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6話 召喚の準備

 しばらく待たせてしまったせいか、オルタの機嫌が悪そうだ。追手がいるとも言っていたし、あまり時間をかけたくはないのだろう。


「すまん。神の声のようなものを聞いていたんだ。一度しか聞けないようだったから黙っていてもらった。」


「……そうか。それで、どうだったんだ?」


 意外にも俺がどんな話を聞いたのか興味があるようだ。いや、神の声を聞いたなんて言えば誰でも興味を持つか。


「ああ、まずは置かれた状況からだったかな――」


 神から聞いた話をひと通り話す。どこまで話すべきか迷ったが、聞かれてまずい話はなかっただろう。一応、指輪は価値がありそうだったので話を伏せておいた。


 5分弱で大体を話し終えると、オルタが口を開いた。


「……死を引きつける、ね。私も死霊術師だし、引きつけられたのかな」


 驚いたことに、オルタは冗談が言えるらしい。本気で言っているわけでないのは歪んだ口元から察することができる。……表情筋が衰えてうまく笑えないんじゃないだろうな。


 魂の特性がそんなところにまで効果を及ぼすとは思えないが、もしかするとそういうこともあるのかもしれない。実証する方法がないからなんとも言えないけどな。


「それはわからんけどな。それより、追手がいるんだろ。召喚はいいのか?」


 自分が時間を取らせたことを棚に上げ、オルタに問う。


「……そうだな、取り掛かるとするか」


 文句も言わず、ずた袋から何かを取り出す。


 まず取り出されたのは、大きめの鍋だった。


「……鍋?」


「あぁ、これは試作型の鍋だ。と言ってもただの鍋ではないよ。死霊術の力を付加した鍋だ」


 どうやら、儀式に必要な物らしい。鍋にはいろいろなものが入っている。オルタはそれらを確認していくが、中にはグロテスクなものも……。


「うっ……それは、心臓か?」


「そうだ。本来なら死神の心臓を使いたいところだが、神の心臓なんて誰も手に入れられないからな。これはケルベロスの心臓だ。」


 ケルベロスは冥界の番犬ではなかろうかと思ったが、「細かいことは気にするな」らしい。他にも死神が纏っていたとされる霊布、よくわからない液体、何かの目玉、骨片などが入っている。……ほとんどがグロテスクじゃねーか!


「これらは死神のものではないものがほとんどだが、鍋の付加によってそれらの質が昇華され、死神のものとほぼ同列で扱われる」


 これを開発するのにどれだけの時間と金がかかったか……と、オルタは呟いている。見た目30歳位だが、もしかするともっと歳をとっているのかもしれない。怖くて聞けたもんじゃないけどな。


「……よし、全て揃っているな。あとは私の死霊術で喚び出して、魔力を器に定着させれば……」


 ぶつぶつと呟いている様は限りなくネクロマンサーっぽい。鍋を地面に置き、その周りに魔法陣のようなものを描き始めた。


「これはオリジナルの魔法陣だ。私が開発したんだぞ?効果は実証済みだ……。尤も、お陰で追われることになってしまったが」


 召喚術によっていきなり死神を喚び出そうとしているわけではなく、まずは他のもので実験したらしい。んで、成功したはいいものの、国に禁術扱いされて追われる身になってしまったそうだ。まぁ、死神とかいう怖そうなものを呼び出す術とか、禁術扱いされてもおかしくはないと思うけどな。


「大変そうだな。喚び出せるのはわかったけど、なんでそんなことしようとしてるんだ?」


 普通に考えれば、……殺したい人がいるとかだろうか。それにしても死神を喚ぶなんて大掛かりすぎる気はするが。


「契約するためだ」


「契約?」


「ああ。死神は死を司る神だ。逆に言えば、死神と契約することによって死を回避することが可能だということだ」


「えぇ……」


 なんだその屁理屈じみた理論は。本当にそんなことが可能なのだろうか。そして、死を回避できたからと言って何をする気なのだろう。死にたくないと言うのは生物の基本的なところなのかもしれないが、俺の記憶では不死性を持ったキャラクターは大抵不幸になっていた気がする。友や愛した者が先に逝き、長い孤独を味わうことになる。というのが大半だった。まぁ、漫画とかアニメの知識だけどさ。


「それで、死神と契約して何をするんだよ」


「……私は先があまり長くなくてな。だが、そう遠くない未来に世界に破滅を齎すものが現れる」


「はぁ……。またスケールの大きい話だな」


「この世界は大体1000年周期で破滅と再興を繰り返している。破滅に向けて備え、残された少数がその備えをつかって再興する。……しかし、備えたところでその破滅は大きくてな。毎回文明水準がかなり下がってしまうのだ」


 破滅というくらいだし、大規模災害レベルのことが起こっているんだろう。その度に復興しなければならないというのは、どれほど大変なことか想像もつかない。


「それを、あんたが止めようってのか?」


「……あぁ。どれほど効果があるか、立ち向かえるかもわからないがな。しかし不死性を手に入れるきっかけを得たんだ。私はやらなければならない。……私がやらなければならないんだ」


 随分と高尚なことだ。自分の力を最大限発揮して、人類のために行動しようとしている。……そのせいで国から追われることになるってのも皮肉だな。


「まぁ、俺が代わってやることはできないからな。人類のため、頑張ってくれよ」


「そうだな。じゃ、始めるぞ……!」


 そう言ってオルタは魔法陣に魔力を込め始める。




 気がついたんだがさっきのセリフ、フラグって奴じゃないよな……?

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