表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/31

第六十七章 菊枝、組事務所に出入りする


決闘以来、菊枝は丸東組の組事務所に、茂の恋人として出入りするようになり、組員が喧嘩などで怪我した時には、たまたま菊枝が組事務所にいれば菊枝が手当てしていた。

組員達は菊枝が外科医だとも知らずに、「姉さん」と呼んでいた。医学的知識があると聞いていた為に、怪我以外に、病気の事など医学的相談もしていた。

ある組員が、「姉さんに聞いておきたい事があります。以前、丸西組の組員に腹を刺されて、出血が止まらず意識が遠のき、死にかけた事がありました。腕や足だと出血部位より心臓に近い所を、何かで縛れば、何とか出血は止まりますが、腹は縛れないし、どうすれば良いのですか?」と自分や他の組員が、そうなった時の為に知っておこうとしていた。

菊枝は、「そうね、あなたにできる事は、出血を少なくする為に血管を細くすれば良いのよ。細くする方法は冷やせば良いのよ。それと、何かナプキンのような清潔な物で傷口を押さえなさい。説明が逆になりましたが、要は、ナプキンのような清潔な物で傷口を押さえて、そのナプキンの上から氷などで冷やしなさい。これは圧迫止血といって、出血量が少なければ止りますが、多い時には止りません。これは悪までも出血を少なくする方法で、止める方法ではなく、更に内臓が傷付いていれば、その状態で救急車を呼ぶか病院に行くか、それなりの手を打たないと、死神が地獄までの片道切符を持ってお迎えに来るわよ。それと、先程言っていた手足の場合ですけれども、きつく縛らないと出血は止まらないので、きつく縛ると思いますが、ここで大切な事は、出血が止まるという事は血液が流れていないという事なので、たまには緩めて血液を流さないと、縛った所から、後の腕や足の組織が死んで切断しなければいけなくなるので注意してね。」と説明した。

別の組員が、「俺も姉さんに聞きたい事があります。実は、先日、俺の女房が胃癌で死にましたが、俺も女房も全く気付きませんでした。胃癌かどうかは素人には解らないのですか?」と、もし自分も胃癌だったら怖いので確認した。

菊枝は、「そんな事ないわよ。癌は腫れるのよ。と言っても、虫刺されの様に一部分だけが腫れずに、全体的に腫れます。だから素人は中年太りだとかビール腹だと思うのよね。でもね、栄養を癌に摂られるから痩せるのよ。胃癌を早期発見しようと思えば毎日体重測定する事ね。中年太りで体重も増えれば問題ないけれども、中年太りで体重が減れば、癌だとは言わないけれども、何かの病気である事は間違いないわね。要は、太れば必ず体重は増えます。太ったにも関わらず体重が減れば、太ったのではなく病気がその原因だと考えられるので危険信号ですね。その段階で病院に行けば助かる可能性は高いですね。」と説明した。

その組員は、「そう言えば女房のやつ、胃癌と解る前に中年太りになったとか何とか言っていたが、それが癌だったのですね。ちょっと知識があるかどうかで生死を分ける事があるのか。今後とも色々と教えて下さい。まだ天国には行きたくないですから。」と納得していた。

別の組員が、「心配しなくても、お前は天国には行かないよ。間違っても天使のお迎えは来ないよ。死神が地獄までの片道切符を用意して待っているぜ。いつまで待たせるつもりや?あまり待たせると気の毒だぜ。」と笑っていた。

その組員は、「その片道切符はお前に譲るよ。待たせれば悪いのだろう?」と切り返した。

数日後、菊枝と決闘した組員の一人が茂に、「姉さんと決闘して以来、体調が思わしくなく、姉さんには相談しづらいので、近くの病院に行って来ます。」と病院に行こうとしていた。

茂は、「それだったら、知合いの外科医を紹介するよ。今連絡するからちょっと待て。」と指示して菊枝に電話した。

電話を終えると茂は、「世界一の名医と噂されている、関西病院の芹沢外科医に頼んでおいたぞ。診てくれるそうだ。直ぐ連れてこいと言っていたので、下手な外科医より頼りになるぞ。」と組員を関西病院に連れて行った。

病院では菊枝に付いている浜田が、「次の患者は、あの怖い丸東組の組員です。大丈夫ですか?」と菊枝の事を心配していた。

菊枝は、茂から内容を聞いていた為に浜田に、「やくざにもピンからキリまであるわよ。どうせ女にやられて体調が悪くなるような情けない組員でしょう。大丈夫よ。」と余裕でした。

浜田は、「菊枝さん、何故そんな事を知っているのですか?」と不思議そうでした。

菊枝は、「私の患者にやくざが多いでしょう。そのやくざから聞いたのよ。今日病院に来るってね。」と胡麻化した。

その組員は、看護師の指示でレントゲン撮影後診察室へ入った。

菊枝は組員に背を向けた状態で、レントゲンを確認しながら、「どうされましたか?」とこの組員はまだ私の事に気付いていないわね。いつ気付くかしら?と組員に問診していた。

組員は、「数日前、転んで、お腹を打って以来食欲がないのです。」と外科医が菊枝だとは全く気付いていませんでした。

菊枝は、「転んだ?只、転んだくらいではこんな状態にはなりませんよ。正直に言ったらどうなの?女にやられたって。」と私の声で気付かないとは鈍感ねと呆れていた。

浜田は驚いて、“そんな事をやくざに言ったら怒らせちゃう。”と怖がっていた。

組員は図星だったので、思わず立ち上がり興奮して、「何だと!もう一度言ってみろ!この俺が女にやられたとでも言うのか!俺は天下の丸東組の組員だぞ!」と浜田の予想通り怒りだしたので、ビビっていた。

菊枝は、最後まで気付かなかったわねと諦めて振り返り、「ええ、何度でも言ってやるわよ。女にやられるような情けない組員だから、ちょっとした事で体調が悪くなるのよ。矢張り、お子ちゃまね。まだやる気?武器もなく素手で一対一だと、命の保証はないわよ。」と組員に迫った。

組員は菊枝を指差して、「あっ!」と外科医が予想外の人物だった為に言葉を失った。

菊枝は、「ぼくちゃん、そこのベッドにポンポン出して横になりまちょうね。」と胸倉を掴んでベッドに押し倒して診察した。

菊枝は、「あなた、一度吐血してない?放置しておけば治るとでも思ったの?胃から出血していて、血液が胃の内部に溜まっているわよ。人間は肉食動物ではないので吐き気がすると思いますが良く我慢していたわね。」と説明して胃洗浄した。

菊枝は、「止血剤を入れておきましたが、しばらく入院して下さい。出血が止まらなければ手術します。」と説明した。

菊枝はその組員に、「茂があなたの親代わりよね?茂も来ているの?」と茂に組員の状態を説明しようとしていた。

組員は、「いいえ、兄貴は先に帰りました。」と急に大人しくなった。

組員が入院手続きに行くと浜田が、「菊枝さん、あの患者は菊枝さんの顔を見ると急に大人しくなりましたが知合いですか?」と確認した。

菊枝は、「私の患者の東城さんが、あのやくざの兄貴分だから大人しくなったのよ。」と説明した。

菊枝は勤務終了後、組事務所へ行き、茂に組員の状態を説明した。

菊枝から説明を聞いた茂は、「俺には医学の事は解らないので、全てお前に任す。」と菊枝に任せて出掛けた。

菊枝も帰ろうとしていると、別の組員が足を骨折する大怪我をした。

菊枝は止血し、添え木で患部を固定して、「応急手当てだけでは無理なので、今晩この状態で我慢して、明日真夜中に関西病院に来て下さい。」と指示した。

組員は、「姉さん、病院に行くと察に勘づかれる恐れがありますし、何故今日ではなく明日の真夜中なのですか?」と菊枝の真意が理解できませんでした。

菊枝は、「大丈夫よ、関西病院で明日、外科の夜勤は私ですのでね。今日病院に行くと、警察に通報されて、警察の見張りつきで、退院後刑務所で過ごす事になるわよ。」と返答した。

組員が、「姉さん、外科医だったのですか?」と菊枝の予想外の職業を信じられなくて確認した。

菊枝は、「あら?茂に聞いていませんか?よく病院に治療に来ましたよ。もし、希望するのでしたら、入院しなくても済むようにするので。但し後遺症は残るかもしれませんよ。あなたにはっきりして欲しいのは、警察に逮捕される危険をおかしてまで完全に元通りになりたいのか、後遺症が残っても逃げ切りたいのか。後遺症というのは、跛になる可能性が高いわね。明日、病院に来るまでに決めといてね。それによって、治療法も変わりますので。」と説明した。

組員は、「警察を誤魔化す治療法があるのですか?」と菊枝の説明の意味が理解できませんでした。

菊枝は、「入院しなければ、その後の事は私が誤魔化すわ。入院の場合、私が不在の間に看護師が対応すれば、あなたはやばい事になるかもしれないという事よ。それから、スケバンの菊枝が姿を消したのは受験勉強の為で、やくざに殺されただなんて言うと、私があんたを殺すわよ!私は医師なので、あなたが今飲んでいるそのお茶に細工すれば、あなたは直ぐに死ぬわよ。」と哲也を睨んだ。

お茶を飲んでいた哲也は、菊枝の予想外の一言に、飲んでいたお茶を吹き出して、「ちょっと待って下さい姉さん、私は噂を言っただけで、私が言った訳では御座いませんので。」と謝った。

足を骨折した組員は色々と考えて、「姉さん、元通りになる為に入院しても、警察は誤魔化して頂けるのですよね?」と確認した。

菊枝は、「先ほども説明したように、私が対応した場合は誤魔化すわ。考えておいてね。」と返答した。

足を骨折した組員は、明日の夜まで動けない事が解り、「その間、トイレはどうするのですか?」とどうすればいいのか確認した。

菊枝は、「トイレは尿器でとるかオムツね。大便は一晩ぐらい我慢できるでしょう。」と返答した。

組員達は、「しょんべんの世話は女にさせろ。俺達は嫌だぜ。そうだ。浣腸すれば、うんちは我慢できるかな?」と皆でからかい笑っている中、骨折した組員は、「俺は玩具じゃないぞ。」と怒っていたが、動けずに何もできない為に、その後も組員達に色々とからかわれていた。

夕食に、気付かれないように、こっそりと夕食前に買ってきた下剤を食事に混入されて、翌日に下剤が効いてきて必死に便意を我慢している様子を見て、「昨晩、たっぷりと混入させた下剤が効いてきたようだな。今朝にも下剤をたっぷりと追加しておいたので、今夜病院に行くまで我慢できるかな?」と大笑いされていた。

その日は、「くすぐれば漏らさないかな?」などといろんな事をされていた。

その夜関西病院に行くと組員の様子が可笑しい事に気付き、事情を聞いた菊枝は大笑いして看護師に差し込み便器で排泄させるように指示した。

結局その組員は、菊枝が病院にいる時に警察が来る事を祈り入院し、胃からの出血の組員と相部屋にした。

入院後菊枝が病室を訪れると、組員が看護師に悪戯しようとしていた為に、「二人共、大人しくして他の患者やスタッフに今のように迷惑掛けないでね。もし迷惑を掛けるようだったら、私が看護師に、“この患者は少し五月蝿いので、痛み止めの薬の量を減らすように”と指示するわよ。痛みで苦しみたくなければどうすれば良いのか解っているわよね。」と睨んだ。

組員は、まさか医師がそんな事するとは思わなかった為に、「外科医がそんな脅迫めいた事を言っても良いのか!」と怒った。

菊枝は、「茂から、“医学の事は解らないので全てお前に任す。“と任されました。あなただけ、痛み止めの薬を少し減らします。」と、その場にいた看護師に指示して病室を出て行った。

もう一人の組員が、「馬鹿だな。お前、姉さんに逆らうからだ。」と笑っていた。


次回投稿予定日は12月27日です。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ