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第34話 王族と奴隷

 リンとイリーウィアは道なりに森を歩いた。


しばらくは同じタイミングで森に入った人達と一緒に集団で歩いていたが、分かれ道の度に人数が半分になっていった。


他にも途中で立ち止まって植物を採取したり、茂みの中に入っていったりする人などがいて、やがてリンとイリーウィアは二人きりになった。


 リンとイリーウィアは分かれ道の度に、杖を地面に立てた後放し倒れた方向に進む、というやり方で道を選んだ。


「いいんですか?こんな適当な方法で道を選んで」


「ええ、ブルーエリアの間はどの道をたどってもそれほど変わりませんから。それに地図を渡されたでしょう?」


「ええ」


 リンはカバンから地図を取りだす。


地図には森のあらかたの全体図と集合場所となる幾つかのキャンプ地、そしてキャンプ地に至るまでのルートが記されている。


地図の中には細かくマッピングされた地帯と未だ不透明な地帯がある。


ブルーエリアのほとんどはかなり細かくマッピングされている一方、イエローエリア、レッドエリアと深くなればなるほど不透明な箇所が増えていった。


「地図よ。現在地を示せ」


 リンが呪文を唱えるとブルーエリアの中に光が灯る。


二人の現在地を示す光だ。


彼らのたどっているルートはキャンプ地まで最短ルートというわけではないが、そこまで大きくルートから逸れているというわけでもない。


「午後5時までに間に合いそうですか?」地図を眺めるリンにイリーウィアが声をかける。


「ええ、問題なさそうです」


「ではもう少しこの方法で進みましょう」


 また分かれ道にさしかかった。イリーウィアは杖を地面に立てて手を放す。杖は右寄りに倒れた。リンとイリーウィアは右の道に進んだ。




 森の中を歩いているとリンの周りで時折パッパッと光が瞬く。


リンに攻撃してこようとしている毒虫を指輪が焼き殺しているのだ。


それにしても先ほどからやけに毒虫の数が多かった。


やはり指輪なしで入るには危険な森なんだな、とリンは思った。


 一方でイリーウィアの周りには一切光が瞬くことがなかった。


虫の方でも彼女の精霊の力の強さを感じて敬遠しているのだ。


リンはイリーウィアに対して底知れない強さを感じた。


 二人は道中特にやることがないので雑談した。


「リンは塔の学院以外で何か魔導師の訓練を受けたことがあるんですか?」


「いいえ、僕は学院でしか魔導師の修行はしたことがありません。イリーウィアさんは塔の学院以外で訓練を受けていたんですか?」


「私は王家直属の機関で幼年の時期から魔導の教育を受けていました。充実していましたが、お友達が少ないのが少し寂しかったですね。しかしだとすればリンは本当に一回目で『ヴェスペの剣』を出したわけですか。ふむ、やはり凄いですね」


「いえ、それほどでもないですよ」


「いえいえ、なかなかできることじゃありません。まあ私は幼年部でヴェスペの剣を出しましたが」


「いやあ、それほどでも……えっ?」


「私は何度も頑張ってようやくできましたからね。やはりリンは凄いと思いますよ」


「は、はあ」


 リンは少し落ち込んだ。この年齢でヴェスペの剣を出せるのは自分だけじゃないか、そして自分には天賦の才能が眠っているんじゃないか、と秘かに思っていたからだ。


(上には上がいるんだなぁ)


 リンの中の自信が少し揺らいだ。


 果たして自分の才能はどのくらい希少なのか、またその才能は魔導師全体の中でどのくらいの位置付けなのだろうか。


 リンは思い悩まずにはいられなかった。


「学院以外で魔導の訓練を受けていないということは……あなたは平民階級の方ですね」


「いえ、僕は……その……奴隷階級出身なんです」


「ああ、それで名簿に名字がなかったんですね」


 リンは正直に答えたものの、顔を赤くして俯いてしまう。


「では私運がいいですね」


「えっ?」


「私は王族なのですが、統治の必要から下層階級の人の暮らし向きについて知りたいと思っていたのです。ウィンガルド王国にも奴隷階級や労働者階級の方はたくさんいますからね。普段から私の周りには王族や上級貴族の方しかいませんから、あなたのような方と付き合えるのは得難い経験ですわ。こういう身分外の方との出会いがあることも学院のいいところですね」


 そう言ってイリーウィアはにっこりと微笑む。


リンは彼女の顔をまじまじと見た。


そこにリンに対する軽蔑の感情や社交辞令からくる嘘偽り、よそよそしい態度などは感じられない。


彼女の笑顔はどこまでも曇りないものだった。


彼女は本心からリンとの交流を喜んでいるように感じられた。


(不思議な人だな。奴隷階級をありがたがるなんて……)


「変わっていますね」


「そうでしょうか」


「奴隷階級であることを教えて勉強になるなんて言われたのは初めてですよ」


「私は自分以外の誰をも先生だと思うようにしているんです。実際、誰からでも何かしら学べることはあると信じています。リン、あなたは私に何を教えていただけますか?」


 イリーウィアはリンをじっと見つめてくる。リンはその瞳の真摯さにたじろいだ。


「僕にはあなたのような方に教えられることなんて何も……何かあるようには思えません」


 リンはまた顔を赤くして俯いた。


「ふむ。では二人で一緒に考えてみましょう。これは本日の課題です」


「課題……ですか?」


「ええ、私たち二人で協力して取り組む課題です。あなたは私に何を教えることができるのか。私はあなたから何を学ぶことができるのか。二人で考えてみましょう。森から出るまでの間に解けるといいですね」


 そう言ってイリーウィアはにっこりと笑う。


 リンは彼女の真意を探ろうとしてみた。なぜ彼女は自分のこと、奴隷階級の境遇のことなんかについて知りたいのだろう。いったい自分から何を聞き出したいのだろうか。


 しかし彼女の表情からは純粋な好奇心以外何者も見出せなかった。


「自分のことについて知ることは大切ですよ。あなたも自分が他人に対して何を与えられるのか知らなくてはいけません。ではまずあなたの暮らし向きから聞かせていただけませんか。あなたが学院で授業を受ける以外の時間、どこにいて、何をして、どのように過ごしているのか。話してみてください」


 またリンの頰のあたりで指輪の光がパチッと弾けるように瞬いた。森の住人たちは隙あらばリンを攻撃しようとしてきた。




 次回、第35話「続、コネクションの大切さ」

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