これだから女はキライだ
8話目投稿です。ブックマークありがとうございます!
今、体育祭編を書いております。18話目、19話目ぐらいからはじまります。それまでは、佑都について少しずつ知っていく話になります。個人的に、雄三氏が好きです。
さかのぼること10分前
あわただしく調理をする雄三氏と佑都。一緒に厨房にはいる中で阿吽の呼吸が出来ていた。
目で会話ができるようになり、料理を提供するスピードが上がり続けている。
チラ!(唐揚げ5つ!皿に!)
チラ!(了解しました!レモンも出しておきます!)
開店してからずっと料理をしていた雄三氏に不幸が舞い落ちる。
チラ!(佑都!すまん、限界だ!)
チラ!(…生理現象はしょうがないです。早く帰ってきてください!)
雄三氏は厨房を脱け出し、一目散にトイレに駆け込む。
「く、プロなんだから開店前にトイレに行ってけやゴラ!って言えると楽なんだけどな!」
雄三氏が抜けた穴をカバーしようと、佑都は奮起する。いつもより思考を巡らせ、手早く料理を作って作って作りまくっていた。
「ゆーとぉ~!!助けて!!」
汗だくになりながら料理をする佑都のもとに、絢香は助けを求めた。
見ると、丸坊主頭にタラコ唇の男が絢香に迫っていた。店内のお客は、我関せずの姿勢を取る者と視線を佑都に合わせ、『ちょっとぉ!助けなさいよ!』と、高慢ちきな信号を送る者がいた。
いつもなら、いかつい雄三氏が出ていって場をおさめるのだが、今はいない。
(もー。こんな忙しさ時にナンパされるなよな!するほうももっとTPOをわきまえろよ!てか、店長トイレながいよぉぉぉ!)
絢香からしたら、いつも通りの接客をしただけなので理不尽な言い分である。
その頃、トイレの中から低い声のうめき声と、時折『すまん』という言葉が発せられていたが、幸いにも誰にも気づかれていなかった。雄三氏の威厳は保たれたままだ。
火をとめて、料理を出すカウンター横を抜けて絢香のもとへ急ぐ。
「お客様申し訳ありません。うちの店員になにか不手際でもございましたでしょうか。」
お客様なので、丁寧に対応しようとした。絢香がなにか言っているが、無視だ。自分自身の目で見たことだけを信じるようにしているのだ。
「あぁ?絢香ちゃんとデートの約束をしてたんだよ!邪魔すんな!」
突然現れた厄介者を手で『あっちへいけ』とばかりにジェスチャーをしている。いつもなら雄三氏の顔面にビビり、立ち去っていくのだが、威嚇になりそうもない顔面の佑都だ。なめられているのだ。
「……当店は、そのようなサービスをしておりません。店員は料理を提供するだけの仕事です。当店は定食屋です。料理をお楽しみください。」
「こんな可愛らしい服を着て、ナンパは禁止ってか!!それは違うんじゃないかい?」
ニヤニヤしながら絢香と佑都を見る。
『どや!論破したった俺!』と自画自賛をしている顔だ。
ちらりと絢香を見る。
メイド服のように短いスカート。汗で若干透き通った白のTシャツと、布越しにみえるピンクのブラジャーと谷間。
(確かに、この格好はそそっているな。後で絢香には注意しよう。)
「それによ!お客様は『神様』だろ!お客様のリクエストに応えるのが普通なんじゃないの!?」
こことぞばかりに佑都に正当性を主張する。
佑都は一気に頭に血が上り、厳しい表情と冷たい声になる。
「お客様は『お客様』だ。勘違いするなタコ頭。」
「な!?」
「金はいらない。今すぐ店から出ていきな。お前は客じゃない、タコ頭。」
ゆっくりと近づき、威嚇しながらタコ頭の立ち寄る。その迫力にビビったのか、佑都に背を向け逃げようとするが、いち早く佑都が羽交い締めにした。
そして、店の前に出ての騒ぎである。
「ゆーとぉ!」
店の前に出て、タコ頭とにらめっこをしている佑都に絢香は駆け寄ろうとする。
「こっちにくるな。絢香は『お客様』に料理を出しておいてくれ。出来てる分だけでもな。あと店長呼んで来てくれ。任せたぞ。」
「わかったぁ~!!」
店の中へと入っていく絢香。
舌打ちをして佑都を睨み付けるタコ頭。頭の中で反撃を考えているようだ。
「口コミに書くぞ!」
「…なに?」
「ネットにボロクソ書くぞ!それでもいいのか!良くないよな?なら黙って絢香ちゃんを連れてこい!」
(営業に支障が出るのはまずい。かといってこいつは客じゃない。ネットの影響もバカにできないし、どうするか。)
佑都の反応をみて、ニヤリとするタコ頭。ニヤニヤしながら佑都に命令をする。
「かまわん!書くなら書け!」
後ろを振り向くと、雄三氏が仁王立ちで雷神のような顔もちで睨んでいた。
「そんなことで潰れるならとっくに潰れてる。お客様もバカじゃない。気にするな佑都。」
「了解、店長。」
一気に形勢が不利になったタコ頭は逃げ出そうとするが、佑都が捕まえる。
「おい。どこにいくんだ。まだ話は終わってないだろ。」
首根っこをつかみ、地面に正座をさせる。
「身分証を出せ。」
「な、なんでそんなことを」
「店長はああ言っているが、実際にやったら、僕が許さない。徹底的にお前を追い詰めてやる。だから、お前の名前や住所が知りたい。別にいいだろ?絢香に教えるつもりだったんだしな。」
「……」
「安心しろ。タコ頭が変なことをしない限り、使わない。これは約束する。
飲食店は信用が第一だからな。」
渋々、身分証を出すタコ頭。佑都はそれを一目みて記憶する佑都。
用がなくなったタコ頭に帰れと命令をして騒ぎは落ち着いた。
「やれやれだぜ」
背後から佑都の肩に手を置き、労う。
「…なんでそのネタを店長が言うんですか…」
僕の背後にいるのは雄三氏なのか?とツッコミたいが、身体がそろそろ限界を迎えていた。
「手は洗いましたか?」
「あ、スッカリ忘れてた!がははは!」
「僕はシャワーに行きますので、あとはよろしくお願いいたします。」
痒くなっていく身体を感じながら、早足でシャワーに向かう。絢香は今すぐにでも御礼を言いたかったが、『お客様』を任せられたのだ。後回して今は仕事に集中をする。
ありさと優香は一連の騒動を固唾を飲んで見ていた。
「宮沢くん、カッコ良かったね!」
優香は興奮が収まらないのか、ありさをバンバン叩いている。
「う、うん。」
ありさも宮沢佑都の姿を目で追い、動悸が早くなっている自分を感じていた。顔が赤くなっているのを優香は見逃さない。
佑都は急いで冷たいシャワーを浴びた。頭からシャワーを浴び、下の排水口に集まっては流れる水を見ていた。
(はぁ…疲れた。)
(また、便利なことをしちゃったな…)
佑都の記憶がフラッシュバックする。
(これだから女はキライだ…)