もないわ。でもそんなこと言われた日には私の学校生活終わるわ。それは困るので仕方なく買いに言った。
あれは8月の熱い夏の日であった。休日の朝6時半から2時間も立って待ったのだ。クソ暑かった。いくら朝早いって言っても夏は日が長く太陽光がバシバシ当たる。
私が炎天下の下にいるっていうのにあいつらはエアコンの効いた部屋で寝ているのかと思うとめっさイラついた。
こんな感じに私はいつも菫のわがままをしかなたく聞いているのだ。脅すなんて最低よ!!
わかっていただけただろうか、私と菫は対等ではない。むしろ格差ありまくりだ。親友なんてとんでもない。私は菫の侍女か何かなのか?
でもさ、今までこの無茶振りに耐えてきたんだよ!自分でもすごいと思うもん。
そして、例に漏れず今日も菫に頼みごとをされたのだった。
明日、お気に入りのショップで売ってる期間限定のキーホルダーを買ってきて欲しいと言うのだ。
ふざけるな。自分で買って来い。明日は土曜日。私だって休日は休みたいのだ。
「悪いんだけど私、明日は用事があるから無理だよ。」
これは嘘じゃない。ワンルームアパートを借りて一人暮らししているので部屋の掃除だとか買い物だとかするのだ。
ちゃんと断ったのに
「は?お前の用事より菫の用事の方が大事に決まってるだろ?
つべこべ言わずに言って来いよ!」
とか篤が言ってきた。は?そんなに大事な用事ならあんたが行けば良いんじゃない?
「無理。どうしても外せない用事なの!」
そうだよ!平日は忙しいからあんまり家事できないんだよ!休日に溜まったぶんやっとかないと困るんだよ!!
「外せない用事?それってどんな用事なの?もしかして彼氏とデートとか?」
と今度は明が口撃してきた。こいつ、私が年齢イコール彼氏いない歴だと知ってのセリフだな。ムカつくわ〜
「明、冗談きついぜ。こいつみたいな奴は一生独り身なんだよ!」
と篤に言われた。その瞬間私の中で堪忍袋の緒が切れた。
「私にだって彼氏ぐらいいるわ!」
思わず口走ってしまっていた。
こうして冒頭に繋がるのである。
いや、だって腹立つじゃん。私の事を都合の良いパシリにする挙句、数々の暴言。もう許せない。いつまでも脅しに屈すると思うなよ!
と、啖呵切ったわけですが正直びびってます。嘘がバレたら、さらに脅されてこの先一生パシられる人生が待っている気がする。
出来る事なら発言を取り下げたい。だけど一度言ってしまった事は無かったことにはできない。詰んだわ。
野垣 舞、25歳。人生最大にして最悪のピンチに立たされてしまった。
すみません!
どっかに彼氏落ちてませんかー???