第九十一章 伝説の名パイロット日本へ
パイロットのマリは、親子三人仲良く暮らし、太郎も恵子もセスナ機やジェット機の操縦を、“私達は世界一のアクロバット飛行チームの指導教官に指導して貰えるだなんて幸せだな。”とマリに指導して貰い、その事を飛行機仲間に自慢していた。
アメリカ空軍アクロバット飛行チームの指導教官としてマリが五年ほど務めた頃に、マリの両親が交通事故で瀕死の重症を負い病院に搬送された。
マリは勤務中でパイロットの実技指導を行っていた為に、上官が連絡を聞き無線でマリに知らせた。
マリは指導を終了させて空軍基地へ帰還し、上官もマリの両親は重体だと聞いていた為に、上官の計らいで、空軍基地から空軍ヘリで病院のヘリポートまで着替えずに軍服で送って貰った。
マリが病院に到着して、両親の変わり果てた姿を見てショックを受けていると、何か呟いていた。
マリは、「何?何か言いたい事があるの?」と口元に耳を近づけた。
二人とも譫言で、マリの事と日本へ帰りたいと繰り返し、事故はジェット戦闘機が飛んでいて、暴走車はジェット戦闘機に攻撃されて暴走車になったとも呟いていた。
マリが泣いていると医師から、「残念ですが母親はもう助かりません。」と告げられた。
マリが到着して約一時間後に、マリが見守る中、母親の心臓が停止した。
マリは母親にすがり付き、泣きながら母親に、「母ちゃん、今迄のように色んな話を聞かせてよ。」と母親と楽しく過ごしていた頃を思い出していた。
その後マリは医師から、父親が植物状態になる可能性が高い事を告げられた。
その夜、上官がマリの携帯に連絡して、「マリ、ご両親は重体だと聞いたがどうだった?」と心配していた。
マリは、「はい、母は亡くなりました。父は植物状態になる可能性が高いそうです。今日は着替えずに軍服で病院に来ましたので、明日一度空軍基地に行きます。詳しい話はその時にします。」と泣いていた。
上官は最悪の事態に驚き、「そうか。こんな時は何と慰めれば良いのか解らないが、気を落とさないようにな。それと病院では携帯の電源は切っておけよ。今夜は一人で大丈夫か?女子事務員に行かせようか?」とマリと仲が良かった事務員に心のケアーを依頼しようとしていた。
マリは、「お気遣い、有難う御座います。今夜は病院に泊まります。病院スタッフもいますので私は大丈夫です。」と他人に迷惑を掛ける事を避けた。
上官は、「そうか。何か困った事はないか?軍服で直接病院に行ったので、お金は持っているのか?」とマリの事を心配していた。
マリは、「あっ、そう言えば小銭しか持っていません。」と上官の一言で思い出した。
上官は、「解った。明日の朝、女子事務員に、病院まで持っていかせるよ。その他何か困った事があれば、遠慮せずにいつでも私の携帯に電話して良いから。それじゃ、明日、空軍基地で待っています。」と精神的に弱いマリを心配して電話を切った。
その後、マリは日本に住んでいる父の弟次郎と、母の実家の両親に、“日本との時差は何時間だったかな?アメリカが夜中だという事は、日本は夜じゃないわね。”と訃報を知らせた。
次郎も母の両親も突然の訃報に驚き、「直ぐに行くから悲しいだろうが、それまでは一人で頑張るんだぞ。」とマリを励ました。
マリは、母の両親に、「もう、歳なので無理しなくても良いですよ。もし来られるのでしたら、ハワイで一泊して時差調整する事を勧めます。」と助言した。
翌日、マリは空軍基地で、両親は暴走車に巻込まれた事など、警察から聞いた事故の状況を上官に説明した。
その後マリは、「今説明しましたように、警察の説明では暴走車の事は詳しく説明がありませんでした。両親は譫言で、ジェット戦闘機に攻撃されて暴走車になったと呟いていました。上官、何かご存知ではありませんか?」と確認した。
上官は、「そのような話は聞いてない。譫言なので、何か混乱していたのだろう。」と返答して、”秘密部隊の由美子君が、もう少し早く現場に到着していれば、マリの母親も助かったかもしれないな。“と残念がっていた。
マリは、「そうですか。今は乗務できる精神状態ではありませんし医師から、“日本の大日本医療大学の脳外科が進んでいるので、意識を取り戻す可能性があります。“と説明されました。日本は父の故郷で、譫言で日本に帰りたいと繰り返していたので、母の通夜と葬式が終われば、父を日本の病院に転院させます。しばらく有給休暇をお願いします。」と有給休暇願を提出した。
「今回は、お父様の件があるので許可しますが、戦場ではどんな精神状態でも関係なく敵は襲ってきます。敵兵士に有給休暇は勿論、ちょっとタンマは通用しません。君に足りないのは、そういった強い精神力です。上空で予想外の事が起こると、君は冷静さを失いパニックになり、判断を誤る可能性があります。空軍パイロットは操縦技術だけでは務まりません。この有給休暇の間に、民間機のパイロットと空軍のパイロットとの違いを良く考えておいて下さい。」と指示された。
マリは、全くその通りだと思い、今迄、良い気になっていた事にショックを受けていた。
マリから訃報を聞いた父の弟次郎と、母の両親がアメリカに来て、予め連絡を受けていたマリは空港まで迎えに行った。
次郎は、「マリちゃん、日本語は大丈夫ですか?」とマリとのコミュニケージョンについて確認した。
マリは、「はい、大丈夫です。今回は色々とお世話になり、申し訳御座いませんでした。しかし皆さん、偶然同じ便だったのですか?」と不思議そうでした。
次郎は、「そんな事は気にしないで。私達は、アメリカの地理が解らないから、マリちゃんに迎えに来て貰わなければならないので、別々に来れば迎えに来るマリちゃんも大変だと思い、相談してハワイで待ち合わせして同じ便で来ました。それにしても久しぶりだね。マリちゃんが子供の頃に一度日本に遊びに来て以来ですね。今回は色々と大変だったね。でも案外元気そうなので安心しました。」と安心していた。
母の両親が、「その時に私達の所へも来てくれましたね。その時に会った惠子の妹由美子が入院中なので今回来られずに残念がっていました。あの時はマリちゃんがオネショして大変でしたね。」と笑った。
次郎は大きな声で、「えっ!?マリちゃんにはオネショ癖があったのか。」と確認した。
マリは顔を赤くして、「こんなに大勢の人前で、そんな大きな声で変な事を言わないでよ叔父さん。そんな癖ないわよ。子供の頃は、まだ筋肉も充分発達していないので、誰でもオネショぐらいするでしょう。」と不機嫌そうに怒っていた。
恵子の母親が、「理屈っぽいのは恵子とそっくりですね。人が大勢いても、日本語の解る人はいないでしょうから心配しなくても大丈夫ですよ。」と安心させようとしていた。
マリは、「それはそうかも知れませんが、そんな事を大きな声で言われると嫌ですよ。」と恥ずかしそうでした。
恵子の母親が、「確かにそうですね。次郎さん、女性の心理をもう少し考えてあげて下さいね。今マリちゃんは精神的に大変なのですから。」と助言した。
その後、次郎や恵子の両親と通夜と葬式の準備をした。恵子の両親は英語が喋れませんでしたが、次郎は英語が堪能でしたので、準備は次郎とマリが教会と相談して次郎達が準備していた。
恵子の両親は、「私達は、英語は学校で習った程度で英会話はできない為に、結局マリちゃんに負担をかけますね。」と準備していた。
マリが次郎達と通夜や葬式の準備をしている時に、空軍基地ではマリの上官がマリの事を空軍基地の指揮官に報告していた。
マリの上官は、「マリの操縦技術は超一流で、アメリカ空軍自慢の秘密部隊以上です。他の空軍パイロットは彼女の足元にも及びません。彼女の唯一の弱点である精神面について、今回の事で精神的に強くなれば天下無敵のパイロットに育つ事は間違いありません。彼女を秘密兵器扱いにして、常時護衛をつけることを提案します。」と進言した。
指揮官は、「護衛と言えば聞こえは良いですが、彼女を守るという事は、常時彼女を見張る事になります。マリは若い女性である事を考慮すると許可できません。」と残念ながら却下された。
マリは母の両親に、母親の墓を譫言で言っていた日本に建てる事について相談すると母の両親は、「恵子は桜井家から芹沢家へ嫁がせた娘なので、芹沢家の墓へ入れてやって下さい。」と希望した。
次郎が、「墓を日本に建てるという事は、葬式は日本で行うのか?」と確認した。
マリは、「普通はそうかも知れませんが、母はアメリカに長く住んでいた為に、日本には母の知合いも少なく、淋しい葬式になると母も悲しむと思うので、アメリカで葬式をして出棺後、アメリカで遺骨にして日本に連れて帰ります。墓に入れるのは日本ですので、葬式の残り半分を日本で行う事になります。」と説明した。
マリは次郎に、母の墓の事と、父を大日本医療大学に入院させる事を相談すると次郎は、「通夜と葬式が終われば、日本へ帰って受け入れ体制を整えておきます。大日本医療大学へは、アメリカの病院から連絡して頂けるのですね。病院以外の事は準備しておくので、マリちゃんの準備が整えば日本へ来れば良いよ。」と返答した。
恵子の両親は、「そういう事で次郎さんは一足先に日本へ帰りますが、マリちゃん一人だと何かと心細いと思いますので、私達はこのままアメリカに残り、マリちゃんと一緒に日本に帰ります。英会話ができない為に、あまり役に立たないかもしれませんが、炊事、洗濯、掃除はできます。その他の雑用は主人がしますので、安心して下さいね。でも私達も、もう歳なので力仕事は無理ですけれどもね。」とマリを助けようとしていた。
母の通夜と葬式が終わり、次郎が日本へ帰ると、マリは父が入院中の病院と相談しながら、大日本医療大学と連絡をとり転院手続きを行い、母の遺骨を胸に、医師の付き添いの元、母の両親と父を連れて日本へ向かった。
次回投稿予定日は、4月4日です。




