第八十一章 陽子、高校でやくざと争う
陽子の事を知った教頭先生は陽子に、「今回の事を黙っている代わりに、学校の同好会の事でお願いしたい事があります。」と切り出した。
陽子は、「教頭先生、そんなに改まって、一体何ですか?」と教頭先生の助手にされると厄介だなと内心不安でした。
「実は、本校には野球部がありますが、その他に、野球が大好きで、やる気のある有志が集まり、野球同好会をつくっています。」と野球部の現状を説明していた。
「ええ、それは私も知っていますが、それが何か問題でもあるのですか?」と野球部が二つあっても問題ないと思っていた。
「先生は、やる気のある生徒を応援してやりたいのですが、ただ証拠はないのですが、覆面をした男に襲われるなど、野球部から妨害されているようです。野球ができないようにする為に、何度か野球同好会のバットを盗もうとしていたらしいので、野球同好会のメンバーは、バットを部室以外の場所に隠したりして対抗しているようです。東城さん、その野球同好会のマネージャーになって、彼らを守ってやってくれないだろうか?今も説明したように、誰がやったのか証拠はないので、先生という立場からは、何もしてやれません。」と交換条件を出した。
「何故、野球同好会のメンバーは野球部に入らないのですか?」と不思議そうでした。
「ほら、うちの高校は甲子園にも出場している野球の名門校でしょう?野球同好会のメンバーは、野球は下手で、球拾い程度しかやらせて貰えないらしいです。」とその理由を説明していた。
「それだけ実力の差があるのでしたら、ライバルという訳でもないですよね。野球部は、何故野球同好会が邪魔なのですか?」と納得できない様子でした。
「野球部は、野球が好きであれば、我校が甲子園に出場する為に協力するのは当たり前だと考えているようです。それと同一高校に複数の野球関連のクラブ活動があれば、外部から何か問題があるのではないかと不信に思われるのが嫌らしいのです。要するに対面的な事です。しかし先生は下手でも、やる気のある生徒を応援したい。私がこんな事になったので、野球同好会の事が心配です。私が退院するまでの間、どうだろうか?引き受けて貰えないだろうか?」と格闘技の達人に協力願えれば問題解決しないかと期待していた。
「そういうの、好きだな・・・でも、そんな詰まらない理由で妨害されているのでしたら、私も応援したくなりました。解りました、引き受けます。」と陽子は、教頭先生が安心して入院できるように、という意味もあり引き受けた。
教頭先生は早速、野球同好会リーダーの柴田に連絡して、病室で陽子をマネージャーとして紹介した。
オリンピック柔道金メダリストの猪熊選手と互角に闘えるので、今迄のように襲われた時などいざという時には役に立ちます。と陽子の事を説明した。
柴田は、「マネージャーと言うより用心棒ですね。解りました。噂では猛獣とも互角に闘えるらしいですね。心強いです。明日メンバーにはマネージャーとして紹介します。」と暴漢に対抗できると喜んでいた。
教頭先生は、“猛獣と互角に闘えるとは、さすがやくざの姉さんだな”と驚きを隠せない様子でした。
数日後、野球同好会の部室に覆面をした男が数人現れて、メンバーをバットで襲った。
近くにいた陽子が空手で撃退して、風紀担当の先生に伝えて、「もし、犯人を捕まえたいのでしたら警察に通報して下さい。犯人は腕の骨が折れるか、ひびが入っていると思いますので、恐らく病院に行くでしょう。」と説明した。
その話を近くで聞いていた校長先生は、「今迄も数回あり、野球部員ではないかとの噂もありましたが、うちの学校の生徒に限ってそんな事はしないと信じて警察に通報しましょう。」という校長先生の判断で警察に通報して犯人は逮捕された。
犯人は、校長先生の思った通り、高校の生徒ではありませんでしたが、卒業生で野球部のOBでした。
警察の調べでは、地元やくざに出入りしている事が判明した。
地元やくざは、「あいつらが勝手にやった事で、俺達には何の関係もない。第一何故俺達が高校の野球同好会の問題に口を出さなければならないのだ?」と証言した。
警察も、やくざは関係ないと判断したようですが、陽子は、同好会のバットばかりを狙っていた事を不信に感じ、“野球をできなくするのだったら、グローブでもボールでも良いのではないかしら。これは何かありそうね。“と感じ、地元やくざが絡んでいた事もあり心配で、もう少しマネージャーを務める事にした。
数日後、地元やくざが下校途中の柴田に、「先日はよくも俺達の可愛い弟分に恥をかかせてくれたな。この落とし前は、きっちりつけて貰うからな!ちょっと顔貸せ!」と車に押し込まれて連れて行かれた。
それを見ていた陽子は、直ぐに丸東組に、車の車種と色とナンバーと走り去った方向を連絡して捜すように指示し、一緒にいた野球同好会メンバーの大野には、「大丈夫ですから、後は私に任せて騒がないで下さい。」と騒ぎが大きくならないようにした。
大野は足が震えて顔も真っ青になり陽子に、「相手はやくざなので、警察に通報した方が良いのではないですか?」と上ずった声で相談していると、突然黒塗りのベンツが来て、中から、丸東組の組員が降りて来たので、大野は腰を抜かした。
その組員は、陽子に近付き、お辞儀して、「失礼します姉さん、先程の車の件ですが、竜神会の事務所で見付けました。」と陽子に報告した。
陽子は大野に、「どうしたの?大丈夫?おしっこちびっているわよ。後は私に任せて、あなたは帰りなさい。」と指示して、丸東組の組員に、「竜神会に乗り込むわよ!他の組員も喧嘩支度させて呼び出せ!」とベンツに乗って行った。
喧嘩が三度の飯より好きな丸東組の組員は、「おい、野郎ども、喧嘩だ!」と喜んで、組事務所から飛び出して行った。
竜神会の前で待ち合わせして、陽子は、「皆!交渉は苦手でしょう?交渉は私一人でします。竜神会が手を出そうとすれば踏み込んで!」と指示した。
最初に陽子一人で竜神会の事務所に乗り込み、「私は、野球同好会のマネージャーです。彼がいないと同好会として困るので迎えに来ました。」と腰が抜けて動けない柴田の手を引っ張り事務所から出て行こうとしていた。
竜神会の組員が、「おい!こら!待たんかい!」と陽子達に詰め寄ろうとした。
事務所の外で待機していた丸東組の組員が事務所に入って来て、「おんどりゃ!うちの姉さんになにさらすんじゃ!」とその間に入った。
陽子は組員達に、「後お願い。彼が襲われた理由も確認して。」と指示して、事務所を出た。
彼が失禁していたので陽子は、「何回ちびったの?ビチョビチョじゃないの。これじゃ、どこにも行けないわね。」と丸東組の組事務所に連れて行き、「うちの組員の下着で悪いけれども、これで我慢してね。」と着替えさせた。
柴田は、「東城さん、これってどういう事ですか?丸東組の組員の事を知っているのですか?」と着替えながら聞いた。
陽子は、「恐怖で、女性の私がここにいる事も忘れたの?」と笑っていた。
柴田は陽子の一言で、急に恥ずかしくなり、慌ててパンツを履いた。
陽子は、「今さら慌てても手遅れよ。組員の事は今、見た通りよ。私は丸東組の姉さんで、ここにいる組員は皆、私の子分よ。蛇の道は蛇っていうでしょう?また竜神会が何か言って来たら、話はつけるので私に連絡してね。今日は何も心配しないで帰ってゆっくりと休んでね。」と陽子の携帯番号を教えて、柴田を自宅まで送って行った。
翌日、陽子は大野から、どうなったのかを確認された。
陽子は、「大丈夫ですよ。リーダーは助けました。ただ今日は、精神的ショックが大きくて、学校を休んでいます。それと、皆に聞きたいのだけれども、やくざが高校の野球同好会を、本気で相手にするとは考えにくいのだけれども、皆、何か心当たりはないですか?例えば、麻薬や拳銃の取引現場を見たとか、打ち合わせ内容を聞いたとか。バットに執着していたようなので、何かバットに関係あるかもしれません。」と同好会のメンバーに聞いたが全員、覚えがないとの事でした。
色々とやくざの話をしている時に、丸東組の組員から陽子の携帯に竜神会の組員を締め上げると理由が解ったと連絡があった。
組員の説明では、「竜神会が麻薬を密輸する際に、金属バットに細工して、その中に麻薬を忍ばせて若手の構成員に野球のユニフォームを着せて運んでいたらしく、そのバットが甲子園に行った野球部員と、空港でぶつかった時に数本入れ替わり、そのバットは、現在、野球同好会で使用されているバットなので、それを取り戻そうとしていた。」との事でした。
陽子は、矢張りバットの関係か。女子高生が通報しても信頼性に欠けると判断して、教頭先生に事情を説明して、教頭先生が知り合いの警察OBに調べさせたと学校に連絡して、学校から警察に届けた。
警察が調べると、五本のバットから麻薬が出て来た。バットは手入れされていて指紋は消えていましたが、麻薬を入れていた袋から竜神会構成員の指紋が検出されて構成員数人が逮捕された。
その後退院した教頭先生は、「まさか野球同好会の問題にやくざが絡んでいたとは気付きませんでした。矢張り東城さんに頼んで正解でした。同好会のメンバーには、東城さんが助けてくれたので、東城さんが丸東組の跡取りだという事は内緒にしておくようにと口止めしておきましたので。」と陽子に説明して、これ以上騒ぎが大きくならないようにした。
陽子は同好会に顔を出して、「私の役目も終わったようですので同好会を退会しますが、今後も何かあったら私に相談してね。特にやくざ絡みでしたらプライベートでも私に相談してね。」と挨拶して、野球同好会の件からは、手を引いた。
次回投稿予定日は2月22日です。




