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第38話 二日目の組み合わせ

 キャンプ地にはテントやロッジがいくつも立ち並び焚き火がたかれ、そこここで野営の準備がされている。


 建物はいかにもとりあえずの寝床という感じで即席の魔法によって建てられたもののようだった。


 夜間の魔獣の侵入を防ぐためキャンプ地の周辺に結界を張り巡らせている者たちもいる。


 キャンプ地についたリンとイリーウィアはそれぞれマグリルヘイムの宿営地と協会出張支部へと向かった。


「私は協会の方に報告に行きます。ブルーエリアにキマイラが出現していた事を伝えなければいけません。大したことではありませんが、一応異常事態なので念のためにね。あなたは小人と一緒にマグリルヘイムの宿営地へ行って戦果を報告していただけますか?」


「分かりました」


 マグリルヘイムの宿営地にはすでにその日の狩りを終えたメンバー達が数多く集まっていた。


 それぞれ小人を使っている人もいれば自分で持ち物用の袋を背負ったり杖の先にひっさげて魔法の力を使って持ち上げている人もいる。


 リンは受付らしきところに行って尋ねてみた。


「あの戦果を報告に来たんですけれど」


「はい。ではこちらの名簿に拾ったアイテムと名前を記入してくださいね。アイテムはこちらに預けることができます。預かりましょうか?」


「はい。お願いします」


 リンはアイテムを受付に預けた。


「では帰る際には忘れずにこちらの受付によってくださいね。あと次の集合時間は18時となっています。遅れないように気をつけてください」


 リンは受付で戦果報告を終えたあと、手持ち無沙汰になった。


 特にやることもないのでブラブラと歩き回る。


 周りにはマグリルヘイムのメンバー達が今日の森での出来事について楽しげに語らいあっている。


 歩いているとなんともなしに人々の雑談が聞こえてくる。


「今回はブルーエリアにキマイラが頻出しているらしいな」


「ああ、俺も遭遇した」


「どうしたんだろうな。何か奥地で異変があって魔獣の大移動でもあったのか?」


 一応、周りにいるのはマグリルヘイムのメンバー達だが、いずれもリンの知らない人達だ。ティドロとヘイスールすらいない。リンは疎外感を感じた。


(イリーウィアさん早く戻ってこないかな)


「あら? リンじゃない」


 リンは突然声をかけられる。声の方を向くとシーラ達がいた。


「シーラさん」


「よぉ。何か収穫はあったか?」


 いつも通りアグルが親しげに話しかけてくる。


「ええ。いろいろ勉強になることがありました。イリーウィアさんとペアを組んでたんです」


「あら。そうなんだ。彼女優しいでしょ?」


「ええ。本当に」


「みんな」


 シーラとリンの間で話が盛り上がりそうになるのにエリオスが割って入った。


「どうせならあっちで火を囲みながら話さないか?いろいろ食料も配っているようだ」


「それもそうね。リン、あなたは大丈夫?」


「ええ、もちろん」


「じゃ、行くか」




 リンはイリーウィアの力の一端を垣間見れたこと、キマイラを倒したことなど話した。


「すげーなお前。キマイラを倒したのか」


「いえ、そんな。イリーウィアさんのおかげですよ」


「まあでもキマイラはヴェスペの剣で倒せるって報告書があったね。確か」エリオスが言った。


「私達もキマイラに遭遇したわ。もうびっくりしたのなんの」


「確かブルーエリアには出ないはずだろ。一体どうなってんだろうな」


「何か魔獣の大移動でもあったのかもしれないね」


 だいたいリンが先ほど立ち聞きした内容と同じことが話される。しかしリンは初めて聞いたことであるかのような顔をした。


「イリーウィアさんも不思議がっていました。協会に報告に行くって言っていましたよ」


「そうか。じゃあ僕達も後で報告に行かなきゃね」


「あ〜あ、でもあのキマイラとりにがしちゃったのは惜しかったなぁ〜。アイテムを売ればいい値になったのに。アグルさえちゃんとポジションを取っていればなぁ」


「いやいや。シーラお前もタイミング外しただろ」


「はぁ? あれは元はと言えばあんたがねぇ……」


 リンはいつもの3人と会話できてなんだかほっとした。そして自分が緊張していたのに気づいた。今日は初めての経験ばかりで心にまだ緊張が残っていたようだ。


 エリオス達と会うのも随分久しぶりのように感じる。


 リンの安堵に呼応するようにペル・ラットがローブの隙間から顔を出す。


「あら? それってペル・ラットじゃないの。どうしたの?」


「先ほど話したようにキマイラを倒して助けたらなんか懐かれちゃって」


「可愛いわね」シーラが手を伸ばして触れようとするとペル・ラットはリンのローブの中に引っ込んでしまった。


「しかし凄いね。ペル・ラットはレアな上、滅多に人になつかないのに」


 エリオスが感心したように言う。リンはエリオスに褒められて嬉しかった。


「やっぱリンは何か持ってるんだろうな」アグルがしたり顔で言った。


「ふん。どうせ私は何も持ってませんよ」シーラがいじけたように言う。


 リンは苦笑した。いつもの人たちに囲まれて気が緩む。そしてその気が緩んだまま過ごしてしまい、マグリルヘイムの集合の時間をすっかり忘れてしまうのであった。




「なんというか……すみません」


 リンの前にはしかめっ面のヘイスールがいた。


「マグリルヘイムの団員たるもの時間厳守は基本ですよ」


「はい」


「ヘイスールさん。どうかリンを責めないであげてください」


 リンの隣にいるイリーウィアが割って入る。


「リンにとっては初めての魔獣狩り。キャンプ地について気が緩んでしまったのでしょう。どうか寛大な処置をお願いします」


 ヘイスールはため息をついた。


「イリーウィア。私はあなたのことも責めているんですよ。」


「あらっ? そうなのですか?」


 イリーウィアはさも意外そうな顔で驚いてみせる。


「『あらっ? そうなのですか?』ってあなたはリンのパートナーでしょう。リンの失態はあなたにも責任というものがですね……。あー、もういいです。今回は初めてのことということで許しますけれどね。次からは罰則がありますよ」


 イリーウィアに一向に悪気がなさそうなのを見てヘイスールは諦めたように説教を打ち切り、宿舎に戻っていった。


「すみません。イリーウィアさん。ご迷惑をおかけして」


「いえいえ、いいんですよ」


 イリーウィアがいつも通りにっこりと笑う。彼女は全然気にしていないようだった。




「ティドロ。全員集まりましたよ。これで寝床の割り振りができます」


「ヘイスール。リンのことどう思う?」


「はい? というと?」


「リンの今日の戦果についてだ」


 ティドロは受付で預けられたアイテムの帳簿を見ている。


「キマイラに遭遇しただけだ」


 リンの項目を指差しながら言った。


「それは仕方ありませんよ。まだ彼は初めての探索なんです。それに初等部なんですから」


「しかしヴェスペの剣を出せるんだろう?イリーウィアも付いているんだし」


「彼女もなんというか……マイペースな人ですからね。期日までにノルマを達成できればいいと思っているんですよ」


 ヘイスールがそう言ったが、ティドロは憮然とした表情のままだった。


 ヘイスールは少しため息をついた。誰にでも高い要求をするティドロの悪い癖だった。


「今回は彼に興味を持ってもらい意欲を刺激することが目的です。彼にあまり多くを望みすぎてはいけませんよ」


「そうか。まあそういうことにしておこう。僕なら可能な限り奥深くまで行こうとするけれどね。魔獣と遭遇して経験値を積めるまたとない機会なんだから」


 そう言ってティドロは憮然とした表情のまま自分の寝床まで歩いて行った。




 翌日、マグリルヘイムに集合がかかる。


「では本日もくじでペアを決めたいと思いまーす。皆さんどんどん引いていってください」


 リンがくじを引こうとすると声をかけられて止められた。


「リン。君はくじを引かなくてもいい」


 リンが声のほうを向くとそこにはティドロがいた。


「君の今日のパートナーはもう既に決まっている。僕だ」


 リンはティドロを改めて見上げてみる。やはり背が高かった。


 なんとなく威圧感を感じる。


「ティドロさんと一緒に森を探索するんですか?」


「ああ、そうだ。君にはできるだけいい経験を積ませたいと思っているからね」


(リン、君の才能が果たしてどれほどのものか、そしてマグリルヘイムの一員に値するかどうか、この目で見極めさせてもらうよ)




 次回、第39話「イエローゾーン」

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