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第14話 科目選択

 リンとテオは魔導師協会アルフルド支部の厚生課に行って奨学金の手続きをしに行った。


 担当者は分厚いメガネをかけて常に目を細めている神経質そうなおじさんだった。


「うむ。これで提出する書類は全てだ」


 彼はかけているメガネを微調整しながら書類を用心深く見直している。


「学院の試験に合格したものは今後6年間、奨学金の返済を猶予される」


(今から6年後に借金の返済が始まるってことか)


 テオは説明を聞きながら頭の中で思考を巡らせた。


(今の俺たちの給料じゃ借金を返しながら生活するのはキツイ。できれば6年以内に卒業してもっといい仕事に就きたいところだな)


「学院の試験に合格した君達は見習い魔導師用の貸出制度だけでなく、学院生用の奨学金制度も利用できる。学費、教科書代、その他授業に入り用な道具類などなど、学業のために必要な費用ならどんなものでも奨学金から引き出すことができる。ただし……」


 担当者はそこで言葉を切ると二人をギロリと睨む。


「魔導師協会は貸した金についてはどんな手を使ってでも回収する。どんな手を使ってでもだ!そのことを肝に銘じておくように」




 協会を後にしたリンとテオは、レンリルへの帰り道すがら、配布された科目要項を見ながら選択する授業について話し合った。


「凄い色々あるね」


 科目要項の一覧にはおびただしい数の授業が掲載されていた。『呪文学』『光魔法応用』などいかにも魔法の授業らしいものから、『論理学』『国際情勢』『塔の歴史』など一般教養、さらには『ニヨリミミイカの生態』『古代ユシタニア王国碑文の謎』といったマニアックな授業もあった。


 科目毎に無料のものから課金が必要なものまで様々で、リンには何が何だか分からなかった。有料のものでも1000レギカから100万レギカまでと様々な価格設定がされていた。


「そもそもこの料金設定何を根拠にしてるんだ?」


 テオが訝しげに科目要項の料金欄を見る。


「あ、有給の授業もあるんだね」


 リンは有料の授業に混じって給与の発生する授業が掲載されていることに気づいた。


「有給の授業って、授業に出ると給料が出るってことか?何じゃそりゃ」


 リンは有給の授業の一つ『機巧魔導初歩』の説明文に目を通してみる。


『塔上層の高級知能職、機巧魔導師になるために必要な知識習得を目指す授業です。従来、魔法さえあれば機械は必要がないものと考えられてきましたが、ここ数年で妖精や精霊よりも機械に任せた方が効率的な作業があることが分かりました。今後、確実に需要が増加するであろう機巧魔導師の技能をいち早く身につけるためにも初等クラスから取れるこの授業を受けましょう。なおこの授業内での作業は魔導師協会からの依頼を含んでいるため、作業量に応じて給与が発生します』


 説明はここまでで、その後は課金科目も顔負けの煽り文句がずらずらと並んでいた。


『基礎から実践的な技術まで身につけられる!』


『未経験でも安心!実際の作業を通して担当者が懇切丁寧に教えます!』


『勉強しながら学費負担も軽減できる一石二鳥の授業です!』


『歩合制なので頑張れば頑張るほど稼げる。能力があれば授業に出るだけで年収100万レギカも?』


『和気藹々とした現場です。』


『学院1年目から機巧魔導の現場を経験できるのはこの授業だけ!』


 もはや授業の説明というよりも職場のPRのようだった。


(あ、怪しすぎる……)


「ねえテオ。さすがにこれは胡散臭いと思うんだけど。『未経験』とか『作業』、『現場』……どう考えても学校の授業に似つかわしくない言葉が並んでるよ」


「うーん。まあ、タダで受けられるみたいだし。本当に100万レギカ稼げるなら学費のために借金する必要もなくなる。とりあえず初めの授業だけでも出てみようぜ。それで本当に稼げないようならすぐやめればいいし」


「……うん」


(大丈夫かな……)


 リンは一応了承したものの何か変な罠があるような気がしてならなかった。


「他はどうしよう。いっぱいありすぎてどれを選べばいいんだか……」


「とりあえず基礎魔法科目を時間割に当てはめていけば自然と絞られると思うよ」


「そっか。同じ時間帯にある授業は受けられないもんね」


 リンとテオは科目要項と時間割の記入用紙を見比べながらとりあえず基礎魔法科目を記入していく。ここで気づいたが、ほとんどの基礎魔法科目には課金が必要ないようだ。それがわかってリンはホッとした。卒業には基礎魔法科目の単位が20個必要だが、これなら年間の学費を払うだけで卒業できそうだ。いくら奨学金で無限に融資を受けられるといっても余計な借金を背負いたくなかった。


「水曜日は基礎魔法科目何も入ってないな。なんか課金科目漁ってみるか」


「水曜日には『応用・光魔法』と『精霊魔法』があるね」


「えーと。『応用光魔法』は『指輪魔法』を修得済みでないと受講できない。『精霊魔法』は『指輪魔法』と『妖精魔法』、を修得済みでないととれない。何だよ一年目じゃほとんど何にも取れねーじゃん」


「『物質生成魔法』なら取れるみたいだよ」


「あー、ユヴェンが受けてた授業か」


 テオが面倒くさそうに言う。


 リンは授業の説明欄を読んでみた。



『無から有を生み出す魔法、物質生成魔法を学ぶための授業。従来より運用が難しく、しかも次元魔法や質量魔法、エレベーターで代替できるため、重要視されていなかった物質生成魔法。しかし、10年前、300階クラスの魔導師セディアックが効果的な運用方法を発見したことからにわかに脚光を浴び始める。ここ10年で急速に発展しているこの分野は、他のあらゆる魔法の応用にも波及する可能性を秘めており、塔の上層を目指したいのであればマストな分野と言え、……』


 リンには書いてあることのほとんどの意味が理解できなかったが、それでも無から有を生み出すという文言には心惹かれるところがあった。


「あ、でもこれは選択科目だから課金が必要だね。受講希望者は10万レギカ必要って書いてある」


 リンの2ヶ月分の給料だった。


「まあ奨学金があるから受けれないことはないけど……。どうなんだろうな」


 さすがのテオも考え込む。なるほどユヴェンという子が言っていた通り、この学院は今までよりちょっとクリアするのが難しいゲームのようだ。


 リンは悩んだ。


 エリオスは有料の授業には気をつけた方がいいって言っていた。けれどもユヴェンの言葉も気になっていた。



 ——貴族でもない、まともな師匠もいないあなたが、はたしてそんなに上手くいくかしら?——



 あの時彼女が言っていたのはどういう意味なんだろう。彼女と同じ授業を受ければその答えが分かるような気がした。


 エリオスの言っていたこととユヴェンの言っていたこと。一方は課金が必要でもう一方はそうでもない。果たしてどちらの意見に耳を傾けた方が得なんだろうか。


 エリオスの意見に従った方が賢明なことは分かっている。けれどもリンはユヴェンの受けていた授業も受けてみたかった。


 ふとリンがテオの方を見てみると要項を見ながら口元に手を当てて考え込んでいる。テオもこの授業が気になるようだ。


(どうしたものか)


 リンが迷っているとおもむろにテオが授業を選ぶ。手には『物質生成魔法』の授業カードが握られている。


「テオ?」


「この授業が気になるんだろ?お前の勘当たってると思うぜ」


 テオは呪文を唱えてカードに宿る妖精を喚起する。


「エリオスの言うことなんて当てにならないさ。どうせ何もわかりはしないんだ。とりあえず飛び込んでみよーぜ」


 テオの喚起した妖精は提出用紙に文字を刻んでいく。


「この後エリオス達と会うんだろ?お前も授業選択で口出しされる前にさっさと決めちまえよ」


「なるほど。それもそうだね」


 リンも『物質生成魔法』のカードを手に取って呪文を唱えた。カードは青い炎となる。熱はない。リンの手元から提出用紙に向かって行き文字を刻む。


 リンの時間割は以下のようになった。



 月曜日:指輪魔法

 火曜日:質量魔法

 水曜日:物質生成魔法

 木曜日:冶金魔法

 金曜日:妖精魔法、機巧魔導初歩



 受講希望の用紙に記入事項をすべて記すと最後に用紙の妖精を喚起する。


「紙に宿る妖精よ。この時間割を魔導師協会の書棚まで運んでおくれ」


 記入用紙は青い炎となり魔導師協会アルフルド支部の建物まで飛んで行った。




 次回、第15話「学院生活」

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