第七十四章 アメリカ空軍に鬼教官誕生
査察が終了した政府高官は大統領に報告した。
政府高官は型通りの報告をして最後に、「今回は、今説明した以外に、アメリカの運命をも左右すると言えばオーバーかもしれませんが、それほど重要な報告があります。」と前置きした。
大統領は、「査察が延長になった理由ですね。その報告を待っていました。」と報告に期待した。
政府高官は、空軍が撮影した映像で説明して、「今、ご説明したように、通常では、このような飛行は、このジェット戦闘機の性能では不可能です。神業と言っても過言じゃないほどの、信じられないような操縦技術を持っているパイロットが在籍していました。」と報告した。
大統領は、「そのようなパイロットが在籍していれば気付くでしょう。何故今迄気付かなかったのかね?」と疑問に感じた。
政府高官は、「只、彼女は女子事務員だったにも関わらず、空軍の操縦技術のレベルが低い事をアピールしていました。確認すると、彼女はパイロットのライセンスを持っていて確りとした知識があるにも関わらず、基地の指揮官が、若いとか、女性だとか、事務員だとかに惑わされて真実を見抜く事ができなかった為に見落とされていました。陸上勤務が長い私でも見抜けましたので、真剣に彼女の話を傾聴していれば真実を見抜けた筈です。」と説明した。
大統領は、「その基地の指揮官は何をしていたのだ!」と立腹していた。
政府高官は、「今の彼には基地の指揮官は無理です。一週間以内に、私にレポートを提出するように指示しています。その内容により、今後の彼の進退について考えます。後任の基地の指揮官については私に任せて下さい。」と説明した。
政府高官が空軍基地に確認すると、マリはパイロット志望でしたので、即座にアクロバット飛行チームに転属になった。
その時に、基地の指揮官にも連絡して、「今回の件を大統領に報告すると、君のレポートに、大統領も目を通すとの事です。大統領も立腹していたので、確りとした内容でなければ掃除夫にさせられるか解雇されるぞ。」と警告した。
アクロバット飛行チームの指揮官は政府高官から、「私も元パイロットですが、マリ芹沢さんは、今迄に見た事もないような凄いパイロットで、丸でジェット戦闘機が魂を持って飛行している感じで、体の一部であるかのように操っています。私もジェット戦闘機を、あれほど自由自在に操っているパイロットを見た事も聞いた事もありません。君も歳なので、パイロットは引退して彼女に全てを任せて陸上勤務にすればどうですか?」と勧められた。
アクロバット飛行チームの指揮官は、「先ほど大統領からも連絡がありました。彼女はそんなに凄いパイロットなのですか?私には指揮官としての責任があります。実際に、この目で確認した上で判断させて頂きます。」とどんなパイロットなのか期待していた。
政府高官は、「解りました。彼女は来週アクロバット飛行チームに着任します。彼女程の操縦技術を持った隊員を任せられるのは君しかいない。彼女の事を宜しくお願いします。」と依頼した。
アクロバット飛行チームの指揮官は、他の隊員達の意見も聞きたかったので、マリが着任後、朝礼でマリの説明をした上で、他の隊員達と離陸して、マリの操縦技術を確認した。
操縦技術に自信のあるパイロットが、「お前の操縦技術がどれほどのものか知らないが、空中戦で敵機を撃墜するには敵機の後に着く必要がある。いくら口で立派な事を言っても、後に着けなければ実戦では役に立たない。俺の後に着けるか?」と右横を飛行しているマリに挑戦した。
その後マリは、簡単にその隊員の後に着いて、いつ気付くかと待っていた。
しばらくすると気付き、「いつの間に?」と俺があいつの後に着こうとしていたのに、どうやって着いたのだと驚いていた。
マリは、「数分前から後に着いていましたが、気付きませんでしたか?これが実戦でしたら、あなたが気付く前に、私に撃墜されていますよ。」と笑った。
指揮官が、「私も見ていたが、確かに数分前から後に着いていました。君がいつ気付くか見ていました。君がマリの後に着こうとしていたようだが、これが実戦でしたら、君はマリに手も足も出なかったでしょうね。」と助言した。
その他にも色々と確認すると、その操縦技術が想像以上でしたので、指揮官も他の隊員達も、「何故そんな飛行ができるのだ?」と驚いたが、指揮官は逆に弱点も見抜いた。
指揮官は、マリはまだ若いので、弱点は追々カバーしていけば問題はないと判断し、その弱点を克服できれば、マリは今迄考えられなかったような、天下無敵のパイロットに成長する事は間違いなく、緊急事態が発生した時の秘密兵器として、マリを育てようと考えていた。
操縦技術は天才的でしたので、政府高官から指示された事もあり、その操縦技術を隊員達に伝えようとした。
指揮官は隊員を整列させて、「お前達、彼女の操縦技術を見たか。その操縦技術を吸収したいとは思わないか?」と問いかけた。
隊員達は、「是非吸収したいですね。」と口をそろえて希望した。
指揮官は、隊員達を上手く誘導して、マリをアクロバット飛行チームの指導教官に抜擢した。
他の隊員達も、マリの操縦技術は神業だと認めたので、是非その操縦技術を吸収したいと考えて、反対する隊員はいませんでした。
その日、帰宅したマリは、マリが最年少のアクロバット飛行チーム指導教官に抜擢された事をテレビニュースで知った飛行機好きの両親からお祝いされた。
太郎から、「マリ、お前は世界一のパイロットだと認められた俺の自慢の娘だ。今後とも自信を持って頑張ってくれ。」と励まされた。
恵子は、「自慢の娘?あなた、マリが生まれた時に女の子でしたのでショックを受けていませんでしたか?」と太郎をからかった。
マリは、「お父さん、それはどういう事なの?女の子だと何か問題があったの?」と不満げに質問した。
その時の話を恵子から聞いてマリは、「女で悪かったわね。でも飛行機事故の場合は、女性の方が男性よりも生存率が高いのよ。これって女性の方が、体が頑丈でアクロバット飛行に向いているって事じゃないの?」と不機嫌そうでした。
太郎は笑いながら、「それは違うよ。そんな事を他人に言ったら恥をかくよ。女性は頑丈なのではなく、男性に比べて脂肪が多い為に、それがクッションになっています。それに妊娠し出産もします。毎月の生理もあります。何かと出血が多いので、女性は血液の1/3以上出血しても死亡しない場合がありますが、男性は1/3以上出血すると、確実に死亡します。そのような事があり、生存率が高いだけです。」と説明した。
マリは苦笑いしながら、「そうか、私も自分で説明しながら、どこか可笑しいと思っていたのよね。それで納得しました。それじゃ、平均寿命が男性より、女性のほうが長いのも、その関係なの?」と聞いた。
恵子が、「それもあるでしょうが、もっと人間の根本的な事にも関係あると言われています。」と指摘した。
マリは、「何?その根本的な事って。」と男女の差が、何故寿命に関係しているのか理解できませんでした。
恵子は、「少し難しいけれども、精子と卵子が出会い、受精した時の性別は、何か知っていますか?」と確認した。
マリは、「半分は男性で半分は女性でしょう?性別がどちらかなんて解らないわよ。」とマリは恵子が何を言おうとしているのか理解できませんでした。
恵子は、「それは違うわよ。全て女性です。女性の染色体はXXで、男性はXYだという事は知っているわよね?妊娠中に、そのXY染色体のYの染色体が働いて、女性特有の器官が姿を消して、男性特有の器官である精巣が現れます。胎児が男か女なのか、ある程度成長しないと解らないのはこういう事なのよ。その精巣から脳に信号が送られて、脳も変化して行きます。簡単に言えば、神様が体を改造します。その改造に無理があるという学説もあります。以前男性の染色体を持っている女性が陸上競技で優秀な成績を収めたというドラマがありましたが、妊娠中に何らかの異常により、Y染色体が働かなければ、男性の染色体を持った女性が生まれても不思議ではないですね。」と説明した。
マリは驚いて、「嘘!という事は、お父さんも昔は女性で、神様によって性転換手術されて男性になったの?でも脳も改造しているってどういう事?何か私達と脳が違うの?」と半信半疑で確認した。
恵子は、「貧乏揺すりをするのは男性だけで女性はしない事を知っている?これは脳の違いから来るのよ。それにマリ、若い女性のヌード写真を見て、興奮する?ほら、お父さんは考えただけでもう涎を垂らしていますよ。」と笑っていた。
太郎は、「俺がいつ涎を垂らした!いい加減な事を言うな!第一、そんな話は信じられるか!俺は貧乏揺すりなんかしないし、生まれた時から、ずっと男だぞ!」と怒った。
恵子は、「全ての男性が貧乏揺すりをするとは言ってないわよ。それと性別は、妊娠中にそうなると説明したでしょう。生まれる時には、男性として生まれて来るのよ。でも、精巣から脳に送られる信号線に異常があり、脳に信号が届かなければ、体は男性で脳は女性になり、その人はオカマになってしまうわね。」と補足説明した。
太郎は、「俺はオカマか!何でこんな話になるのだ?だいたい、マリが飛行機事故の事で女性の方がパイロットに向いているだなんて、詰まらない事を言うから、可笑しな話しなるのだぞ!」と怒った。
恵子は、「そんなにマリを責めないで、今日はマリのお祝いでしょう!」等と、その日は家族で楽しく会話していた。
マリの目から見て、アクロバット飛行チームは、あまりにも情けない操縦技術でしたので、マリの指導も段々と厳しくなり、マリ芹沢という名前は鬼教官としてアメリカ全土に響き渡っていた。
太郎は、マリのお祝いの日に二人から文句を言われたので、マリの事を“鬼”と呼ぶようになり、マリもそれに対抗して、父親の事を“オカマ”と呼ぶようになった。
それを見ていた恵子が、「何でこうなるのよ!」と呆れていた。
それを聞いて二人共、「母さんが詰まらない講釈をするからだ!」と口を揃えて反論した。
恵子は、「こんな時だけ息がピッタリと合っているわね。喧嘩するほど仲が良いという事ですか。」と諦めた。
恵子のその一言で、太郎とマリは、鬼とかオカマとか呼ばなくなり、また仲の良い親子に戻った。
次回投稿予定日は1月24日です。




