2話 痩せた女性
ある意味では熊よりも恐ろしい風貌に戦慄する。いや、どう考えても山の中で血まみれのずた袋背負ってたらそれは危ない人でしょうよ。
自分の状況と合わせると、こいつが俺をここに連れてきた犯人なのだろうか?根拠もなくそう考えてしまう。
(どうする、逃げるか……?)
なんとなく身の危険を感じはするが、この場に唯一いる自分以外の人間だ。自分のことについて何か知っているかもしれない。それに、よく考えれば狩猟を嗜む人なのかもしれないしな。狩ったうさぎとかがあのずた袋に入っているのかもしれない。そう自分に言い聞かせ、この人とコンタクトを取ることに決める。
小走りで近づいてくるため、顔が何となく確認できるくらいの距離になった。向こうもこちらに気づいているようだ。
(って、女かよ!)
そう、走ってきたのは女性だった。髪は短めで、茶色い。体型は痩せている方だ。遠くからだと男性にも見えるシルエットである。
(とすると、狩猟ってのも間違ってるかもしれないな)
自分の考えが早速外れているだろうことに心のなかでため息をつく。しかし細身の女性である。組み伏せられて殺されるということもそうそうないだろう。相手を警戒しつつ、近づいてくるのを待つ。
女性は俺が近くなると小走りをやめ、歩いてこちらに向かってきた。向こうもこちらと話す意思があるようだ。
なんと声をかけるべきか迷っていると、訝しげな表情で女性から話しかけてきた。
「……こんなところで何をしてる?」
顔は美形……なのだろうが、痩せすぎている。全体的に肉が足りないな。それよりも質問されてしまった。地味に答えづらい内容に、やや戸惑う。
「あー、迷子みたいなところだ。あんたは?」
間違ったことは言っていない…と思う。俺の返答に対して女性が言う。
「迷子だ……?この山でか?……まぁいい、追手じゃないのなら私には関係ないしな」
「追手?」
ボソボソと喋るので聞き取りづらい。しかし確かに追手という言葉が聞こえた。面倒事の臭いがするが、つい尋ねてしまう。
「……気にするな。道案内はしてやれないが……そうだな、向こうに町が見えるだろう。」
女性が指差す先には、先ほど確認した町が遠くに見えている。
「……あれを目指していけば山は降りられる。降りればすぐに町だ」
山を降りて町まで行くのはそう大変ではないようだ。遭難のことを考えていなかったことに思い当たり、ほっとする。
とは言え、山は何かと危険だ。できればこの人と行動するのが得策なのではないかと思う。なにせ、今の俺はジャージに手ぶら。靴も履いていなかった。
……靴を履いていないのに気づかないとは、やはり相当寝ぼけていたようだ。
「あんたの用事が何かはわからないが、ついて行ったら迷惑か?」
「……目的地まではもうしばらくかかるが、……ふむ」
女性はこちらをまじまじと見る。上から下まで、じっくりと。あまりいい気分ではないな。
しばらくそうしてから、女性は言った。
「まぁ、いいだろう。予定外だがここでやる」
「はぁ?」
何をするというのだろうか。俺相手に何かするなら町の方向を教えないだろうし、そうなると正直検討もつかない。
「何をやるっていうんだよ」
至極当然な俺の問いに対して女性はずた袋を下ろしながら口元を歪めて言う。
「何ってそりゃあ……死神の召喚だよ」
書き溜めは今のところないのでゆっくりやっていきます