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第47話 学院の欺瞞

 ユヴェンに冷たくあしらわれた後、リンにある考えが浮かんだ。


 彼にも貴族階級で100階層以上にいる知り合いが一人だけいることを思い出したのだ。


(なんで思いつかなかったんだろう。貴族階級で100階層以上にいる人。師匠がまさしくそれにあたるじゃないか)


 とはいえユインに素直に聞いたとしても教えてもらえるとは思えない。


 リンは一計を案じた。


(師匠は捻くれ者だ。普通に聞いても教えてくれないどころか僕に会いに来てもくれないだろう。それなら……)


 リンは師匠に手紙を書くに当たって、なるべく動揺して途方に暮れている様子を演出しながら手紙を書いた。



「師匠へ


 突然の連絡お許しください。師匠以外頼れる人がいなくって。

 今朝、100階層で知り合いの人が死んだという知らせが届きました。

 エリオスという人です。

 とても僕によくしてくれて色々世話を焼いてくれた人なのでショックです。

 師匠はこのことについて何かご存じではないですか。

 彼が死んだなんて信じられません。

 絶対に何かの間違いだと思っています。

 誰に聞いても何も教えてくれなくて。

 きっと皆僕を騙しているんだと思います。

 誰がなんといっても僕は確かな証拠を見るまで信じません。

 エリオスさんが死んだなんて嘘ですよね。

 師匠もそう言ってくれると信じています。


 リン」



(師匠は意地悪で天邪鬼だからこれならエリオスさんが死んだ確かな証拠を突きつけに来てくれるかもしれない)


 リンの狙いは当たった。


 時期も良かったようだ。ユインはちょうどアルフルドに用事があって降りてきているところだった。


 すぐに「会ってあげるから協会の待合室までおいで」という返事が来た。




 待合室に入るといつも通り先にユインがいた。


 今日の彼はゆったりと余裕のある雰囲気で顔には笑みを浮かべいつになく機嫌がよさそうだった。


「やあ。リン。久しぶり」


「師匠! 良かった。てっきり会ってくれないかと」


「まあ、無視しても良かったんだがね。あまりにも君が可哀想だから来てあげたよ」


 彼はニコニコしながら言った。


「ありがとうございます。なんとお礼を言ったらいいか。すみません。まだ動揺していて」


 リンはなるべく自分から本題に入らないように気をつけた。そうすれば天邪鬼な師匠は素直に教えてくれないのは分かりきっていた。


「いいよ。そんなの。それよりもエリオス君のことについて聞きたいんだろう?」


「ええ、そうなんです。クルーガさんにも聞いたんですけれど。知らない方が身のためだって言われて。何も教えてくれなくて」


「ほお。そんなことを」


 彼はより一層深い笑みを浮かべた。


 彼は教えたくて仕方がなくなってきたようだ。リンはユインが自分の術中にはまっていると感じた。あと一押しで聞き出せると思った。


 リンはもう少し動揺を装ってみる。


「どうして彼が……、彼は真面目で謙虚で、年長者を敬う立派な若者でした。先生や年長者の言うこともよく聞いて……」


「だからだよ」


「えっ?」


「エリオスは、彼は学院の教員の言うことを鵜呑みにしたから失敗したのだ」


「えっ? どういうことですか。何を言って……」


「君はアルフルドで働いているあのクズ共を見て何にも感じなかったのかい?」


「えっ? 僕には普通の先生のように思えましたが……」


「学院で優秀な成績を収めたところで塔の攻略に役立つことはない。なぜなら学院の教員達、彼らは100階層以上のことについて何にも知らないんだよ」


「ハァ?」


 リンは思わず素に戻って声を上げてしまった。


「学院は立派な魔導師を養成するためにあるんですよね。例えば100階層以上で活躍できるような」


「そうだよ」


「じゃあなんで学院の教師が100階層以上のことについて知らないんですか。教える立場である学院の教師が……」


「あのねえ、リン。君は本音と建前って言葉を知らないのかい?」


 ユインはため息をつきながら言った。


「アルフルドやレンリルで働いてる奴なんて、100階以上で通用しなくておめおめ逃げ帰ってきたやつに決まってるだろ。彼らが100階以上で通用するなら100階で講師や情報屋をやってるよ」


「じゃあ、学院の先生達が教えていることは……、あの人達はいったい何を教えているんですか」


「彼らは魔導師協会によって指示されたカリキュラムに沿って教えているだけだ。それが生徒達の将来に役立つかどうかなんて知ったことじゃない」


「そんな……」


「教員共が気にしているのは自分たちの雇い主である魔導師協会からの評価だ。無論例外はある。課金授業だ。あれはカリキュラム外のことを自由に教えても良いことになっているし、教員としても頑張れば頑張るほどマージンが増えるから皆工夫してる。100階層以上に在籍している魔導師でも課金授業なら受け持っている人はいるよ。 そのため攻略に役に立つものも多い。

 魔導師協会としてもより収入の多くはいる有料の授業に力を入れるのは当然だろう。無課金授業の内容はここ数十年全く変わっていないんじゃないかな。塔の様相は随分変わったというのに」


「……」


 リンはただただ唖然としていた。


「エリオスは課金の必要な授業を何も取っていなかったようだね。それが間違いだった。今となっては、課金授業を受けずに100階以上に行こうなんて自殺行為だよ。 特に物質生成。あれは一年目から取っておいた方がいいよ。どうしても習得に5、6年はかかってしまうからね。2年目以降にとってしまうといたずらに卒業までの期間が延びてしまう」


「有料の授業には質の悪いものが多いって……。無意味に借金を増やすだけだって」


「その通り。だから100階以上で通用する力をつけるには課金アリの授業の中から有益な授業を見抜ける師匠かアドバイザーも必要なのだ」


 リンはユヴェンの言葉を思い出した。



 ーー貴族でもない、まともな師匠もいないあなたが、はたしてそんなに上手くいくかしら?ーー



(そういう意味だったのか)


「社会の仕組みによって巧妙に隠されている事実だが、社会の上層に行くためには才能や資質、努力よりもまず金が必要だ。100階層で通用するためにはまず学院で1000万レギカ分の授業を受ける必要があると言われている」


「1000万……」


「エリオスも焦っただろうね。自分が100階層のダンジョンに四苦八苦しているのを他所に貴族達はまるで初めからクリア方法を知っていたかのように必要な魔法を使ってダンジョンを攻略していく。平民階級は貴族の結成したギルドで下働きをするのが賢明なのだが、プライドもあったのだろう。独立してギルドを立ち上げる発言をするどころか貴族階級を敵視するような発言をしてしまったため、引くに引けずどんどん孤立していった。彼は自分より成績が低いはずの奴らに先を越された事実を受け入れられず決断はズルズルと先延ばしにされ、あえなく金と魔力は尽き、追い詰められ逃げる間もなく狩られてしまった」


「……」


「100階層には留まろうと必死な奴らもいるからねぇ。何せ学院魔導師と自立した魔導師では待遇が桁外れに違う。100階層以上の魔導師には義務も与えられるが権利も与えられる。100階層にいる奴らなんて私から見れば十分底辺だけどね。まあとにかく彼らはなんとしてもアルフルドに戻りたくなくて、寄ってたかって弱り切った新人を狩り、金と魔力を分捕り養分にしようとする。まあゲスい連中だよ。彼らも貴族には手を出さないんだがね」


「そんな……」


「まあ君も大それた願望は抱かないことだ。1000万レギカなんて用意できないんだろう?」


「師匠、僕はもう学費を払ってしまって……」


「リン。自分で考えられない奴はね、この塔に必要ないんだよ」




 次回、第48話「再会」

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