57話 帰還
お久しぶりです。人物紹介を先に更新しましたが、挨拶を忘れておりました。
国家試験も終わったので、ぼちぼち更新を再開できればと思います。
今回はリハビリも兼ねてやや短めです。ご容赦を。
それと、PVがなんと10万を突破しました。更新が滞っていた中見てくださった方、また更新を待っていてくださった方、本当にありがとうございます。
今後も頑張っていきたいと思います。
この世界に来て幾度目かの白い明滅の後、視界には見慣れた町並みが広がった。言うまでもない、ノスティの町である。
と言っても、少しばかり懐かしい気分にもなる。丁度旅行から帰ってきた時のような感じだ。
「ウェンティは暑かったけれども、やはりこっちはこっちで少々肌寒いのぅ」
肌寒さを体現するように自らの肩を抱いてみせるのはフィーアだ。
「いや、お前はもっと北に住んでただろう? フィーア」
もっと寒いところに住んでいたフィーアに苦笑しながら答える。しかし、北海道に住んでいる人が東京に越してきても寒いと言うらしいことを聞いたことがあるし、結局のところ至適温度でなければ暑いか寒いになってしまうのかもしれない。
なんてことを考えていると、当のフィーアがこちらに向き直って言う。
「わかっとらんのー主様よ」
ちっちっち、と舌を鳴らしながら首を振るフィーア。ついでとまでに腰に手をあて、逆の手で指まで振っている。
「何がわかってないんだ?」
やはり寒い所は誰でも寒いということだろうか。
「それはの」
「それは?」
「女子が寒いと言っておればやることはひとつじゃろうて」
にやり、と笑いながら言うフィーア。その反応でなんだか予想がついてしまった。
「『俺が抱きしめて温めてやるよ』くらいのことを言えんでどうするのじゃ!!」
「やっぱりか。それが許されるのはイケメンと呼ばれる限られた人種だけだぞ」
「うむ? 主様は違うのかえ?」
「俺は……」
自分で自分をイケメンと言えるほど自信家ではないし、しかし卑下するほどひどいとも思っていない。やや目つきが悪いのは自覚しているが……。
「……ヤチヨは素敵」
悩む俺に声をかけたのはヴェルゼだ。相変わらず定位置からこちらを見上げている。
「おお、ありがとうな。素直に嬉しい」
やや照れつつもそう返せば、ヴェルゼはさらに言葉を続ける。
「……少し、肌寒い」
……これは、そういうことだろう。
意を汲み取って、その華奢な中にも女性特有の柔らかさを備える体を後ろからギュッと抱きしめてやる。
「あったかくなったか?」
「ん」
耳元で問いかければ、幸せそうな顔――ほぼ無表情なのだが――をしつつ、短い返答が帰ってきた。
どうやら満足いただけたようだ。
「ああっ! ずるいのじゃ! 妾が考えた作戦なのに!!」
妾もー、と両手を伸ばしてこちらに駆け寄ってくる姿は子供を思わせる。しかしまあ、純粋な好意を寄せられて悪い気はしないもので、ヴェルゼとフィーアの二人を抱え込む形となった。
「私たちもなんだか」
「肌寒くなってきましたね」
チラ、チラ、と、自身の肩を抱きつつこちらを伺うように横目で見ているのは王国組の二人だ。
「何を期待しているのかはわかるが、見ての通り手一杯だ」
「そんな……」
「……仕方ありませんよ、エンゼリカ」
この世の終わりのような表情をしている二人。なんだかこっちが悪いことをしている気分になってしまう。
故に、こんなフォローをしてしまうのも仕方がないだろう。
「……ランスについてのあれこれが終わったら構ってやるから、それまでは我慢してくれ」
「「っ! はいっ!」」
絶望の表情一転、輝くような笑顔で二人は同時に応えた。
我ながら酷いことを言っているような気がするのだが、ありがたいことに二人の反応を見る限りは大丈夫だったようだ。
ともあれ、王国組二人のことも真剣に考える必要が出てきたな……。
特にエンゼリカはこれでも一国の姫だ。今のヴェルゼやフィーアのような関係になるとすれば、それ相応の覚悟が必要だろう。
そもそも、この二人については好かれる要因があまり思いつかない。訓練に付き合ってもらって多少親密にはなったと思うが、それが理由だろうか?
しかし、今はそのことよりも優先すべきことがある。どうにかして守護方陣を取り戻さなければ世界の破滅を食い止める為の手段がなくなってしまうのだ。
駄女神の言ではまだ時間はあるらしいが、あまり悠長にしていられるほどは残されていない。守護方陣を取り戻してからも世界の各地に設置しなければならないのだから。
「さて、そろそろいいだろ?」
腕の中の二人に声をかけつつ、抱きしめていた力を緩める。
「むぅ、仕方ないの」
名残惜しそうにしながらもフィーアが離れる。彼女分の温度がなくなって、俺自身も少し肌寒く感じる。
ヴェルゼは定位置となった俺の傍らに控えている。というか、俺の左腕を抱えるようにして寄り添っている。
「ほんとにあんたたちはいつでもくっついてるねぇ」
呆れ顔で言うのはオルタだ。
俺だって好きでくっついている――わけだが、ただそれだけの理由でこれほどまでにいつも一緒にいるわけではない。
魔力の供給も同時に行うことで、より長い時間の契約の持続を可能にしているのだ。
尤も、正規の手続きに比べたら雀の涙程度の時間なのだが。
などと心中で言い訳しつつ、オルタに答える。
「なんだ、オルタも抱きしめて欲しかったのか?」
と、半ば冗談のつもりだったのだが――
「んなっ!? べ、別にあたしは抱きしめて欲しいだなんてそんな、いやでもして欲しくないわけじゃなくてだね、その、うぅ……」
――と、顔を真っ赤にして唸り始めてしまった。
「これは……」
「恋する乙女の表情、じゃの」
したり顔でフィーア。
彼女の言うことが本当だとしたら、オルタについてのことも考えなければならない。
「まぁ、男冥利に尽きるってやつか」
「モテる男はつらいのー」
嬉しくないわけではないし、優先すべきことが終わったらゆっくりと考えよう。
そう結論づけて、フィーアにアイアンクローを食らわせつつオルタが復活するのを待つことにするのだった。
◇
オルタの復活後、俺たちはリリティカの営む店を目指していた。
「なんだかんだ言って、ノスティの薬屋に行くのはまだ三回目か」
一度目はミシュレイ――防具屋の子が倒れた時。二度目は流行病を治すための薬草を納品した次の日だ。
「そうさね。リリィは元気にしてるかね」
「あの人はちょっとミステリアスだからな……いつも変わらなそうだ」
会った時のことを思い出す。どことなく実力者のオーラを醸し出していたよな……。
「っと。着いたな」
そんなことを話すうちに薬屋に到着だ。
チリン、と扉についた鈴を鳴らしながら店に入れば、薬屋独特の香りが鼻腔をつく。
「いらっしゃいませ――あら、オルタに……ヤチヨさん、でしたか」
「ああ。久しぶりさね」
「はい。えっと、お久しぶりです。リリティ……リリィさん」
リリティカさんと呼ぼうとして睨まれたので、慌てて訂正する。怖いよこの人。
「私のことはリリィと呼び捨てにして頂いていいのですよ? それと敬語もダメです」
やや頬を膨らませつつ、指を立てて忠告してくるリリティカさん。なんとなくこの人には敬語になってしまうのだが、それもダメらしい。
「あー。わかったよ、リリィ」
やや強引に自分を納得させ、要求されたように返答する。
きっと時間が経てば慣れるだろう。
「わかればいいのです」
彼女も満足気なので、これでいいのだろう。
「それで、今日はどんなご用事ですか? 数名、初めて見る方もいらっしゃいますよね」
「ああ、そうだった。それについては、まずこいつを見て欲しい」
そう言ってランスに手招きすれば、エンゼリカとオリヴィアの背後から俺の前まで歩み寄る。
そしてその姿が見えた瞬間、リリティカさんの眉が顰められた。
「この子は……」
「こいつがどんな存在か、わかるのか?」
「いえ、詳しいことはわかりません。しかし、内に秘める膨大な魔力だけははっきりとわかります」
どうやら、リリティカさんは見ただけではこれがエルフの遺物だとはわからなかったようだ。
「こいつは初代エルフ長が造り出した兵器のひとつらしい。トランスファーって名前だ」
俺が紹介したことに反応したのか、ランスが口を開く。
「初めまして。Transferと申します」
「これはご丁寧に。……それにしても、お祖母様の造ったもの、ですか」
「ああ、少し長い話になるんだが――」
「でしたら、あがっていってくださいな。店の奥は私の家になっていますので」
「大所帯で押しかけて悪いな」
「このくらいの人数でしたら大丈夫ですよ。家の方に誰か来るのは久々で、少しはしゃいでしまいますね」
全くそんな素振りもみせずに言うリリティカさん。どこぞのお姫様よりも姫っぽい。
いや、エルフ長の子孫だからまさしく姫なのか?
「では、こちらにどうぞ」
「それじゃ、お言葉に甘えてお邪魔します」
そう言って俺たちは店の奥に続く廊下をぞろぞろと歩いていくのだった。




