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8話 契約の方法

 驚きに目を開ける。目を瞑っている美少女が零距離にいた。あまりの衝撃に硬直していると、柔らかいと感じていた唇に、違和感が生じた。


「!?!?!?!?!?」


 俺は声にならない声をあげる。なにせ、急にキスされたと思ったら、舌まで挿し込まれようとしているのである。残念ながらキスの経験などなかった俺がパニックになっても仕方がないと思う。


 軽くパニックに陥りつつも、体を離そうともがく。しかし肩に置かれていたはずの両手はしっかりと俺を抱きとめていて、意外にも強い力に抵抗を許されなかった。諦めて受け入れる他なさそうだ。


 尤も、嫌なわけではない。あまりに急だったのでびっくりしただけで、むしろ嬉しいどころか役得だとまで思う。


「んっ…ふっ……」


 快楽を求めるように俺の口腔内をヴェルゼの舌が舐め回す。つられて俺も舌が動いてしまい、互いの舌が触れ合い、絡む。口周りは唾液でベトベトだろう。……あまり想像したくない。


 脳が溶けるような時間は数分だったか、それとも数十分だったか。満足したようで、ヴェルゼは口を離す。互いの口を繋いでいる透明の糸が、たった今したことが何だったのかを認識させる。ヴェルゼの瞳は潤んでいて、ここが外でなければ変な気を起こしていたかもしれない。


「……契約完了」


 耳に心地よいその声が契約したことを告げるのと、体を異変が襲うのはほぼ同時だった。


「うっ……がぁっ……!」


 全身を襲う痛み。特に心臓には潰されるかのような強烈な痛みが走る。目の前は明暗を繰り返し、強烈な吐き気は胃の内容物を押し出そうとする。


「……!……!!」


 オルタが血相を変えて俺に何か言っているが、全く聞き取れない。激しい痛みと吐き気に意識を失うことも許されず、俺はただ苦痛に流されるしかなかった。



 永久にも感じられた苦痛だが、10分もすると少しずつ楽になってきた。視界の明暗は徐々にゆっくりになり、痛みも吐き気も一瞬軽快してはまた悪くなり……といった具合に。


 やや楽になった俺を見て安心したようにオルタが話しかけてくる。


「……大丈夫か。何が起きているんだ?」


「俺には…わからないな。……っうぇ。…ヴェルゼ、説明してくれるか」


 楽になったと言っても全快はしていない。この現象の説明を求めてヴェルゼに話を振る。


「……契約の代償。ヤチヨの魔力では圧倒的に足りなかったから、その反動が来ている」


「術式の……魔力不足による反動だと!?」


「そう。しかしヤチヨは契約済み。死んだ瞬間に、彼の持つステータスの最大値の状態で再生する」


 聞けば、術者の魔力が足りていないのに大きな術を発動すると、その反動が術者に振りかかるらしい。その反動の大きさは不足分によって二次関数的に大きくなり、ある程度の反動で術者は簡単に死んでしまうとのことだ。魔力の供給が追いつかなくなり、魂の容れ物たる心臓が潰れるんだってさ。


「そして、経験によってステータスは上昇する。それは魔力の反動でも同じ」


 曰く、この世界にはステータスなるものが存在するらしい。概ねRPGにおけるステータスと似たようなもので、これは物事を経験することで上昇していくのだそうだ。筋力なら狩りや筋トレ、防御なら身体負荷や魔物からの攻撃を受けること……などのように。


 で、今俺が受けている魔力の反動も多分に漏れず経験となるとか。……つまりあれか、俺は契約時の魔力の反動で死んで、契約の力で復活して、反動で受けた分経験値が溜まって、でも足りずにまた反動で死んで……というループの中にあったと。だんだん症状が軽くなってきてるのは、経験値が溜まってステータスが上昇してきている……ってことでいいのかね。


「その認識で問題ない」


 死神様が肯定してくださった。ありがたいことだ。


「もうだいぶ良くなってきたが……これ、いつまで続くんだ?」


「ヤチヨの成長は著しい。もう数分もすれば収まると思う」


 ちなみにこの魔力の反動、残魔力量が足りないために発生するらしい。魔力が足りるようになれば収まるんだそうだ。また、魔法攻撃を受けているのと同じだとかで、魔法に対する耐性も上がるんだってさ。死んでレベル上げとは、ハードな世界だよな……って、俺限定か。


「では、こいつが完全に落ち着くまでに契約の内容について教えてもらおうか」


 オルタも契約する際のことについてはあまり詳しくないようだ。と、思い出して頬が熱くなるのを感じる。


「契約時は、契約者の体液と私の体液を交換する必要があった」


 どこのエロゲーでしょうかね。……役得なんて思ってないからな。


「今ので行くと……だいたい効力は1時間」


 ん?何か話の流れが不穏な気がするんだが、俺だけだろうか。


「それは、効力が切れたらどうなるんだ?」


 俺の問いにヴェルゼは答える。


「特に何も起こらない。しかし、契約が更新されるまでに死ぬと、もう再生されない」


 つまり、契約を更新しないと不死性が保たれないということだろうか。……1時間ごとに契約更新の必要があるのか。


「契約中に契約の更新をすることもできる。その場合、その時点からまた1時間が効力」


「今ので行くと、ってことは、別の方法があるのかい?」


 次に質問したのはオルタだ。どこか引っかかる言い方をしていたからな、もっと効率がいい方法もあるのかもしれない。


「ある。初回は体液の交換が必要。でも更新は交換でなく私が摂取することで更新となる」


 衛生面やらであまり考えたくないが、保存していた唾液を摂取とか……考えただけで吐きそうだ。この案は却下だな。


「摂取の際には契約者から直接摂らなければいけない。よって保存していたものを使う事はできない」


 俺の考えを読み取ったかのように答えるヴェルゼ。なぜわかったのだろう。


「じゃあ、別の方法ってなんなのさ?」


 オルタが焦れったそうにしている。あんた、当事者じゃないのに興味津々だな。そして、俺はなんとなく嫌な予感がさっきからしてるんだ。ヴェルゼの口から聞きたくないような言葉が飛び出す気がしてな。


「生命力がより感じられる体液ならば効率は良くなる。つまり、性交渉による精え――」

「だああああああああっ!!!」


 叫んで言葉を遮る。ヴェルゼは急に叫びだした俺を何事かと見ているが、こっちからしたらお前が何をのたまっているんだという感じだ。オルタもなんとなく察したようで、バツが悪そうにしている。


「いいからそれ以上は言うな。それと今後そういう話はしちゃいけない」


 不思議そうに俺を眺めていたヴェルゼだったが、こくりと頷いているし、一応安心できる……といいな。


「相性が悪いと言ったのは、そういうことだったのかい」


 とオルタ。


「それもある」


 それ以外もあるらしい。魔術の話は俺にはよくわからん。後々オルタが教えてくれるだろうか。


「しかしまぁ、好きでもない相手とそういうことをするのはだな、あまり良くないというか」


 俺も青少年だ。興味が無いと言えば嘘になるが、ここは相手のことを想いやるのが男だろう。


 そう思っての発言だったのだが、


「……ヤチヨは、私の事嫌い?」


 と来たものである。正直、見た目的には俺の好みであるし、むしろヴェルゼを見て嫌いという人間は少ないだろう。サラサラの髪、整った顔立ち、細身だが細すぎるということはない体躯。今更だが、上はローブじゃなくて前開きの黒いパーカーのような服なんだな。サイズがやや大きいのか、ダブついているようにみえるが本人の好みなのだろう。インナーは襟のある白いシャツで、きちんとボタンで留まっている。……細身の体なのに、出るところはしっかり出ているようだ。


 いかんいかん、急に嫌いかどうか聞かれて混乱してしまったようだ。


「いや、そんなことはないぞ。むしろ……その、好みだ」


「なら何も問題ない。私はヤチヨが好き」


 不安そうにしていた表情一転、柔らかく微笑んで抱きついてくる。頭を俺の胸板にグリグリとして、え?ちょっと、においを嗅いでるんですか?汗臭かったら嫌なので、控えめに体を離させると、素直に引いてくれた。……どこで好感度上がるようなことをしたんだろうか。そもそも召喚してすぐの時と口調変わりすぎじゃなかろうか。


 それを指摘すると、


「人間に舐められないようにと思って……頑張ったけどもういいよね」


 と恥ずかしそうに答えてくれた。かわいい子がこういうことをやると反則だ。


「……仲が宜しいようで何よりだよ。それよりあんた、もう体はいいのかい」


 またオルタを放置してしまったようだ。すまないオルタ。それもこれもヴェルゼが可愛いのがいけないんだ。


 それはともかく、気づけば痛みも吐き気もなくなっている。完全に収まったようだ。


「ならよかったよ。契約の更新については置いておいて、これからどうするのかを話そうじゃないか」


 オルタの時間も限られていることだし、今後の予定は大切だよな。いろいろ見落としていることがあるような気がするが、細かいこともこれから詰めていけばいいだろう。


「しばらく休んだし、転移魔法一発分くらいの魔力はある。ここで話すのも難だ。私の隠れ家まで飛ぶよ」


 そう言ってオルタは俺とヴェルゼを自分の周りに集めるのだった。

死んで生き返ってレベリング。これがやりたかったのです。

ローグライクゲームに似たようなことができるものがありますよね。

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