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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

孤島は本日も異常アリ

作者: ぱでぃ

シリアスものとかこった設定のある小説など書けません。

故に、緩く、何にも追われていない自由な主人公たちの物語を書きました。

とりあえず読んでやるという方はお進みくださいませ。

心が透くような晴天。

癒されるような澄んだ空気。

そして、無垢を感じる涼しげな風に揺れる自然たち。


そんな住み慣れた愛しの故郷は、本日も。


異常大アリです。





---帰りたい。


口から今にもこぼれ出そうな任務失敗の意を抑え、

まるで船酔いでもしたかのように、木目の上に突っ伏します。


常日頃からの例に漏れず、きっちりと手入れを施してきた黄緑色の髪の毛たちは、

まるでぼさぼさのほうきの毛先のように乱れつくしている。

私のささやかな自慢であったのに。

強いての不満は森の景色に生えないという点ではあるけれど、それはそれで良い点もあるのです。


逃げるときの擬態に使えるとか。

草木の隙間に隠れるのにちょうど良かったりします。


まあそんなことはどうでもいいのです。


毎朝欠かさずかわいがってきたこの私の魅力的で美麗な髪の毛については今は問題ではありません。

ええ、毛ほども問題のうちではありませんとも。


今すぐに大陸産の超髪に良いシャンプー使いたい思考にとらわれてはいませんとも。


とまあ、髪に始まり、神に文句を言いたいような緊急事態が山ほどあるので、

まずは割り切っていきましょう。


緊急事態その1 食料が尽きました。

私のフィールドワークという任務の関係上、最悪日を何日もまたいで帰還することはよくあります。

ゆえに、出発時に研究所から支給された食料と持ち出したあれやそれやこれはたいていお仕事が終わるころには消費しきってしまいます。なんならその日のうちに私の胃袋の中に消えて行ってしまうこともあります。故に普段は調査中に食糧調達をするのです、が。


緊急事態その2 現在、湖のど真ん中で漂流中。

わけあって、現在、食糧調達のままならない、水の上に浮かんでいます。

当然ボートの上なので、陸に上がることもできるのですが、それはしません。

なぜか。


緊急事態その3 逃亡中なう

頭痛が痛いみたいでいただけない言葉ですが、まあいいでしょう。

つまり、水の上であるのは、当然逃げていたからになるのですが、その相手というのが非常に厄介なのです。

湖の周囲をずらりと囲んでいるのは、この森に、それはもう大量に生息している生物。

古の文献で読んだ、物の珍しさの定義によれば、まごうことなきアンコモンというやつでしょう。

よく言えば愛され系モンスター。悪く言えば粗悪経験値。

何を想像するでしょうか?

スライム?

いいえ違います。

愛しのスライムちゃんなら倒れ伏した私の背中でぴょんぴょん飛び跳ねているはずです。

正解はゴブリン。

愛され系じゃない?

まあたしかにスラちゃんにはかないませんが、たくさんの創作文献に登場する有名なモンスターですから、

愛されているといえば愛されているのです。

まあそんな形骸化した形容など捨て去ればいいのです。

あの醜悪で凶悪な面を拝んでしまえば、愛されなどというお花畑的感想はそうそう抱けませんので。

まあ簡潔に言えば、追い立てられた魚のように水の上で縮こまっている原因がゴブリンさんです。


「ねぇねぇ、スラちゃんこの後どうしようか」


焦燥しきった私は、心をいやすためにスラちゃんに問いかけます。

無論答えは返ってきませんが、この両腕にすっぽり収まるこの子を見ていると、

不思議と落ち着きを取り戻していくのを感じるのです。


私の問いかけに反応するように、ぷるぷると体を震わせるスラちゃんの青く透明な体の中には、

一粒の果実が浮かんでいます。

ぶっちゃけてしまうと、これこそがフィールドワークの目的であり、この事態の元凶なのです。


この超癒し系生物、スライムは、私のフィールドワークの上において、最も重要なパートナー、

かっこよく言えば相棒なわけなのですが、

そんな彼、または彼女(性別不明)は、体内に捕食した物体を閉じ込め、消化するという特徴があるのです。

さらに言えば、消化せずに体内に、一切の変化をもたらさず保持し続けることが可能なのです。

まあ、飽食状態限定の機能みたいなので、常に満腹にしてあげないといけないのが難点です。

飽食状態が切れると透明な水みたいになるのですぐにわかるので問題はありませんが、

一緒に組み始めた最初の頃は左手を溶かされかけたりもしました。

今では立派な相棒です。


そんな彼に、今回のフィールドワークの目玉である、リコルの実を保管してもらっているのですが、

このリコルの実もなかなかの曲者で、強烈な依存性があるのです。

ゴブリン達の大好物ということで、今回の事態を引き起こしているわけです。

それはもう、親の仇のように執拗に追い立てられ、

いつもより血走った眼と、際限なく口元から流れ出る涎。

完全にイっちゃってます。

禁断症状というやつでしょうか。


古の文献にあるように、女子供をさらい繁殖するなんて畜生じみた行動をとらないことは研究済みですので、

乙女な私は安心して森に繰り出したのですが、そんなことよりも、体を八つ裂きにされそうです。


溜息しか出ない現状をどうにか変えるべく策をめぐらしますが、あまりよろしくない解決策が3つほど。


その1 スラちゃんをゴブリンの群れに放り投げる

これをやっちゃうと勝利確定なのですが、畜生たちとともにリコルの実まで消化されてしまうでしょう。


その2 どうにか包囲を脱出し、森の中を逃げ惑う

脱出は容易なのですが、結局これ以前の状況に戻ってしまうので却下。


その3 すべてを諦めてスラちゃんとともに帰還する。

これは結構アリです。

ですがそれをやると博士に怒られてしまいます。

最悪これを実行しましょう。


多少すいてきた小腹をごまかすためにスラちゃんを甘噛みしつつ、

最善策を思いつつこうと頑張ります。

ちゅるんと口に流れ込んできてしまい、むせて涙が出ます。


ふと、思いつきました。


研究所から持ち出してきたあれやこれやそれの1つがありました。

博士曰く、圧倒的魔力を封じ込めたステキステッキ、私から見ればただの枯れ枝が。


なんでも、使用者の望んだ現象を起こしてくれるとかくれないとか。

博士も気休めに使ったことがあると言っていました。

なんで研究所の奥で厳重保管されていたのかわかりませんが。

お守り系アーティファクトですね。

よくあります。


まあ物は試しです。

気楽にいきましょう。

まるで空想を描くかのように、魔法使いの気分の私は、枝先を空へとむけます。


「このまま研究所に飛べー、なんて」


それはもう能天気に、つぶやくように言いましたとも。

足元から唸り声のようなものが聞こえてきた気がしますが、

児戯に等しいこの遊びに、気合を入れすぎた結果でしょう。

何か熱いものがこみあげてきて、私の体を揺らします。

懐かしさのせいでしょうか?


まあこの時の私は極度の空腹でまともな思考などままならなかったはずなので、結果を言えば

体は物理的に揺れていました。

そして吹き上がる湖の水とともに、私は空へと舞い上がりました。

博士のある言葉が頭に響きます。


気休めなどでは済まなかった、と。


ああ、何たるファンタジー。


そう、この世界。

私の住む隔絶された孤島にはこんなファンタジーがいっぱいです。


上空から見ればそれがよくわかります。



常識離れした断崖絶壁の山々に、文明の後を感じさせない生い茂りすぎた森、噴火を繰り返す火山、

生物を拒絶する凍てついた凍土、その他いろいろ。

まるで一か所に世界の全てを詰め込んだような、ありえない生態系です。


上昇していく途中、鳥さんに出会います。


「どうも、こんに」


言い切る前に、開け広げられた口から発された光の玉が足元をかすめます。

手厳しいです。


落下を初めてしばらくすると、研究所が見える位置まできました。

場違いな、人工的建造物であるそれは、見慣れたマイホームです。

おそらく博士が報告を待ちわびていることでしょう。

成果物はここに、スラちゃんがしっかりと確保しています。

成果報告に問題はありません。


強いて言うならば、

私の口が開いてくれるかどうかです。


射方投射で寸分の狂いもなく研究所の南棟に飛ばされた私の体は、

重力加速度を受けながら、それはもう十分に加速しました。

そしてそのまま、研究所の壁面にぶつかることでしょう。

大破で済むといいな、私の部屋とかも。


極度の空腹と、上空での酸欠により、そこまで考えたところで私の意識は途切れました。


古の文献に乗っていたぎゃぐほせいというやつでしょうか。

研究所は轟音に包まれたそうですが、

命に別状はなかったそうです。






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