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母の再婚相手は竜王様でした  作者: 煮詰めたシャープペン
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01


31歳、女、未婚。

恋人なし。恋愛経験極小。

所謂、喪女。非リア充。


これは私のことだ。

いや、私のことだった、方が正しい。


私は死んだ。

そう亡くなった。生を全うした。

人はいつか死ぬ。

病気でも事故でも寿命でも死ぬのだ。


しかし私は生きている。


母子家庭で育った3歳、幼女として輪廻転生というものを信じた事も疑ったこともないけれど自分の身に起るとは考えてもしなかった。しかし私は生きている。


「カリエ逢って欲しい人がいるの」

「ほしーひと?」


母が働いている間、私は母の腰にロープで繋がれ半径1メートル以内にいる。虐待という人がいるかも知れないが母に身内は居ず頼る人間もいない。そんな中で子供を育てるのは難しい。ここに託児所という制度もない皆、家で子供を育てている。外に出て働かなければならない母親はたまに大木に繋がれている子供もいるが皆このスタイルだ。母が私を寝かし付ける夜誰かに逢いに行っていたのは知っていた。恋人が出来たらしい。そして私と対面させたいという事は再婚も視野に入れているということだ。母が望むなら余程の人でない限り反対する気はない


「こんにちわ。カリエス。やっと会えた。私はエリアーシュ、これはパウリーナ」


膝を折って私に話しかけてくれた男性が母の恋人エリアーシュから紹介された男児。いや青年は彼の息子だという。まさか連れ子同士だったとは驚いた。母が良いなら私は構わないが私達親子と違いこの寂れ古ぼけた居酒屋というこの場に馴染むように着崩しているが身形がとても良い。立ち振る舞いに気品がある。煌びやかな2人を入れてしまった居酒屋を不憫に思った。


「旅の途中で君のお母さんに逢ってね一目で恋に落ちてしまったんだ」


そう言いながら微笑むエリアーシュさんは母のことが大層好きなんだと判った。とても優しい目で母を見ている。母の見る目は信頼していたけれど少し安心した。この人なら母の事を大事にしてくれそうだ。隣にいる青年をみると色素の薄い肌に赤い瞳が印象的な目が私を見下げた


「カリエスは仲の良いお友達はいるのかな?」

「おともだち?」


母の腹から出た時から自我を持ち続けているから本来は歳不相応な会話が出来る。しかし私はそれをやらなかった。母が困るからだ。これ以上困らせる事は大人だった私はしたくはなく子供らしく演じた。子供という年齢を超えれば好きなだけ大人として振る舞っていけるし苦にはならない。ただ若干、転生前の性格を引き摺り感情の起伏が激しくなく淡泊だ。


「リューしゃんとネコしゃん」


義父が知りたかったのは人間の友達だったのだろうが日々母の腰と腰で繋がっている身分では友達というものは居らず母が作ってくれた竜と猫の縫いぐるみを彼の前に差し出す。母は苦笑いして事情を話し義父が縫いぐるみ達を可愛い褒めてくれた。


「竜が好きなのか?」

「うん!」


今まで口を閉ざしていた青年が見下げたまま初めて話しかけて来た。今まで兄弟が居なかったのに突如現れた未知の生命体に戸惑いを覚えるのは当然のことと言える。この初めて発せられた言葉に大きく頷く。


「あ。ネコしゃんも好きよ」


思い出したように膝の上に乗っているネコの縫いぐるみを抱きしめる。あざといという莫れこれは余生術だ。3歳児、幼女の生せる技だ。可愛いと思わせて加護欲をかき立たせ私の生きる糧とする。


「竜に逢った事はあるのか?」

「リューしゃん?いるよ?」


縫いぐるみを義兄になるであろうパウリーナ青年に持ち上げて見せると縫いぐるみの頭と私の頭を不慣れな手つきで撫でた。それから暫くして私と母は住み慣れた土地を離れ大平原に来ていた。


「ここどこぉ?」

「レーヴムコ平原よ」


母のは貴重品と言ってよいべきか衣服類が詰まった袋を背負い私を抱っこし今まで乗った事が無かった馬車に乗り辿り着いた先が駄々広い平原だった。母は此処で誰かと待ち合わせてしているらしい。人通り以前に人が居ない平原で誰を待つというのだろうか。


「カリエの父様になるエリアーシュと兄様になるパウリーナを待っているのよ」

「とぉさま?にぃさま?」


あの居酒屋での顔合わせ以降エリアーシュには逢って居ないがパウリーナは2度程逢った。持参して来た竜の描かれた絵本を読んでくれた事を思い出しているとヴァサヴァサとシーツが靡くよりももっと強い音と風が聞こえ晴天だった空が急に暗くなった。


「ヘルダ待たせな」


風が止むと目の前に大きなドラゴンが母に詫びた。その声はエリアーシュにそっくりだが目の前にいるのは人間ではなく青い鱗の竜だった。この世界に竜は私が知らないだけで当たり前にいるのだろうか。母は全く動じていない。


「父上。ご冗談はその辺りになさって下さい」


声が聞こえた時には母の腕から声の持ち主であるパウリーナの腕の中に私は移動していた。母は淑やかに笑い私の頭を撫で青い竜の横から現れたエリアーシュと口づけを交わした。


「リューしゃん?おはなし?」

「……父上が後ろに隠れ話していたのだ」


呆れた声で実父を非難するもエリアーシュは全く悪びれた様子もなく私の頭を撫でた。私達と待ち合わせしていたのは父子だけだと思っていたが次第に風と羽根音を平原に響かせ何十頭もの竜が降り立ち背格好は人間だが全身を鱗で覆われ首から上が竜の頭の人達が姿を現し跪いた


「現竜王エリアーシュ様の妃ヘルダ様そして姫となられるカリエス様、我々竜人一同歓迎致します」


どうやら母の再婚相手は竜の王様だったようです。馬車ならぬ竜車に乗りやって来たのは竜王が住まう城。ここに母と私も住むらしいです。母には幸せになって貰いたいと城を見上げながら思いました。


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