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第33話 組み合わせのくじ

「いつも通りくじでペアを決めまーす。一人一つずつ取ってくださーい」


 マグリルヘイム学生部・副団長のヘイスールがくじ引きの箱を持ってメンバーの間を回り、くじを引かせていく。


 マグリルヘイムでは二人一組でパートナーを作って森を探索するのが慣例となっていた。


 リンもくじを引いた。引いたくじには流星のイラストが描かれていた。


「俺は太陽か」


「月の人誰〜?」


 くじを引き終わった人から次々自分のパートナーを探していく。


 リンも自分と同じイラストのくじを引いた人を探して回った。


 まだパートナーが見つかっていない人を中心に声をかけていく。


「あの、すみません。流星の人ではありませんか?」


「あ、ごめん。俺じゃないわ」


「あら? あなたが流星ですか? 奇遇ですね」


 リンが声の方を向くとそこにはイリーウィアがいた。


「イリーウィアさん」


「私のパートナーはあなたのようですね。今日はよろしくお願いします」


 彼女の手には流星のイラストが描かれたくじが握られていた。


「お、リンはイリーウィアと一緒か。これはちょうどいい組み合わせになったな」


 通りすがりにディドロがリンに話しかける。どうやら二人の会話をたまたま聞きつけたようだ。


「彼女はこの年齢ですでに精霊魔法と魔獣学の権威だ。この森においては彼女の隣より安全な場所はない。思い切って森の探索に励むといい」




 流星のくじを2枚重ねるとくじは青い炎となって箱の中へと戻っていった。


「全員パートナーは決まったようだね。みんなー、集合してくれ」


 頃合いを見て団長のティドロが号令をかけた。


「学院からの通達を伝える。今回もいつも通りだ。夏季の探索において、学院生は比較的安全なブルーエリアのみ探索するようにとのことだ」


 魔獣の森は大きく分けてブルーエリア、イエローエリア、レッドエリアの三つがある。


 それぞれ樹木の色が青色、黄色、赤色のものが多いエリアのためそう呼ばれている。


 森はブルーエリアから始って、イエロー、レッドの順に深くなっていき、深くなればなるほど危険度が増していく。


 学院生の夏季探索隊はブルーエリア以外を探索することは禁止されている。


「一応、学院からの通達は守らなければならない。だが何らかの事情から止むを得ず、例えば危険を一時的に避けるためなど、そういう場合にはイエローエリアやレッドエリアに侵入しても致し方ないだろう。各自臨機応変に対応するように」


 メンバーのほとんどが示し合わせたようにニヤリと笑う。リンにはこの意味がよくわからなかった。


「今日の集合場所はブルーエリアの第2キャンプ場だ。各自午後5時までには着くように。僕からは以上だ。装備のチェックを終えた組から順に森の中に入っていってくれ」


 ティドロの話が終わるとマグリルヘイムの面々は解散して森の入り口に設置された魔導師協会支部の方に向かった。


 学院魔導師達は森に入る前に協会から派遣されたものによって規定の装備を備えているかチェックされることになっている。


 リンとイリーウィアがチェック待ちの列に並んだ頃にはすでに長蛇の列ができていた。しかし職員は手際よくチェックしていったため、列は瞬く間に消化されていく。すぐにリン達の番が近づいてきた。


「はい、指定通りの狩衣ですね。では次に指輪を見せてください。オーケーです。では次の人」


 リンとイリーウィアの少し前に並んでいる人がチェックを通過する。


(ん? 指輪?)


 リンは今になって思い出した。そういえば事前にもらったしおりに指輪を自前で用意するようにと書かれていたことを。協会に申請すれば借りることができるとも書いていた。しかしリンは用意するのを忘れていた。


(や、やばい)


 リンは顔を真っ青にして狼狽する。いつか学院の帰りにアルフルドの指輪屋に寄らなければと思っていたが、ユヴェンに付きまとわれたり、アルフルドに引っ越したりといろいろあったせいですっかり忘れていた。


(ど、どうしよう。)


 ティドロに相談すればなんとかしてくれそうだが、初日から忘れ物をしたなんてことを言えば呆れられるに違いなかった。


 それどころか怒られるかもしれない。そのまま塔に送り返されることもありうる。


「あら? どうしたんですか、リン」


 イリーウィアがリンの顔が真っ青なのに気づいて声をかける。


「い、いや、その……ですね……」


 リンはとっさに手をポケットの中に入れた。イリーウィアはその仕草を敏感に読み取る。


「もしかして指輪を持っていないんですか?」


「うっ……、は、はい」


 リンは観念した。


 きっとティドロに言いつけられて絞られるに違いない。


 リンはこれから行われるであろう説教を想像して気分を落ち込ませた。


「ふふ。そんなにしょげなくても大丈夫ですよ。これをつけなさい」


 イリーウィアは自分の指に嵌められた指輪を抜き取ってリンに手渡す。


「えっ? でも……」


 リンがイリーウィアはどうするのか聞くより前にイリーウィアの指にキラキラ光るものがまとわりついて指輪を形成し始める。


(あっ、物質生成)


 イリーウィアの指には先ほどと同じように指輪が嵌められていた。見た目上今リンの手のひらに乗っている指輪と全く遜色ない。


(す、すごい。でも……誤魔化せるのか?)


 リンはハラハラしながら順番を待ち続けた。


「はい、次の人どうぞー」




「ふー、助かったー」


「ふふ、ちょっとドキドキしましたね」


 二人は無事検査を通過して森に入る許可を得て、今は森の前に来ていた。


「助かりました。初日から忘れ物で怒られちゃ目も当てられないところでしたよ」


「ティドロさんは厳しい人ですからね。バレればそれはもう鬼のように顔を真っ赤にして怒られますよ」


 イリーウィアが両手の人差し指をこめかみあたりに立てて見せる。案外茶目っ気のある人のようだった。


「ええ、本当にイリーウィアさんにはなんとお礼をいったらいいか。あ、でも大丈夫なんですか? その指輪は偽物なんでしょう? その装備で森に入ったら危ないんじゃ。」


 リンとイリーウィアはすでに森の目の前にいる。ここから先はいつ魔獣に遭遇してもおかしくない。


「大丈夫ですよ。もともと私に指輪は必要ありません。この子がいますから」


 その言葉を聞くやいなやリンは寒気を感じた。リンとイリーウィアの間にある空気の密度が急に濃くなったように感じられる。


(何か……いる?)


「おや、気づきましたか。さすがに鋭い感覚をお持ちですね。ではもう少し魔力を濃くしてみましょう」


 リンの目に彼女の周囲を薄ぼんやりとしたものがまとわりついているのが見えた。それは人間の女性のような姿形をしているが、実体がなくイリーウィアの周りをふわふわと浮きながら漂っている。生き物でないことは確かだった。


「彼女はシルフ。我がウィンガルド王国に代々伝わる精霊です。彼女が付いていれば私に危険はありません。」


 リンは初めてこのようなしっかりした姿の精霊を見た。


 いつも妖精魔法の授業で見る精霊は霊魂のようにぼんやりとした輝きだったり、物質に宿ったものだけだった。


 これらのぼんやりした精霊に比べ彼女の精霊の方がはるかに強力なのは明らかだった。


 リンはこの距離からでも精霊の魔力の強さに眩暈を起こした。


 纏わり付かれている彼女は平気なのだろうか。


 イリーウィアは至って涼しい顔をしている。


「まだあなたにこの子の魔力は辛いようですね。少し魔力を抑えていただけますか」


 イリーウィアが命じると精霊の姿はどんどん薄くなりやがて目に見えなくなって存在すら感じられなくなった。


「では行きましょうか」


 イリーウィアは散歩にでも行くような調子でどぎつい色を放つ青い木々の中に足を踏み入れて行った。




 次回、第34話「王族と奴隷」

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