第八十七章 陽子、再び両親と同居する
卒業旅行も終わり、陽子は先生や同級生達とも別れの挨拶をしてから引っ越して、再び両親と同居する事になった。
陽子の実家は最初、芹沢外科医院に併設していましたが、それだと茂が不便なので、「丸東組の本部に住居を構えないと、組員に示しがつかないし、陽子のペットも病院では飼えないだろうが。だいたい猛獣を放し飼いにしている病院なんて聞いた事ないぞ!」とか何とか言いながら、結局丸東組の本部に引っ越して、芹沢外科医院に併設した住居は看護師寮になってしまった。勿論、菊枝も病院に泊まる事があるので、寮には菊枝の部屋もあった。
菊枝は、“父が、主人は丸東組の組長だと気付いたら只じゃ済まないだろうな。父も歳だし脳卒中で倒れられると困るし、父が家に来る時だけ寮に行き、看護師は下宿させていて、茂は出張だと説明して誤魔化すしかないか。電話番号は携帯の番号を知っているので家の番号を教えるのを忘れていた事にしよう。”と困っていた。
陽子は同級生達に、丸東組の住所を教える訳にもいかず、「高校卒業後は一人住まいするかもしれないので、住所が決まったら連絡するわね。それまでは、郵便は母が開業している芹沢外科医院か看護婦寮には、母の部屋もあり、看護婦もいるので、同窓会の案内などはそこへ郵送してね。電話は携帯にね。」と説明した。
陽子が丸東組の跡継ぎだと知っている同級生達には、丸東組の住所を、「本当はここに住んでいるけれども、事情を知らない人に宛先として、丸東組の住所を教えられないので、そういう事にしました。」と教えた。
事情を知らない同級生の一人が、「何故、家に郵送したらいけないの?陽子が一人暮ししていても、家には両親が住んでいるのでしょう?」と不思議そうでした。
陽子は、「えっ?いや・・その・・何というか・・」と返答に困っていると、事情を知っている同級生が、「ほら、陽子のお母さんは、世界的名医で多忙なのよ。勿論その主人である陽子のお父さんも多忙なので留守がちなのよね。そうよね、陽子。」と助けてくれた。
陽子は、「あっ、そうそう、そうなのよ。看護婦寮や病院だと必ず誰かいるから。」と説明して、その同級生に、「有難う、助かったわ。」と感謝していた。
同級生の知子が、「陽子、先程から気になっていたけれども、今、看護婦寮って言わなかった?今は看護婦ではなく看護師じゃないの?将来医者になろうとしている人が、そんな言葉を使っても良いの?」と指摘した。
陽子は、「私、病院には子供の頃に風邪で行ったくらいで、最近は行っていないので、看護婦のほうが親しみやすいのよ。看護師なんて硬く聞こえて、優しいお姉さんのイメージじゃないのでね。今後は気を付けるわね。有難う。」と返答した。
知子は、「病院に行ったって、陽子のお母さんは医者じゃないの?何故お母さんに見て貰わなかったの?」と疑問に感じた。
陽子は、「そうじゃなくて、母は外科で内科や小児科じゃないから。女性だから小児科か内科と勘違いしたの?」と返答した。
知子は、「そうか外科だったのか。女性の外科医は少ないから、てっきり内科か小児科だと思い込んでいたわ。」と納得していた。
別の同級生が、「陽子のお母さんは、神の手を持つと言われている、世界的な名外科医じゃないの。」と助言した。
知子は父母懇談会の日に診察してくれた、両親の知り合いの医師が、陽子の母だとは気付いていませんでした。勿論陽子も、母が知子を診察した事は知りませんでした。
知子は、「看護師寮に、お母さんの部屋があるって別居しているの?離婚寸前だとか。」と疑問でした。
陽子は、「違うわよ。父と母はうまく行っていて、同居しているわよ。芹沢外科医院には入院施設もあり、目の離せない患者が入院している時や、夜中に急患で緊急呼び出しがあれば、病院に泊まる事もあるのよ。その為の部屋よ。変な事を言わないでよ。」と不機嫌そうでした。
知子は、「そうか。御免ね。」と謝った。
この時はまだ、知子がエスベック病に侵されているとは、陽子も知子自身も知らなかった為に、二人共楽しく会話していた。
大日本医療大学医学部に進学した陽子は、父と丸東組の跡継ぎについて話合い、父から卒業後の条件が出された。
茂は、「大学卒業後は、開業医や勤務医は認めない。大学の研究室に残り、医学部の教授を目指せ。俺達は何かと怪我の多い商売なので、外科の教授を目指せ。但し小児外科などは駄目だぞ。理由は説明しなくても解るよな!それ以外の場合は丸東組を継げ!」と条件を出した。
陽子は、「お父さん、どこで小児外科なんて言葉を覚えたの?やくざの組長が、そんな言葉を知っているとは思えないわ。」と不思議そうでした。
茂は、「いや、陽子を外科に進まそうと母さんに相談したら、“陽子が小児外科に進んだらどうするの?”と指摘されたのでな。」と苦笑いしていた。
陽子は、「小児外科でなくても脳神経外科でもあまり役に立たないかもしれないわね。だって銃で、頭部を撃ち抜かれたら、いくら医学部の教授でもどうにもならないのではないの?」と助言した。
茂は、「頭でなくても、胸や腹の外科もあるだろうが。母さん、ちょっとお願い。陽子の奴が、ややこしい事を言うんだよ。」と助けを求めた。
陽子は、「奴とは何よ奴とは!」と怒った。
菊枝が来ると茂は、「母さん、陽子の奴が・・・」と話始めるると菊枝が、「お父さんの声は大きいので、話は聞こえていましたよ。奴なんて言うと、また陽子が怒り出すわよ。お父さんの言っているのは、胸部外科や腹部外科の事よね?その他にも内臓外科や消化器外科や整形外科などもあるわよ。」と説明した。
茂は、「整形外科って、顔の形を変える整形手術の事か?」と解らないようでした。
菊枝は、「違うわよ。それは美容外科よ。整形外科というのは、骨折などをした場合に・・・・お父さんに説明しても無駄か。要は、整形外科は健康じゃない人が行き、美容外科は健康な人が行く所よ。だから美容外科も役に立たないわね。」と説明した。
茂は、「健康な人が行くという事は、美容外科の先生は医者じゃないのか?」と混乱していた。
菊枝は、「美容外科の先生も立派な医者よ、医師免許がなかったらできないのよ。」と説明した。
茂は益々混乱して、「健康な人も医者に行くのか?」と考え込んでいた。
菊枝は、「お父さんの為に易しく説明したつもりだったけれども、難しかったかしら。専門課程はまだ先でしょう。そんな事は今決めなくても良いじゃないの。今決めても、気が変わる事もあるし、無駄だと思うわよ。その時に話合えば良いじゃないの。」と茂が考え込んでいたので、この話題から離れようとしていた。
茂は、「解った。そういう事にしよう。外科にも色々とあって、ややこしいな。俺には解らないので、この件は母さんに任すよ。兎に角、俺達やくざの怪我に役立つ教授になれ!」と条件をまとめた。
東北に建設した家を取り壊すのは勿体無いので、別荘として使用する事にして、組事務所は閉鎖する事にした。夏休みは避暑を兼ねて、東北の別荘で勉強したり、高校時代の友達に会ったりしていた。
友達を別荘に招待すれば、「陽子の家にはライオンやトラがいるし、それも放し飼いでしょう?行くのは怖いわよ。高校時代に何も知らずに行って、いつ、トラに襲われるかと思えば生きた心地しなかったわよ。」と断った。
陽子は、「あの時は御免ね。ついうっかりしていて。皆の来る日時が解れば檻にいれておくから大丈夫よ。」と説明したので、友達が陽子の別荘に遊びに来たり、陽子が友達の家へ遊びに行ったりしていた。
知子が陽子の別荘で、「今度は猛獣ではなく、刺青のやくざが数人いる。」と怖がっていた。
組員は、「俺達にも檻に入れとでも言うのか?」と知子を睨んだ。
知子は思わず陽子の影に隠れた。
陽子は組員に、「知子が怖がっているじゃないか!黙っていろ!ボケ!」と怒った。
そして皆に陽子は、「皆御免ね。組事務所を閉鎖したので、私が別荘にいる時には、私の子分はここにいるのよ。心配しなくても大丈夫よ、猛獣のように噛み付かないから。」と安心させた。
知子が、「今、噛み付かれそうだったわよ。」と陽子に相談すると、組員が知子に何か言おうとしたが、陽子が睨むと組員は何も言えませんでした。
陽子は、「大丈夫よ。」と笑顔で安心させた。
陽子は、「そう言えば、サブちゃんの姿が見えないようだけど、どうしたの?」と組員に確認した。
組員は、「実は昨日、梅沢という女刑事に、ワンクリック詐欺の容疑でパクられました。」と説明した。
陽子は、「あいつは私の声も解らない程ドジだから、何れはこうなると思っていたわ。」と納得していた。
組員がどういう事なのか陽子に聞いた。
陽子がワンクリック詐欺の一件を説明すると組員は、「あの馬鹿、姉さんを脅迫したのですか?」と呆れていた。
次回投稿予定日は3月20日です。




