平和な毎日
(早く帰ろう…)
私はヴァンパイア。人間の里は好きではない。
私の子供を見てくれているメイド長に変わって買い物に来ている。そのメイド長はここに来なれているけれど、私にはどうも慣れない。
「!?」
突然地面が揺れ、人が悲鳴をあげる。
(影、か)
あの黒いモノは見慣れている。影と呼ばれる人の影に擬態する生物。
「今週何回目だこいつら!」
「まあそう怒らずにさ。とりあえず片付けよう?」
影の前に立ちはだかる二人の青年妖怪。怒っている青年に、それを落ち着かせ、目的を促す青年。怒っているのは、白い髪に鋭い目付き、落ち着かせているのは紫の髪にこちらも鋭い目付き。
(今日も大丈夫ね。さっさと逃げよう)
人間に味方をする妖怪は根本的に嫌いだ。だから、さっさと逃げた。
「あ、お帰りなさいませ、紅花様。」
メイド長の美風に名前を呼ばれ、ふと自分の名前もわからなかった頃を思い出す。
「「お母様!お帰り!」」
娘の麗花に妹の鈴花がピッタリあっているのが可愛くて、つい笑ってしまう。
「ただいま。いいこにしてた?」
「「うん!」」
二人はまた同時に笑顔で答えるが、美風のげっそりしている姿を見れば、一目瞭然である。そこは深く突っ込まず、笑顔で会話をする。でも、この二人は養子である。私には、暗い過去がある。それを癒すために養子をとろうと思った。孤児たちのもとへいくと、暗い部屋にヴァンパイアだからといって、閉じ込められている二人の姉妹を見つけた。自分とあまりにも境遇が似ていたため、この姉妹を引き取った。最初は警戒していたけれど、私もヴァンパイアであることを教え、証拠として翼を見せた。名前をつけ、本当の娘のように可愛がった。そのうち、私や麗花に鈴花のように人間に酷い仕打ちを受け人を恨むものたちがあつまった。そして今のような大家族になった。魔力を持ち、魔法使いとして活躍しているパエル。物を操る力を持った美風。ぬいぐるみを抱いてどこかボーッとした顔で館の周辺を守っているが、侵入者には容赦なくナイフを投げつけてくる連華。その他、美風によってまとまっているメイドたち。それぞれ得意な武術がある。ついでにヴァンパイアには魔法と、素早い動き、鋭いつめと牙が備わっている。
「みなさーん。ごはんできましたよー!」
美風が叫んでいる。館のあちこちから住人が出てきて食堂へと向かう。私もお腹減ったかもとか思いながら食堂に歩いていく。
「ねぇ、お母様。また明日も美風とお留守番?」
「お母様と遊びたいよー」
文句がたてつづけに飛んでくる。
「ごめんね。明日もお買い物。」
「「えー!!」」
予想通りの反応だ。先程子供の面倒を見てくれているメイド長に変わって買い物に来ていると言ったが、実はそのメイド長に頼まれてあの二人の青年妖怪に、対処できない影がでていないか調べにいっていることもある。何でも自分の故郷が、(本人はあくまでも故郷が好きらしい)少なからず心配らしい。美風も腕はたつのだが、館の仕事が忙しい。それで私が買い物役兼監視役になったのだ。でも、人間に味方をする妖怪は根本的に嫌いなのはかわりなく。ただ、白髪のほうの青年妖怪に、少しひかれている自分が嫌になる。また明日も人間の里に行かないといけない。憂鬱でたまらないのか、面倒なのか、心の底ではあの青年に会えて楽しみなのか。それは、私にもわからない。