君の魔法が解けなくて
「起きろー!」
「早く学校行くぞ!遅れるよ!」
「待ってよーーー」
君はいつもそうだ。
僕の前を走っている。
時より振り返る君に僕は頬を赤らめることしかできなかった。
そう、僕は君に恋という魔法をかけられたんだ。
僕は桜井健太。
シュタイン魔法高等学校に通う高校1年生だ。
西野華恋。僕は君が大好きだった。
この感情を抱いたのはいつだったかな。
小学生の頃、幼馴染で人気者だった君は暗い僕にとって憧れの存在だった。
いつからだろう。
この憧れは好きという感情に変わっていた。
もちろん、何度も告白しようと思った。
小学6年の夏休み、中学2年のクリスマス、そして、今だって。
でも、言えなかった。言いたくなかった。
だって、君には好きな人がいたから。
僕はそんな君を眺めていることしかできなかったんだ。
「健太ってさー、好きな人いないの?」
「い、いるわけないじゃん」
いるよ、君だよ、君なんだよ。
この言葉が言えればどれほど楽だったか。
「私はね、いるよ、好きな人」
知ってるよ。
蝉の鳴き声がいつもより鬱陶しく耳を打った。
いや、もっと蝉の鳴き声が大きくなってほしかった。
何も聞こえないくらいに大きく。
1学期が終わり夏休みに入った頃、君の好きな人は魔法戦争へ駆り出された。
君は泣いていた。
慰めの言葉をかけようと思ったが、僕の声は届くはずもなかった。
それからだろうか。
君との関係がこじれ始めたのは。
君は以前とは想像もつかないほどに暗くなり、僕は明るく努めようとしたが、君に笑顔はなかった。
君の好きな人が死んだことは魔法鳩で伝えられた。
僕は夏休み中、君の姿を一度も見なかった。
僕は君に笑ってほしくて、好きな人は死んでしまったけど君には僕がいるってことを知ってほしくて、いろんなことに挑戦した。
暗かった僕が2学期は委員長を務め、学祭では漫才もやった。
今までの僕には考えられないことばかりやっていた。
そんな僕に君は少し微笑み、「変わったね」と一言。
僕は嬉しくてたまらなかった。
笑わなかった君がまた少し笑ってくれたことが何より嬉しかった。
それから君は前のように明るい君に戻っていった。
僕はまた、平穏な日々が送れることを期待していた。
でも、それは叶わなかった。
君は僕の前から姿を消した。
何も言わず、静かに。
病院で泣いていた華恋の親を見て、僕は全てを知った。
あぁ、本当に君は無責任な人だ。
「これじゃあ、いつまで経っても解けないじゃないか、君が僕にかけた魔法が」