第七十五章 やくざの娘、高校へ進学する
陽子は秋山先生に助けられて、不登校にもならず、なんとか中学を卒業して、父の事を知らない東北の田舎の寮がある進学校へ入学した。
組員が付いて来れば、東北の高校に進学した意味がないので父には、「寮がある為に、学費と寮費と小遣いを貰えれば大丈夫なので付いて来ないで!」と説得した。
陽子の決意は固かったので、茂も諦めて、今まで続けていた格闘技を今後も続ける事を条件に認めた。
高校生は未成年なので、寮は大学などの寮とは異なり規則が厳しく、外出も自由にできませんでした。約束の格闘技ができません。
父の性格上、約束を破れば高校を転校させられるか中退させられるかして連れ戻されると思った陽子は、仕方ないので寮以外に住む場所を捜した。
一人暮しは淋しいですが、マンションでは陽子のペットが飼えません。
父と相談して家を建築し、道場以外で陽子の格闘技の練習相手にもなっているペットのライオンとトラと一緒に住む事にした。
陽子が猛獣と素手で戦えるのは、肉食のテレジア星人の血が流れている為だとはまだ気付いていませんでした。
陽子は、家が完成する迄、ワンルームマンションで一人暮しをする事にして、親との約束の柔道・空手・剣道の道場へも通う事にした。部活は三つも入れませんので道場へ通う事にした。
寮を出る時には寮母さんから、「高校生は未成年なので、一人暮らしは認められません。」と引き止められた。
陽子は、「私の父は格闘家で、この高校に進学する条件として、今まで続けていた柔道・カラテ・剣道を今後も続ける事で認められました。寮は規則が厳しく外出もなかなかできない為に道場へ通えません。部活は三つも入れませんでした。一人住まいが駄目でしたら、父の子分じゃなかった弟子を呼び、同居します。」と説得して、更に親が説明に学校を訪れた。
怖そうな親でしたが、陽子からは格闘家と聞いていた為に、特に不信に思わず、まさかやくざの組長だとは、夢にも思っていませんでした。そして陽子を連れて行った。
陽子は、中学校を卒業した時に、義務教育が終了したお祝いとして、親から木刀に見せ掛けた真剣をプレゼントされていた。
精神統一の為に、いつも持ち歩いていた。
高校では、この木刀が陽子のトレードマークになっていた。
勿論、それが真剣である事は誰も知りませんでした。
高校では中学の頃と違い、親がやくざだとは誰も知らないので、成績優秀で美人の陽子は、学校で人気者になり友達も何人かできた。
ある日、陽子が浜辺で友達と遊んでいると、三人の不良に襲われた。
それを目撃した他の生徒が学校に携帯で連絡した。
先生達が急いで現場に駆け付けると、陽子が友達を庇いながら、不良の気を引き、不良からの攻撃を上手く躱していた。
しかし先生達の所から、陽子達のいる所へは直接行けず、回り道をしなければ行けなかった。
そこへ、陽子の事を知っている、殉職した梅沢刑事の元同僚で、今は少年課の刑事をしている城刑事が通りかかった。
城刑事は先生達に警察手帳を提示し、自分は刑事である事を説明して、「あの襲っている不良達に、少し怪我をさせても良いですか?」と確認した。
先生達は、「うちの女子高生が助かるのでしたら良いですが、あそこまでは、回り道をしなければ行けません。今、ハンドスピーカーで呼びかけましたが、不良達に無視されました。」と刑事でもどうする事もできないだろう。怪我をさせるってどうするのだろうと考えていた。
城刑事は、「解りました。」と先生が持って来たハンドスピーカーを借りて、陽子の方に向かい、「東城!俺だ。城だ!今、お前を襲っているのはこの町の不良なのでかまわん。少し懲らしめてやりなさい。但し死なない程度にしろよ。」と呼びかけた。
それを聞いた先生達は、「ちょっと待って下さい刑事さん、不良達を刺激しないで下さい。東城一人であの不良三人を相手にするのは・・・・」とこの刑事は何を考えているのだと焦っていた。
城刑事は、「朝飯前ですよ。ほら、不良達は三人とも倒れてもう動けませんよ。東城に手加減するように伝えましたが、骨折した不良もいるかもしれませんね。」と落着いていた。
先生達は、「えっ!?」と刑事の言葉に自分の耳を疑い、陽子達の方を確認すると、不良達は三人とも倒れて動けなくなっていた。
先生達は、何がどうなっているのか解らずにいると城刑事は、「後は先生達が正当防衛の証人になれば解決です。他の女子高生が怪我をしそうでしたので、止むを得ず、このような方法を取りました。そうでなければ、不良達が疲れてへたばるまで待っても良かったのですけれどもね。それでは私はこれで失礼します。」と去って行った。
その場にいた生徒から、その事を聞いた同級生達は、「不良達の一人は、左大腿部頚部骨折したらしいぞ。あの美人優等生が、そんなに強いのか!」と驚き、運動神経も抜群だと噂が広まり、陽子の人気は益々上昇した。
同級生の一人が陽子に確認すると、「ズボンを下ろしながら、“俺達と仲良くしようぜ。”と迫ってきたので気持ち悪く、腰に蹴りを入れると折れちゃったのよ。」と返答した。
陽子はテレジア星人の血を引いている為に、体重もトン単位で、鉄の塊で腰に蹴りを入れたようなものなので、ひとたまりもなく骨折してしまったようでした。普段は、無意識に空を飛べる能力で、体を半分宙に浮かしたようにしていた為に、陽子自身も体重の事は気付いていませんでした。
しかし、何故刑事がたまたま来ていたのか解らずにいると、早耳の知子が、「皆、知っている?先日刑事があの場にいたの。実は、あの刑事はこの学校に来たのよ。ある高校で在学中に事件を起し、警察に逮捕されて少年院送りになり、高校も退学処分になった人が出所して、再度高校で勉学に励む為に、受け入れてくれる高校を捜していたみたい。どうやら、この高校が受け入れたみたいよ。それで挨拶に来ていたらしいのよ。」と説明した。
陽子が、「知ちゃん、他人の事はどうでも良いけれども、少年院という事は、出所じゃなく、退院ではないの?」と指摘した。
知子が、「退院?何か病気で入院して、退院するみたい。矢っ張り刑務所は出所よ。」と返答した。
陽子は、「知ちゃん、偏見よ。刑務所ではなく少年院よ。内部では、ちゃんと授業もあるのよ。刑務所は授業ではなく、職業訓練があるのよ。」と説明した。
知子は、「陽子、何でそんな事を知っているの?前科者に知合いでもいるの?」と確認した。
陽子は、“まずい!父の事がばれそう!”と思い、「そうじゃなく、刑事ドラマで何かそんな感じだったから。」と説明して、組員から聞いた事は内緒にした。
ある日、高校の卒業生で、高校時代柔道部の主将を務めていて、今は自分で編み出した柔道の必殺技を武器にしてオリンピックで金メダルを獲得した猪熊先輩が、母校の柔道部を訪れて、後輩の指導を数日間行っていた。
しかし、猪熊先輩にはもう一つ別の目的があった。
それは“試合にも出場せず、オリンピック出場も辞退した女子柔道の達人が高校の近くの上田道場に通っています。”との情報を入手し、興味があったので調査していた。
その結果、神業とも思えるほど強く、男子も歯が立たないほどの強さでどうやら高校生らしい事が判明した。
一度お手合わせ願いたく、その高校生を捜すのも目的の一つでした。
練習の合間に、柔道部顧問の先生が学校を案内していると、グランドでたまたま陽子が担任の先生や同級生達と歩いている所を猪熊先輩も通った。
皆すれ違がったが、猪熊先輩は陽子を見て、柔道の達人であることを見抜いた。
陽子もその殺気を感じて、二人はすれ違わずに睨み合った。
他のメンバーが二人に、「どうしましたか?二人は知り合いですか?」と不思議そうに尋ねた。
二人共、「いや何でもない。」と相手を警戒しながらゆっくりと、すれ違った。
猪熊先輩は、“道場で張り込みしなくても、偶然柔道の達人を見付けた。一度お手合わせ願いたい。”と思い、すれ違う瞬間、陽子に挑戦した。
それを見て他のメンバーは、“そんな無茶な!いくら東城さんが強くても、柔道金メダリストには敵わない!”と猪熊先輩の真意が解らずにいると、猪熊先輩の柔道に、陽子も柔道で対抗した。
猪熊先輩がよろめいたのを見て、えっ!東城さん、柔道もできるの?それもオリンピック金メダリストと互角に戦える腕前?というか陽子の方が優勢?と二人の柔道を見ていた。
猪熊先輩は、予想以上に陽子が強く、陽子が手加減している事を見抜く余裕もなく、武器にしている必殺技を陽子にかけた。
同級生や担任の先生が、“そんな無茶な!オリンピックでも怪我人続出のあの必殺技を・・・”と思った瞬間、陽子がその必殺技を破った。
皆はあの必殺技が陽子に破れたのを見て、“まさか!オリンピックでも破れなかったあの必殺技が簡単に破れるとは、東城さんは、そんなに柔道が強いのか。”と驚いていた。
猪熊先輩は驚いた表情で、「見事だ。一度正式にお手合わせ願いたい。しかし、あなたの柔道は力強いというか、何か邪道なものを感じます。」と馬鹿力で無理やり必殺技を外された陽子の柔道の力強さに驚いていた。
陽子は、「いつでもどうぞ、私は上田道場の東城です。私の柔道が力強いのは、自宅では普通とは違う練習をしているからだと思います。」と説明した。
同級生達や先生は、「上田道場にはオリンピック出場を辞退した女子柔道の達人が在籍していると聞いた事があるが、それが東城さんの事だったとは・・」とその達人が身近にいた予想外の人物だったので言葉を失った。
何故オリンピック出場を辞退したのかを聞くと陽子は、「私が柔道をやっているのは親との約束であって、オリンピックに出場する為に柔道をやっている訳では御座いませんので。」と説明した。
さすがに陽子も、“親がやくざの組長なので、オリンピックには出場はできません。”とは言いにくかったようでした。
次回投稿予定日は1月28日です。




