表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

短編小説

リアルスキルオンライン?

作者: 黒田明人

加筆修正をすると、文字数が倍になりました。

   

 西暦2384年、仮想暦68年発表のこのゲーム。


 近年になく超リアルな体験が出来るとβテストの面々はサイトに掲載しまくった。

 それを受けて予約申し込みが殺到して1ヵ月後、いよいよ本サービスに至り、派手な人数の参加者を得て始まった。


 本サービスの感想を一言で言えば、確かにリアル過ぎると言えるだろう。

 それは背景やNPCに留まらず、中でのアイテムや装備の数々まで、本当にリアルっぽい作りだった。

 ただ、それだけで終われば良かったんだけど、製法までリアル準拠だったんだ。


 このご時勢、製造の現場に立ち会える人間などもう殆ど居ない。


 全ての工場では統括コンピュータが全てを把握して、様々な製品を日々生み出している。

 だから製法と言われても、その資料すら中々揃わないのが実情であり、正確に作れと言われてもどうしようもないんだ。

 そのせいで生産職は全滅に近い痛手を受け、スキルの恩恵を受けてもまともな物は作れなかった。

 そりゃ趣味の世界になっている、プランター栽培とかお菓子作りなんかはまだしも、中世ぐらいの武器や防具とかの構造すら判らないんだ。


 ただ、戦闘職に対して救いだったのはNPCの店の商品ラインナップが充実していて、プレイヤーメイドじゃなくても特に困りはしなかった事。

 そのせいで生産職が全滅になってしまったのも致し方あるまい。

 もちろんもっと高性能な武器があれば、というプレイヤーも居たが、プレイヤースキルをもっと磨けと言われて、その声も立ち消えになっていた。

 確かにモンスターも段々と強力になってはいくものの、プレイヤースキルの高い人達が協力してクリア出来る問題だったのだ。

 なので皆は潜在的には欲してはいたものの、無いものねだりをするよりも、自分の技術を磨く方向に意識を向けていた。


 でも、誰も知らなかった。


 生産には知識と技術のみにあらず、錬金術が必要だったなんて。


 ◇


 それを知ったのはただの偶然だった。


 元々錬金術師を目指していたんだけど、やはりリアル過ぎる影響を受けて、学校に通わなくてはならなかったんだ。

 冒険者ギルドに登録して学費と生活費を稼ぎながらの通学は本当に大変だった。

 さしものβテスター達もこのルートは無駄だとトライしなかったらしく、本サービスになっても数人がトライして途中退学していたぐらいだ。

 なので情報掲示板でも学校は暇つぶしに通うぐらいの意味しかなく、引退前の体験がお勧め、なんて記されているぐらいだ。

 確かに入学して数ヶ月はひたすら基礎を学ぶ段階で、小学生が学ぶような事を真面目にやらなくてはならない。

 それが終わったら中学生クラスの授業となり、高校生クラスの授業となった後、初めて専門科目の授業になる。

 そこまで学ぶのにゲーム内時間で10年掛かるらしく、攻略組はもとより一般の奴らも手は出さず、色物狙いのプレイヤーが参加しても数ヶ月で脱落するような状況になっていた。

 だが世には飛び級という制度があるとなれば、もしかしたらここにもあるかも知れないと考え、それにはトップである理事長との面談が必要になると思えたんだ。

 そうしてそれは確かにあり、このゲームではスキップと呼ばれていた。


 なのに誰も理事長に面談しなかったんだな。


 確かに一般人がいきなり理事長との面談などはやれはしない。

 なんせ学院は国営であり、理事長は王族だからだ。

 だけどそこに冒険者ギルドの立場がものを言った。

 例え最下級ランクと言えども、冒険者協会員のメンバーであれば、アポイントメントを受け付けてくれたんだ。


 ただし、先に冒険者ギルドのマスターへのアポイトメントを取り、マスターへ相談をする必要がある。

 そうすると理事長と懇意という話が聞けて、そこまで望むのなら面会はさせてやるが、失礼な態度は許さないと言われるんだ。

 この失礼な態度というのが問題で、ちゃんと礼儀がなってないと追い返されるらしい。

 と言うのも、注意点を受付のお姉さんが教えてくれるんだけど、ギルド登録の時の態度が悪いと親しくなれない、という情報掲示板の情報通り、失礼な態度だった人には面会の時の注意点も教えてくれないようだった。


『君の登録の時の態度なら失礼にならないと思うわ。後はね、ちょっとした注意点を教えてあげる』


 これが出たらこっちのものだ。

 面談の為の注意点と共に、マスターからと紹介状が手渡されるんだ。


 これでいよいよ面会になる……と、思ったら大間違い。

 まだハードルはいくつかあるんだよ。

 なので紹介状を受け取っても焦ってはいけない。


 まずは学院に戻り、学院長へのアポイントメント、これは学院に通っていればすぐに得られるので、そうして面会して理事長への面談を希望する旨を報告するんだ。


 そうするとここでもいくつかの注意点を教わるんだけど、扉に付いての注意点が重要だ。

 普通はノックして相手の返答を待って入室するものだが、準備室に先に入って理事長室への入室の相談が必要なんだ。

 と言うのも理事長室への扉はダミーになっていて、叩こうが蹴飛ばそうが決して開かないからだ。

 そして準備室から理事長室に入れるんだけど、そこで部屋の中の人に先導してもらう必要がある。


 準備室と部屋名はなっているが、そこに居るのは護衛達なのだ。


 つまり相手は王族なので、徹底的に下手に出ないと、護衛達の機嫌を損ねてしまうのだ。

 護衛達はかなり失礼な態度を取るが、ここで怒ってはいけない。

 面談に際し、理事長に失礼な態度を取らないかと、彼らからの試練だからだ。


 そうしてやっと面談が可能になるのだが、お茶のマナーを覚えていると良いだろう。


 姉貴の見合いの練習で散々付き合わされて知っていたが、知らないと相手は王族だし、護衛達がダメ出しをするはずだ。

 それはともかく、理事長に面談して何とかならないかと相談した結果、スキップに付いての説明を受けた。

 スキップ……それは学識の高さでいくつかに別れるが、高卒スキップをクリアすれば、いきなり専門クラスの授業が受けられる。

 そうなれば様々な学部に分かたれる事になるが、薬師は薬師見習い、錬金術師は錬金術師見習いとなる。

 錬金術クラスの授業では、いよいよ生産の真実が明かされる事になるのだが、外には知られていない話が聞けた。

 すなわち、全ての生産に錬金術は必要であり、使用しなければ厳密に手順を踏まないと作成する事は出来ないと言われた。


 つまり生産職が全滅した理由はここにあったのだ。


 更に言うなら錬金術師も10年の修行の先にあるとされていて、あれも不遇職扱いされている。

 そうして錬金術見習いとなって何度かの授業の後のテストに受かればお師匠様を紹介してもらえ、それと共に弟子の立場になる。

 弟子になればお師匠様の書庫の中にある、膨大な蔵書の中のレシピが扱えるようになり、それを少しずつ解説を受けてクリアしていき、そうしてお師匠様の試練に受かれば、晴れて正式なる錬金術師になれる。


 そうなればようやく錬金術を応用しての生産がやれるようになるんだけど、注意点がひとつある。

 それと言うのも練習品を巷に流したら、学院からの追放になってしまうという罠が隠されている。

 つまりお師匠様からの販売許可が出るまでは、未熟な品で巷を惑わせてはならない規則になっているらしく、規則違反で退学になるとの事だ。

 なので実質的に販売が可能になるのは、正式な錬金術者になってからになる。

 当時は先は長いが、ようやく見つけた隠し正規ルートの予感に、意欲が沸きまくりだった事を覚えている。


 でも、高卒クラスの学力とか、リアル義務教育にはきついよな。


 何を考えてこんな設定にしたのかとか、当時は思ったものだが、そうなっている以上は仕方が無いとそれに従った。

 ともあれ、なんとかクリアして専門課程の学問に入ればいよいよ講義の開始である。

 仮想の学問であるはずの錬金術だけど、やっているのは根底に物理法則があり、それを術式で改変している感じなのだ。

 なので基礎課程の物理の成績でスキップが叶い、10年の勉強のはずが相当に短縮できたんだ。


 物理法則を超えるような事象を起こす為の学問なのに、それには一定の法則があるように思えた。

 それに従えば、リアルであり得ない事が起き、現状の生産がかなり楽になる。

 難しい工程を錬金術が簡素化し、それでいて性能は劣るどころか勝る有様。

 更に言うなら失われたはずの製法すら、丁寧に教えてくれる教授まで揃っていた。


 そんな訳で一応、それなりの製品が生み出せたんだ。


 さすがに廃れた生産職で名乗る訳にもいくまいと、仮の名での商いを開始した。

 馴染みのNPCを経由して、あたかもNPC産であるかのように装い、実はプレイヤーメイドという方法にした。

 これなら運営からの新たなリリースだと思ってくれるかもって思ったんだ。

 確かに地位向上したいなら発表しても良かったけど、いきなりでは大騒ぎになると思ったんだ。

 それにさ、いくらゲーム内時間とは言え、皆が遊んでいる中での長期の勉強の成果をさ、そう簡単に教えて堪るかとも思ったんだ。


 巷では新たな武器が話題を呼んでいた。


 従来よりも性能が高く、それでいて補正の数も多いその武器は、情報掲示板にも掲載され、新たなるリリース武器として人気になった。

 錬金術の傍ら薬学の勉強にも明け暮れ、薬師としてもやっていけるようになり、性能の高い回復薬も作れるようになって売りに出したところ、またしても新たなリリースだと思われていた。

 こうなるともう、冒険とかやる気にもならず、冒険者としての肩書きはただの身分証明となり、ひたすら生産へとのめり込んだんだ。


 確かに必要な素材もありはしたが、そういうのは皆が冒険をして巷に流している。

 なので材料に困る事もなく、ひたすら生産職としてだけでやれたんだ。


 ◇


 錬金生産職となってから夢中になって色々生産していたけど、遂に情報公開をしようと思った。

 初年度はそのうち後続も出るかと思い、他の誰かに発見の喜びを味わわせてあげようと黙っていたんだけど、2年目になっても未だに後続は現れない。


 だからのリークなんだけど、やっぱり独りは寂しいからね。


 皆がリタイアした先に何があるのかを記し、現在リリースされている新しいアイテム群はプレイヤーメイドだと記したのだ。

 これに対して情報掲示板は賑やかになると共に、全く信じない者達も現れた。


 すなわち、ガセで無駄な事をやらせようという企みだと。


 そのうちに引退目前という者が現れ、これの探求を最後に引退したいと告げる。

 そうして始まる勉学に対し、スキップという裏道を指し示す。

 挑戦した彼は大学生であり、高卒クラスの学識があった事が幸いし、ほどなくして錬金術の学問に突入する。

 彼は興奮したような言動を掲示板に記し、情報の正確さを評価する。


 決起して1年弱の快挙として。


 そうして2人目の錬金生産職が現れた後、それが生産職への正規ルートと認識され、多くの者達がそれに邁進するようになる。

 余りにも長い道のりだが、それでもリアルで学べない事が学べるとあって、既存のゲームに無い新鮮さが受けたのか、オープン3年目という節目を乗り越えてゲームは更なる人気を呼んでいた。


 確かに最終到達地点は高卒の学力。


 そうなるとリアル義務教育ではきつくなるが、図らずもリアルの成績が良くなるという意外なる恩恵を以って、親の受けもよくなったとか。


 ◇


 仮想ゲームを遊びながらそれがそのまま現実の勉強になる、という運営の隠された意図はここにようやく結実したようだった。

 普通ならこんな難解な方法を経ないとまともな生産にならないゲームなど受けるはずがないと思われたが、それでもそれをやる必要があったのだ。

 それと言うのも運営には国からの指示があり、上級専門職への理解と推薦という、巷には流れないタイプの情報を意図的に漏らし、若い年代の上級職への挑戦を支援するという目的があった。


 この上級専門職というのは統括コンピュータの保守点検を主目的としていて、あらゆる生産に対する知識を備え、どんな問題も解決に導かなければならないという重い責務がある代わりに、その地位は国に保証され、生活水準は一般とは比べ物にならないぐらいに豊かであり、更には研究室と研究費まで与えられ、自己の研究に没頭する事が許されるという、究極のエリートとされている。


 なのに巷にはこの立場になる方法が公開されておらず、幻の職とまで言われていた。


 それは地位目的に安易に目指されては困るという理由があるが、国の根幹たる統括コンピュータの保守点検が仕事ならば判らなくもない。

 後は様々な生産に対する知識を得ようにも、巷にその手の情報をうっかりと流す事も出来ない。

 市民にはそれは余計な知識であり、工場内の施設への攻撃も可能な知識と言えるからだ。


 考えあぐねた国は、巷で人気を呼んでいる仮想ゲームに焦点を定め、その中で上の者への態度、学問への熱意、それと根気とやる気を試させて、それでも登っていくような人材を探す事にした。

 そうして一定の学識を収めた者に対し、国からの正式な受験要綱を送り、それに合格すれば上級管理見習いを与える事にした。


 かくして、ここにそのゲームが顕現し、挑戦者があらわれたのである。

  

後日談


「反町研究員、先日のエッセイ、読ませてもらったよ」

「ありがとうございます」

「君がそうだったんだね、ゲームからの参加者と言うのは」

「恐れ入ります」

「どうだい、なってみた感想は」

「はい、責任は重いですけど、遣り甲斐のある仕事だと思います」

「善き同僚が増えて僕も嬉しいよ」

「ありがとうございます」

「これからもお互い、精進しようじゃないか。君も頑張りたまえ」

「畏まりました」


ちなみに反町研究員によって公式ページの誤植の指摘がなされ、『SKILL』が『SUGIRU』になったのは余談である。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ