表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
アンデッド・リプレイ  作者: tukimi
第一章 転生
4/6

第四話 魔法

『魔導書』

それが、この本のタイトルである。

タイトルからして、魔法について書かれているのは明白だろう。

魔法。

胸躍る単語だ。

こんな世界に来たからには学びたい、覚えたい、使いたい、と思うのが自然の摂理だろう。

流石に命を代償にしてまで使いたいとは思わないけれど、

一年ぐらいの寿命で、空を自由に飛び回れるというのならば、僕は何の躊躇いもなく魔法を習得をする覚悟ならある。


嬉々として本を開くと、古臭い本特有の匂いが鼻に刺さった。

思わず、顔を顰めてしまうほどの強烈な匂いだ、随分と前から開かれていないのだろう。

悪臭にめげずにページを捲る。


「うわぁ…」


目に映ったのは気持ち悪いほど字で埋め尽くされた紙だった。

どのページを見ても、文字、文字、文字、文字、文字ばかりだ。

絵もなければ色すらついていない。

改行されていないし、文字が細かい。

その上、古い本だから所々文字が擦れたり破れている。

目眩がしてきた。


だが、この程度で諦めるわけにはいかない。

これが、チャート式だったら早々とリタイヤしていただろう。

放り投げて、ベットに飛び込み、二次元に逃げ込んだに違いない。


でも、これは違う。

数学の公式ではなく、魔法のやり方が記された本だ。

二次元などではなく、れっきとした三次元だ。

覚えれば、火を飛ばし、空を飛び、海を割ける……はずだ。

そう考えるんだ。

そう思い込めば、こんな本なんてことない。


この本は日本語で書かれているから読める。

ただ、余りにも漠然とし過ぎていて理解ができない。

呪文らしきものがズラリと乗っているだけで、どうすれば発動するのか、発動するとどうなるのか、全く書かれていないのだ。

何とも不親切な本である。


嘆いてもしょうがない。

取り敢えず、最初の一文。

『水の加護よ、我が手に集え、水玉(ウォータージェル)

おそらく、これで一区切りだろう。

これを、詠唱すれば魔法が発動する。 と、思う。

よし、試してみよう。


「水の加護よ、我が手に集え、水玉」


シーーン。


何も起こらない、か。

そう簡単には行かないとは思っていたものの、どうしたものか。

最初に書いてある呪文だし、これは簡単な部類の魔法だろう。

関係ない規則制、例えば五十音順とかで並べられているかもしれないが、僕ではその判断がつかない。


それから、大声で試しても、力を込めても、ポーズを変えても、うんともすんとも言わない。

水のミの字すら現れない。

もしかしたら、杖とかがいるのかもしれない。

それとも、魔法陣とか、トンガリ帽子とか、そういう道具を必要とするのかもしれない。


いや、それはないな。

以前、母さんにヒーリングをかけてもらった時にそんなものを使っている様子はなかった。

少なくとも、僕にはただ呪文を唱えた、だけのように見えた。


うーん。 このままじゃ、埒があかないし、教えてもらうしかないか。

聞くが一時の恥、聞かぬが一生の恥とも言うしな。

丁度、居間に暇そうに佇んでいる父さんがいた。

それにしても、 一家の大黒柱であろう人物が日中からダラダラしていて大丈夫なのか?

そもそも、父さんは一体どんな仕事をしているんだろう。

転生してから、数日経った今でも牙猪を狩った所以外働いている所を見た所がない。


「ん? どうした、リン?」

「父さんはこんな昼間っから、ゴロゴロしていて大丈夫なの?」


父さんは唖然とした表情を浮かべながら口をだらしなく開けている。

どうも意表を付いたらしく、珍しくあわあわと焦っている。


「リ、リン。 パパは別に好きでダラダラしているわけじゃないぞ! この時期は魔物も少ないからパパは働けないんだ」

「つまり、今は無職ってこと?」

「うっ! そう言われればそうだが、これには色々事情があってだなーー」


ゴニョゴニョと言い訳をし始めた。

大人の事情という奴らしい。

我が家の経済状況にやや不安を覚えるがーー

まぁ、いいや。

本題に入ろう。


「父さん。 僕に魔法を教えてください」

「魔法? リンは魔術を覚えたいのか」

「はい!」

「そうか、そうか、ママに教えてもらいなさい」

お茶をすすりながら、あっさりと断られた。

よく見ると、 冷や汗が滲んでいる。

何処となく鼻息が荒い。


「父さん……。 まさか、魔法が使えないんですか?」

ブッ! と勢いよくお茶を噴き出し、咳き込んでいる父さんを見て察した。

「ち、違うぞ。 パパの魔法はあまりにも強すぎるが故に、禁じられた魔法とされーーっていない!?」



✳︎



長ったらしい言い訳はもう聞き飽きたので、教師を変更することにした。


「あら、リンは魔法に興味があるの? 偉いわねぇ」


偉いのか?

魔法なんて禁忌のような扱いかもしれないと思っていたが、

どうやら、この世界で魔法は前世でいう所の勉強に当てはまるらしい。


「でも、ごめんねぇ、ママは忙しいから、パパにお願いして」


たらい回しである。

でも確かに、忙しそうだ。

どっかの暇人と違い、せっせと料理を仕込んでいる。

ほほう。 今日は鶏料理か、唐揚げがいいなぁ……いや親子丼も捨て難い……。

おっと、今晩のメニューに逸れそうになった思考を元に戻す。


他に誰か、魔術を心得ている人物が居ただろうか。


「ママー! 洗濯物畳んだよー!」


丁度その時、高い声が僕の耳に入った。



✳︎



幸いにも、姉である、百音も魔法の心得があった。

彼女曰く、魔法はイメージが大切とのことだ。

何が起こるのかをイメージし、徐々に形を創造し、具現化させる。

それが魔法のポイントらしい。


「まず、私が手本を見せるね」

「はい!」


兎にも角にも、魔法はどんなものなのか、見なければイメージしようもない。

先ほど、出来なかった『水玉(ウォータージェル)』を見せてもらおう。


「水の加護よ。 我が手に集え 『水玉』!」


詠唱が終わると、彼女の手の平に水滴のようなものが溜まりだした。

最初は汗と見間違える程度の物が徐々に増殖し、やがて手を包むほどの水玉が出来上がった。


「ジャーン! これが水玉だよ! わかった?」

「えっ?」


ーーショボ。 と思わず口に出してしまいそうになって慌てて口を塞ぐ。

どうもこれで完成形らしい。

ブヨブヨと手全体に纏わりついている水。

何の役に立つの? と、思わず尋ねたくなるが、自信満々に見せる彼女の手前口が裂けても言えなかった。

きっと、これがベースとなって成長していくんだろう。

数学で例えるなら、まだ足し算引き算の段階なのだ。

しかし、イメージと大分、ズレてるなぁ。

僕は、てっきり発射するものとばかり思ってた。


「初めの魔術は中々出来ないから、気にせず、慌てず、落ち着いて気楽にやってごらん」

「はい」


イメージを修正しよう。

水が手に纏わりつく感じ……。

手全体を包み込む感じ……。

うん。 これなら、できるかもしれない。


「水の加護よ、我が手に集え『水玉』」


っ!!

全身の血液が逆流するかのような感覚。

脊髄から未知の液体が溢れ出し、

脳みそから神経を伝って激痛の電流が流れ込む。

血管が膨張し、血液が沸騰し、皮膚が焼ききれそうになる。

まるで、手に体中の水分が持って行かれるようだ。


手に纏わりだす水。

しかし、それは丸みを帯びるどころか、形すら作らず、無残に溢れ出す。

ただの垂れ流し状態だ。

オマケに力がどんどん抜けていく。

これが、所謂、魔力という奴だろうか。

数分も持たない内に、水は打ち止めになる。


「はぁ……はぁ……」


魔法は想像以上にキツかった。

頭は捻じ切れるかと思うほど軋むし、体が鈍りのように重く感じる。

ものすごく疲れる。


「やっぱり、全然ダメだな……」


水を具現化させることはできた。

けれど、コントロールすることは出来なかった。

けれど、コツを掴んだような気はする。

けれど、これが初歩だと思うと、先が思いやられる。


「…………」


ポカーンと、姉さんは固まっていた。

この顔どこかで……。

ああ、唖然とした父さんの顔そっくりだ。


「どうしたの?」

「ど、どうしたじゃないわよ! リン、アンタ、今何をしたの!?」

「何って、水玉じゃないんですか?」

「あれが、水玉!? そんなわけないじゃない、あんな水がでるわけが……」


おろおろしている。

さっきの魔法がそんなに可笑しかったのだろうか。

確かに、あれは、失敗だった。

魔力を出しすぎたというより、魔力を抑えきれなかったに近い。

魔力を抑え込めなかったが故に、形が定まらず、ここまで疲労してしまったのだろう。

もっと、低出力で継続的に魔力を放出しなければならない。


「ありがとう、姉さん。お陰でコツを掴んだような気がするよ」

「えっ、そ、そう? なら、いいんだけど……」


姉さんはそう言って、髪を弄りながら、困ったような笑みを浮かべていた。




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ