第八十八章 梅沢刑事の娘、刑事になる
梅沢刑事の子供も、既に社会人になっていて、子供の頃に、“お父さんを殺した犯人を、刑事になって捕まえる。”と誓ったように、長女の佳子は刑事になっていた。丸東組の三郎を逮捕したのは、佳子でした。
一番下の男の子、修もお父さんを殺した犯人を捕まえようとして、大学で犯罪心理学を専攻後警察に就職した。
現在警察学校に通っていて、解らない事などは、佳子に聞いていた。
気の弱い教員志望の男の子、博は上がり症の為に、結局教師になれずに、飽きっぽい性格でしたので、佳子はその性格からして、普通の会社では務まらないと判断して、人材派遣会社へ就職させて、色んな企業に派遣されていた。
何か問題があれば、刑事である佳子を、いつも頼っていた。
佳子は、「二人共、私がいなければ何もできないの?男のくせに情けないわね。もっと確りしなさい。特に修は刑事になるのでしょう?仕事は、お父さんを捜す事だけじゃないのよ。命懸けの仕事だって事、本当に解っているの?」といつも説教していた。
ある日、博の派遣先企業と言っても、工場で、殆どが男子社員でしたが、少ししかいない女子社員が、帰宅途中に暴漢に襲われて、その時は大声を出して逃げきった。
彼女は学生時代に陸上部でしたので足が速くなんとか逃げ切れた。
それ以来ストーカーされているようで怖いと訴えて、退社時間を早めて、ストーカーに会わないように、帰宅時間をいつも変えていた。
しばらくすると、今度は家を見張られているような気がすると、出勤時間も毎日変えるようになり、数少ない女子社員なので、一人抜けると他の女子社員の負担が大きくなり、他の女子社員から苦情があり工場側も困っていた。
工場長は、不信に感じて女子社員に、何故警察に届けないのかを確認した。
女子社員は、「高校時代の同級生が、ストーカーの事で警察に届けた事があり、警察は民事不介入で具体的な被害がないと動いてくれず、“近くを巡回している警察官に、注意するように連絡しておきます。”と守ってくれなかった為に、そのストーカーに、“警察にチクッたな!”と刃物で刺されてしばらく入院していました。」と仕返しを怖がっているようでした。
その様子を見ていた博が工場長に、「私の姉は刑事なので相談してみます。」と伝えて姉に相談すると早速、姉の佳子は弟の為に、同僚刑事と工場を訪れて、同僚刑事と工場長に警察手帳を提示し、弟の博と工場長に相談の上、刑事だと名乗れば、仕返しが怖く警察に届ける事を躊躇っていた女子社員を驚かせますが、いずれ解る事なので刑事だと名乗る事にした。
博は女子社員に、「私の姉の佳子です。姉は刑事なのでストーカーの事で相談に乗って貰いました。」と姉を紹介した。
佳子は、毎日同じ時間に通勤するように説得し、「通勤は、私達がアベックを装い、後から付いて行くので大丈夫です。夜、家を見張られているようで怖かったら、私が泊まり込むので安心して下さい。」と説明した。
その時に同僚刑事は、「あの~、私はどうすれば良いのでしょうか?」と佳子一人に任せるのは心苦しそうでした。
佳子は、「女性の部屋に、男性が泊まれないでしょう!あなたは朝一番に彼女の自宅まで来なさい。」と指示した。
博は、「何故離れて付いて行くの?彼女を守るのだったら、友達として一緒に行けば一番安全ではないの?」と不思議そうでした。
佳子は、「それだと、ストーカーは彼女を襲わず、いつまでも彼女の近くをうろうろしていて、私が彼女を守る事を辞めた途端に襲われるわよ。離れていれば襲って来るので、そこを逮捕します。」と説明した。
一週間後、佳子の予想通りに彼女が襲われて、佳子と同僚刑事が婦女暴行の現行犯で逮捕した。
彼女がこの事を工場長に報告して、佳子も工場長に挨拶して署に戻った。その後、彼女は通常勤務に戻り、他の女子社員からの苦情もなくなり工場も助かった。
この事が工場内でも噂になり、不良に絡まれたとか詐欺にあったなどの相談が、派遣社員の梅沢博を通じて刑事である博の姉、佳子にされた。
佳子は些細な事でも弟である博の為だと思い、親身になって相談に応じ、必要な場合には刑事として対応していた。
ある日、アパートで一人住まいの男子社員が、「隣のXX号室の住人が拳銃らしき物を持っていたのが見えた。」と近くで発砲されると怖く博に伝えた。
博は拳銃と聞き、姉に知らせた。
佳子は上司に、「はっきりと拳銃を見た訳ではないのですが、念の為に捜査します。」と報告して、同僚刑事と捜査を始めた。
アパートの大家の話では、その住人は一人暮しで近所でも、その住人以外は目撃されていませんでした。
向かいのマンションの踊り場から双眼鏡で確認すると、もう一人隠れている事が判明し、望遠カメラで写真を撮り警察署で確認すると、指名手配されている事が判明し上司に報告した。
上司は部下に、「拳銃の目撃証言があります。全員防弾チョッキを着用の上、拳銃を携帯して現場に向かうように!」と指示した。
佳子が保険のセールスレディに化けて、「話だけでも聞いて下さい。」と強引にアパートの部屋へ上がり込み、部屋で揉めている時に、他の刑事達が、「警察だ!」と部屋へ突入した。
押し入れに隠れていた指名手配犯は、慌てて窓から逃げようと、押し入れから出ると、予め部屋に入っていた佳子が、逃亡を阻止した。
拳銃をポケットから出そうとしたので、数名の刑事が取り押さえ、指名手配犯を逮捕し、アパートの住人を犯人隠匿罪で逮捕して本署に連行した。その後佳子は、その隣の住人である博の同僚に、拳銃目撃情報のお礼と、犯人逮捕を報告して署に戻った。
その後、工場は受注に失敗して仕事が減った為に、博は派遣契約を打ち切られて惜しまれつつも次の派遣先に向った。
しかし、その数ヶ月後、帰宅途中に、また女子社員が襲われて、その暴漢が、「やっと見付けた。先日はよくも俺のダチを警察に売りやがったな。リベンジしてやる。」と追い駆けられた。
足の速い彼女は何とか逃げ切った。
帰宅後、自宅から工場へ電話して、「もう明日から怖くて工場へ行けません。数ヶ月前に派遣で来ていた梅沢さんの連絡先を教えて下さい。」と頼んだ。
工場長は、「派遣会社と連絡を取ってみます。」と一旦電話を切って派遣会社に電話した。
事情を説明した。
派遣会社の返答は、「あなたも非常識な人ですね。今、梅沢君は別の会社に派遣しています。お客様に迷惑を掛けられませんので、そのような用件で連絡できません。だいたい派遣契約を打ち切ったのはあなたでしょう!それに、そのような事は、私達の仕事ではなく警察の仕事です。相談されても困ります。警察に相談して下さい。」と断られた。
彼女の件だけではなく、色んなトラブルの相談にものって貰っていたので、派遣契約を打ち切った事を後悔していた。そして彼女に連絡して警察に通報するようにと指示した。
警察の対応は、「具体的な被害がない為に、近辺を巡回している警察官に注意するように連絡しておきます。何かあればまた連絡して下さい。」という返事でした。
次の日、工場長に警察からの返事を伝えると工場長は、彼女の勤務時間が、不規則になると困るので、「先日君を守ってくれた梅沢刑事に、直接連絡してみればどうですか?」と助言した。
さっそく彼女は警察署に電話しましたが、捜査で外出しているとの事でした。
彼女が怖くて一人では帰れないというので、今日の所は男子社員が自宅迄送ることになった。
しかし、次の日、二人とも出勤して来ませんでした。無断欠勤をするような社員ではないので、心配して工場長が携帯と自宅に電話すると、女子社員は一人住まいの為に誰も出ませんでした。男子社員の自宅も携帯も、家族も誰も電話に出ませんでした。
悪い予感がして、男子社員は家族と同居しているので誰かいるだろうと判断して、自宅を訪問しようと外出の準備をしていると、刑事が訪ねて来て、昨晩二人共暴漢に襲われたと聞き、大変な事になった。経費をケチらずにタクシーで帰宅させるべきだったと後悔していた。
刑事から、「病院に搬送されましたが、二人共意識不明の重体です。何か心当たりはありませんか?」と質問された。
工場長は意識不明と聞き、思わず絶句して、その後、今迄の経緯を説明した。
刑事は、先日梅沢刑事が逮捕した暴漢の交友関係を洗い出して、犯人を特定し、被害者の意識が戻るのを待ち、確認の上、逮捕した。
しかし、残念ながら男子社員は亡くなりました。女子社員は男子社員が庇い、途中通行人が来たので、命を落とさずに済んだ。
女子社員は退院後に、自分を守ってくれた男子社員の死亡を聞き、精神的ショックは大きく、しばらく有給休暇を取った。
工場長も、事情が事情ですので、長期休暇を許可し、“梅沢君の派遣契約を打ち切らなければ、こんな事にはならなかったかもしれないな。”と後悔して派遣会社に、“梅沢さんの手が開けば、弊社へ再度派遣をお願いします。”と依頼した。
次回投稿予定日は3月23日です。




