最後の戦い
「みんな!準備はいいわね!言っておくけど私たちがやることは危険と隣り合わせ。いつ死んだっておかしくない。十分に注意を払ってちょうだい。」
特訓を終えた私たち。やることは一つ。影の根元を絶つこと。もし絶ったとしても、影は現れるだろう。それは少しずつ対処していけばいい。でも、今回のようなことを放っておくわけにはいかない。
あれは三ヶ月前のこと。
久しぶりに大牙と光牙が人の里へ降りると言い出した。二人で結界を張ったから町に影はいないはずだと光牙は話していたが、結界の外に影が殺到しているような気がしたのでついていった。里が見えたと思ったとき。
「何よこれ……」
ついてきたパエルが呆然としている。結界は隙間なく影で埋め尽くされていた。低級ばかりだったので、中級はあとの三人に任せてそれ以外は技で封印した。里の人間たちは安心しきっていたようだが、わたしとパエルは離れたところで見ていた。前ほどの恨みはないが、さすがに近づくのは無理がある。そのあと、館に帰って里へ行ったメンバーを集めて相談した。
「あの影は異常だわ。今まで何度となく紅花と戦ってきたけれど、あんなに大量のは見たことがない……」
パエルが思案顔で言う。
「うーん。なにか環境が変わったとか?」
「いやそれはねぇと思うぜ。環境なんて人間がころころ変えてんじゃねーか。」
みんなが言い合うなか、わたしはそれを聞きながらある予測をたてていた。ポツリと言葉が出る。
「影石…」
「紅花?どうかした?」
パエルがたずねてくる。
「これは予測でしかないのだけど……」
「予測でも良いだろ。俺らも好き勝手言ってんだし。」
大牙が話を促す。
「私が思うに、影石が増加したんじゃないかしら。」
「影石?」
「影の源よ。黒い石で、禍々しいからすぐわかるわ。それが増加したから、影が増えているってことじゃないかと思うの。」
私の意見が仮採用され、そう仮定して話を進めることにした。
「でもだとすれば……」
などと話をしていると。
「きゃあああああ!」
下の階で悲鳴が上がった。
「美風!?」
それは確かに美風の声。でも、いつもの落ち着いた声と違い、取り乱した悲鳴だった。
慌てて階段をかけ降りる。悲鳴のもとの美風を見つけた。
「美風!どうしたの!?」
パエルが駆け寄る。
「パ、パエル様。お、お嬢様たちが、麗花お嬢様と鈴花お嬢様が!わ、私はどうすれば!」
「美風!落ち着きなさい!あなたはメイドよ!すべきことは何?」
私は叫んで落ち着かせる。
「私のすべきことは……紅花様を、案内すること……そうだ、今できることをやらなければ!」
美風がそこまで錯乱した理由を見に行く。すでにメイドたちによって運ばれたらしい。
「……!」
「これは、どういうこと?」
静かに美風に説明を促す。私たちの後についてきた二人も固まっている。
「私にも詳しくは……ただ、連華が走ってきたので門の方へいくとお二人が……」
そこにいたのは、ボロボロになった麗花と鈴花。二人に近づく。
「パエル。いくわよ……!」
妖花が緑に染まる。二人の体が緑に光って、傷がなおっていく。
「ふぅ。傷が浅くて助かったわ。」
「あ、お母様?」
早くも気がついたようだ。
「何があったの?」
「人間が、影石をたくさん作ってた。止めようとしたら、殴られたりして、こうなった。」
「そう……でも、あなたたちなら勝てたはずよ?」
「見境なく殺してはダメだと思ったから……」
「えらいわ。」
でも、これで情報が手に入った。これで、私の考えは確定となった。
ということがあったのだ。そして今、その人間たちのもとへ来ている。
「あなたたち、影石がどれだけ危険なのかわかっていないんでしょう?ならやめなさい!」
叫ぶが、聞かない。
「お前らみたいな女に小娘と青年なんて勝てると思ってんのか?」
「じゃあ、お仕置きが必要かしら?」
後ろから声がした。振り返ると、見たこともないような顔でパエルが相手を睨み付けていた。
「飲み込まれてしまいなさい。水柱!」
ザバリと水の柱が相手を飲み込む。パエルはわたしと違ってヴァンパイアではないので、相手を苦しめるのも自由だ。
「パエル。そのまま放り投げて。」
パエルが無言でぶん投げる。人間たちは飛んでいった。だが。
「遅かったわね。影が生まれてしまった…」
「もう攻撃は効きません。どうしますか?」
「そうね、その通りよ。普通の攻撃ならば、ね。」
「全員の技を合わせる。そういうことだな?」
意見を交わす。そこで光牙が、
「でも、僕とパエルは技の相性最悪だよ?」
「構わないわ。だって、私の妖花に集めて出せばいいことよ?」
にこりと笑う。
「考えてる暇なんてないわよ?影ももう来てるし。妖花に向けて、技をはなって!」
全員が放つ。みるみる妖花に吸収される。
「さあ、放つわよ~。ドーン★」
すべての技が、花火のように辺りに散る。打ち消しあうことなく、それぞれの役目を果たすかのように。
気づくと影はきれいさっぱり消えていた。麗花と鈴花は空を飛び回って喜んでいた。それを見て大牙が
「俺も飛んでみてぇな」
とぽそっと言っていたので、
「手を持ってでいいなら空飛ばせてあげようか?」
と聞くと、頷かれた。結局パエルも飛行魔法を使って光牙をつれて飛ぶことになった。
「またなー!」
大牙の声が響く。影があんまりでなくなったら会えないかもと思ったら少し寂しくなった。するとパエルが、
「今度はあなたたちの家にお邪魔しにいくわよ?」
「ん、まってるよ★」
紅花は?と言うような視線を送られたため、こくりと頷く。
「わーい!私たちもいきたーい!」
麗花と鈴花が大騒ぎしている。今ごろになって、わたしも明るくなったなと気づく。館の雰囲気も明るくなった。二人を送るため、空に舞い上がる。滅多に人前で歌うことはない。館の住人たちを起こす以外は。ま、今回は特別。空でステップを踏みながら歌う。
「あなたがいてくれて本当によかった これからも私と共にいてね あなたがいる限り私は輝き続ける」
歌い終わると、夜明けの空。うわっ。早く帰らないと灰になっちゃう。慌てて館に戻ろうとすると、二人がじゃれてきた。夜明けの空に、笑い声が響き渡って気持ちがよかった。
とうとう完結しました!今まで協力してくれた翡翠蝶さんありがとうございました!これからもよろしくお願いします。読んでくれている人がいたら、次シリーズ出したら見てくださいね!




