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88.たのしく、御先祖様

 さて、朝食の時間である。ミコトさんは、当然のように俺にくっついて来た。あ、さすがにべったりひっついてるわけじゃなくて、俺の横に並んで歩いてる状態。触れないこと除くと、普通に女の子が歩いてるようにしか見えないんだよなあ。足元見なければ。


「あ、ユズルハさん、おはようございます」

「おはようございます、セイレン様。これはこれはミコト様、お久しぶりの来訪でございますな」

『おお、ユズルハ。久しぶりじゃ、そなたもようやっておるのう』


 玄関ホールまで降りてきたところで、ユズルハさんと遭遇。そっか、何度か会ったことあるんだっけ。


『妾はセイレンについていくが、問題はないな?』

「お珍しいことですな。何も問題はございません。供え物はすぐに準備いたします」

『頼むぞえ。シーヤの食事は何年経っても美味いからのう』


 ミコトさんが、ユズルハさんに許可もらうのか。ちょっと珍しいな、と思ったけどそういうこともあるんだろうなあ。相手が生きてる人じゃないわけだし。

 でも、食事はするんだな。


『久方ぶりじゃな。しばしの間、邪魔するぞえ』


 で、食堂に入ったところで皆、つまり俺の家族をぐるりと見渡してのミコトさんの第一声がこれである。幽霊なのは幽霊なんだけど、何て言うかこう、緊張感もへったくれもないなあ。


「あら、ミコト様。お久しゅうございます」

『おお、メイア。えらく元気になったのお。やはり娘が可愛いかや?』

「それはもう。ただ、もうちょっと趣味が合えばよかったんですが」

『まあ、育ちが育ちじゃ。おなご風の物とは余り触れ合うておらぬじゃろ、致し方あるまいて。サリュウに趣味を押し付けなんだところは評価するがな』

「あらいやだ、さすがにそんなことはしませんよ」


 それに対する母さんの扱いは、見事に久しぶりに出会った親戚に対するもの、なんだろうなあ。いや、俺そういう経験ないからさ。

 というか、サリュウにふりふりひらひら趣味押し付けそうだと思われてたのか。まあ、母さんの部屋アレだもん。そう思われてもしょうがないか。

 母さんとの会話が終わったところで、ミコトさんの視線は父さんに移った。一応、こっちが子孫ってことになるんだろうけどなんかなあ、母さんがミコトさんの子孫って言われたほうが納得できるというか。


「ミコト様、お久しゅうございます」

『モンドか。そなたも息災で何よりじゃな』

「は。シーヤの家もどうにか何事もなく続いております」

『厄介事なぞ、ないに越したことはないのう。特にそなたらは、セイレンの問題があったしの』

「はい。ようよう取り戻せて、良かったと思っておりますよ」

『じゃのう』


 うぐ。

 確かに俺のことは、ある意味一番の大問題だよな。何かむちゃくちゃな発端だったけどさ。

 っていうか、俺、御先祖様にも心配かけてたわけか。こんちくしょうトーカさん、あんたのせいだぞ。


『ふむ。おお、そちらはサリュウか。大きゅうなったのお』

「え、あ、はい。ミコト様、お久しぶりです」


 そんなことを考えてる間にミコトさんは、サリュウとの会話に移っている。あれっと思ったけど、サリュウを見にミコトさんが出てきたのはサリュウがうちに引き取られた年、だったな。確か6歳だったけか、それなら覚えてるよなあ。


『うむうむ。前に会うた時はどうなることかと思うたが、なかなか良う育っておるではないか。モンド、メイア。サリュウはよい跡継ぎじゃよ』

「あ、ありがとうございます!」

「お言葉、ありがとうございます」

「ありがとうございます、ミコト様。サリュウ、これからも精進するんですよ」

「はい、母さま」


 ……んー。

 俺の知ってるサリュウは朝から剣の自主練する頑張り屋なんだが、こっち来てすぐの頃は違ったのかね。ミコトさんの台詞考えると、そうなるよなあ。

 ま、いいか。6歳から14歳に成長してるんだし、サリュウだってシーヤの跡継ぎとして頑張ってんだからな。少々シスコン気味っぽいのが気になるけど、まあそれはそれだ。今後のさらなる成長に期待。



 で、俺たちは普通に朝食を済ませた。さっきは普通に食事するんだと思った幽霊な御先祖様のミコトさんは、いわゆるお供え物を食事としていただくそうで。ユズルハさんが準備するって言ったのは、そのことらしい。


『儀式の間に、我ら用の食事が供えられるんじゃよ。此度は妾、少々早めに来てしもうたからのー、ユズルハには悪いことをしたわ』


 たまに俺やサリュウにマナー指導しつつふらふら歩いているミコトさんは、そう言ってほほほと笑った。

 悪いことしたなんて思ってないだろ、ミコトさん。せいぜいちょっとしたお茶目ー、みたいな感じだよ、この笑い方。ユズルハさん、大変だなあ。

 今朝のデザートは山羊の乳使ったヨーグルト。刻んだドライフルーツとハーブを乗せてあるんだけど、柔らか目でさっぱりしてて結構美味しい。……ゴドーさんとガドーさん、もう山降りてるよなあなんて思いつつヨーグルトを口に運んでると、母さんがふとミコトさんに目を向けた。


「そういえばミコト様。以前何度かお会いした時は夜にしかお出になられませんでしたが、この度はどういった風の吹き回しですの?」

『気分じゃ』


 おい。

 相手がご先祖でなけりゃ、多分全員が手込みでツッコミ入れてるぞ、それ。


『というかじゃな、たまには昼に出てもよかろう? ジゲンがここの世話をしておるようじゃが、時間が合わずにいつも会えぬし』

「ミコトさん、ジゲンさんとも知り合いなんですか?」

『妾の生前にの、王宮で専属魔術師の見習いをやっとったんじゃ』


 ……おい。

 ミコトさんの生きてる時代に、ジゲンさんもう生まれてたんかい。それどころか、魔術師見習いってそこそこ年行ってるんじゃないのかな。

 そういえば、クオン先生は俺の倍の年齢だって聞いたけど、そのお祖父さんであるジゲンさんの年齢って知らないなあ。


「……ジゲンさんって、いくつなんですか?」

「さあ? 聞いたことはないわねえ」

「聞かんでも、特に問題はないしのう」


 故に知ってるかもしれない両親に聞いた結果がこれだ。いやいやいや、まあ確かに俺探して連れ戻せる魔術師ってことで探してきたんだろうから、年齢は問題外だったろうけどさ。



 朝食が終わると、サリュウは勉強の時間ってことですぐ部屋に戻った。まあ、俺もクッキー包みあるしなあ、ってことで急いで帰る。もちろん、ミコトさん付きで。

 クッキーをせっせと包んでると、横からミコトさんが覗き込んできた。太陽の出ている間にうろつくことがあんまりないってことで、こういう作業も物珍しいようだ。


「ミコトさんの時代って、こういうのなかったんですか?」

『あったはあったが、妾の時代はどちらかと言えば干物や燻製が主じゃったからな。こう可愛らしい菓子はほとんどなかったぞ』

「はあ……時代で違うんですね」

『まあ、ここ最近は余裕が出てきたということであろうな。よいよい』


 嬉しそうに腕組んで、うんうんと大きく頷くミコトさん。

 言われてみれば、そうだよな。干物や燻製って保存食で、そういうのを配るってのは結構食料が厳しかったからだと思う。それが今はお菓子、だもんな。農作物の取れる量とかが増えたり何だりで、寒い時期になっても食料にあんまり不自由がなくなってるってことなんだ。

 ミコトさんの時代は、そうすると大変だったんだなあ。彼女見てると、そうは思えないけれど。


『後でおこぼれもらおうかのう。そのクッキー、美味そうじゃ』

「ユズルハさんに聞いて大丈夫でしたら、お供えしてきますよ」

『おお、セイレンは気が利くのう。良い子孫を持てて、先祖は幸せじゃよ』


 いやいや。

 ミコトさんのような御先祖様がいるから、今の俺がここにいるんだから。

 まあ、ここに帰ってくるまでいろいろあったけどさ。

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