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王子様知りませんか?  作者: 苺鈴
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その夜のこと

 王子君が人生初の幼稚園に行ったその日の夜のお風呂。

「それでね、姫ちゃんが、何をするにも僕の隣に来るんだよ。僕が入園したばっかりで、不安だと思って、いろいろ面倒見てくれたんだ。」

「そうなんだ…。姫ちゃん、加藤さんに似て面倒見がいいんだね!」

 姫ちゃん…王子君にぞっこんなんだね…!

「それから、給食がすごくおいしいんだ!お米はちゃんと調理の人が研いでるんだよ!!」

 うちの中学は、無洗米だったからね…。

「王子君、あの幼稚園でやっていけそう?」

「うん。友達もたくさんできたんだよ!」

 こんな嬉しそうな王子君の顔見るの初めてかも…なんか俺も嬉しい…!!

「洸…。僕、この『セカイ』にこれて本当に良かった!」



―その頃のお空の上のとある国、軍寄宿舎シャワー室脱衣所―

 王子様の勅命により、全国民に弟君の救出とヤマネコさんの捕獲を命じられた。でも、弟君とヤマネコさんの行方の手掛かりは、見つからない…。ああ、どうも、僕はクーです。読者の皆様、今日もお疲れ様です…。あれ?僕は誰に向かって話してるんだろう?

 後ろで一つに結んだ三つ編みをほどくと…栗色の巻き髪が背中に広がる…。服を脱いでシャワー室に入る。シャワーのスイッチを押す…。ああああー冷たいっ!水だ…。もう、前に使ったやつが水のままにしていきやがったな…。水温を上げる…。

 鏡に映るのは、緑色の瞳をした女の子…。王子様は、僕の顔を可愛いと言ってくれた…あの変態ブラコン野郎だけど…。あの子も…同じことを言ってくれた…。あの子っていうのは…僕の初恋の男の子。


 僕は、家族がいない。僕がまだ幼い時にこの国では、他国と大きな戦争が起こった。その戦争により最前線で指揮をしていた王様は、戦死され…女王様も殉死なされた…。そして、僕の家族もこの戦争で亡くなった…。僕は、孤児院に引き取られた。

 10歳の時に軍に志願した。女の子は、僕一人だけで、孤児であることもあり…よくいじめられた。でも、僕は強いから、やられたらやり返してやった!やられたら、やり返す…倍返しだ!!

 僕は、小さい頃から荒っぽかった。孤児院の院長先生にも「もっと女の子らしくしなさい!」って耳にたこができるくらい言われたな…。孤児院では、僕は、年上の方だったから、みんなの親代わりになろうと必死だった。みんなを守るためにもっと強くなりたくて…気づいたら男っぽくなってしまった…。  

 でも…僕は、あの子の前だけ、女の子でいられればいいから…。そういえば、あの子にもらったピアスを片方なくしちゃったんだよね…。赤くて丸い形の小さな柘榴石のピアス…。多分、あの夜に王子様の部屋で…激昂した王子様から放たれた、あの光の『チカラ』で、飛ばされちゃったみたい…。

 『チカラ』を使うとものすごく体力を消耗するみたいで…王子様は、あの夜から何日もずっと眠ってしまい、面会謝絶状態だ…。僕のピアス…。


 シャワーを終えて、脱衣所で着替える僕。髪を後ろで一つに束ね、下着を身に着け、ひざ丈まである寝間着のシャツを着る。ああ、今日も疲れたな…。明日の朝…王子様が目を覚ましたら、王子様に許可をいただいてピアスを探させてもらおう…。

 あれ、誰かが…来る!?今の時間は、僕以外、立ち入り禁止のはず…!まさか、覗き…?

「そこにいるのは、誰だ!?…今は、僕がシャワー室を使う時間だ!」

「クー。…ここに、いたのか。」

 脱衣所に入って来たのは…眩い銀色の背中まである長髪に、海のような深い青い色の瞳をしていて…純白の寝間着姿の…超絶美形イケメン!!

「王子様!!…どうして、ここに?…もう、お加減はよろしいんですか?」

 王子様は、何も言わず…僕に向かってくる!?…もしかして、この前のことを怒ってるのかな?…身の程をわきまえないで…王子様に意見しちゃったから…!

 王子様は、片方の手をのばすと、僕の片方の耳に触れる…?そして、もう片方の手で…。これは…!

「僕のピアス!!」

 王子様は、僕の耳にピアスを付けてくれた!

「やっぱり、君のだったんだな…。さきほど、目が覚めて…起きたら、床に落ちているのを拾ったんだ。」

「ありがとございます!…とても大切なものだったので。わざわざ、これを届けるために…来てくれたんですか?…王子様!?」

「クー。…抱きしめても…いいかな?」

「って!もう、僕のこと抱きしめてるじゃないですか…!!ちょっと…王子様…!!」

 きゃあああああー!!僕は、一応女の子なんだよー!!セクハラだよー!!おまわりさーん!!

「…すまない。もう少しだけ…こうさせてくれ。」

「僕は、弟君じゃないですよ…!」

「ああ…わかっている。…私の弟の方が、君より可愛いし!」

 何か…腹立つ!!

「…王子様。先日は、身分をわきまえず…出過ぎたことを言ってすみませんでした!…ですが、鳥籠の事は…やっぱり、やりすぎだと思います…!」

「ああ…。私も、眠っている間に考えたが…鳥籠の件は、行き過ぎていると思う…だから保留にする…。」

 保留にするってことは、諦めたわけじゃないんですね!!

「…王子様。そろそろ…離していただけませんか?」

「もう少しだけ…頼む。」

「…頭を撫でまわすのやめてください!」

 僕、一応女の子なんだよ!!ああ、今度は頭のにおい嗅ぎ始めた…キモい…!!

「クー。すまないが…今夜、一緒に寝てくれないか?」

「一人で寝てください!!」

 僕は、変態ブラコン野郎の体を押しのけ、脱衣所を飛び出した!!…いつかセクハラで訴えてやる!!



 

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