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どうやら俺は育つ世界を間違えたらしい。あと性別も  作者: 山吹弓美
三:秋の新参者

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85.それから、各々帰還

 翌日、特に何事もなく俺とサリュウはシーヤの屋敷に戻った。両親や使用人さんたちは既に事情を知っていて、母さんなんて俺の顔見た瞬間ぎゅーと抱きしめてきた。いや、そりゃ心配だったろうなあ。


「おお、良かった……本当に良かったわ……」

「……ごめんなさい」


 俺はその一言しか返せなかった。いやだって、他に何言えってのさ。なあ。

 そうして、一緒に帰ってきたレオさんたちに交代してもらった。正直言うと俺は詳しい事情はさっぱりだから、もともとそこら辺の調査しに来た人たちが説明するのが一番早いだろ。

 おかげで夕食の時には、皆どうにか落ち着いてくれていた。いやもう、親馬鹿なのは今更だけどな。

 で、夕食前後に俺は、レオさんの事情聴取を受けていた。早いとこ話聞いたほうがいいし。


「はい、ありがとう。お疲れ様、セイレンちゃん」


 夕食の後も色々聞かれて答えて、それをマイトさんがかりかり書き留めていく。レオさんが終了を告げたのは、夕食終わって1時間くらいしてからだった。


「いえ。……もういいんですか?」

「うん。だってセイレンちゃん、あんまり詳しいこと知らないでしょう?」


 さらっと言ってのけるレオさんは、普段どおりのレオさんだった。にこにこ笑ってるけど、シキノの屋敷からシーヤの屋敷までハナコで帰ってきて、両親にいろいろ説明して、そんでもって俺の事情聴取だろ。大変なの、レオさんの方じゃないのかなあ。


「ま、それはそうですが」

「だからいいのよ。詳しいことは生き残りしばきあげて聞き出してあるし」

「いたんですか」

「妙に丈夫なのが、たまにいんのよねえ。あと、馬車んとこでセイレンちゃん襲ってきた連中はピンピンしてるわ」


 あ、すっかり忘れてた。そっか、あの警備員さん始めチンピラーずがいたっけ。でも、何か肝心のところは聞けそうにないなあ。

 んでレオさんは、ちらりと扉の方に視線を向けた。アヤトさんがそこにいて、「終了しております」と頭を下げる。同じ部屋の中で衝立立てて、俺付きのメイドさんたちからも話聞いてたんだよね。


「メイドさんたちも終わったみたいねえ。お茶飲んで一休みしなさいな」

「そうします。レオさんもどうですか?」


 レオさんも大変だったろうから、一緒にお茶くらいいいよなあ。そう思って俺は誘ったんだけど、レオさんは面白そうに笑って言ってくる。


「あら、いいの? タイガちゃんに誤解されちゃうわよ」

「タイガさん、そういう人じゃありませんから」

「あらま」


 あれ、何でテーブルに突っ伏してるんだろ、レオさん。俺は何か、変なことを言ったのか?


「こうもがっつりのろけられちゃうと、ちょっかい出す気もなくなっちゃうわねえ」

「え? のろけてませんよ?」

「自覚ない分凶悪だわー」


 ……そ、そうか。よく分かんないけどこれ、人が聞くとのろけてるように聞こえるのか。うわ何か顔が熱い、気をつけよう。

 顔のほてりが収まらないまま、アリカさんにお茶を淹れてもらう。衝立の向こうでアヤトさんたちやうちのメイドさんたちもお茶を飲んで、ほうと一息ついてるみたいだな。

 ま、昨日の今日だもん、疲れるよな。

 でも、俺なんかはともかくとして、だ。目の前でお茶飲みながら書類をまとめてるレオさんは、ひょっとしたらこの屋敷に来るずっと前からいろいろ調べてたりしたんだよな。


「……レオさん、内密に調査って大変だったんじゃないですか?」

「まあねえ。でも、こういうお仕事やってるから結構慣れちゃって」

「お仕事なんですか?」

「うん」


 考えてみれば、そうだよなあ。趣味でそういうの調べるなんて、さすがに駄目だろ王子様。もともとそういう調査を仕事にしてるから、こうやってちゃんとした書類作ったりしてるんであって。


「王子様だからってぼさっとしてるとね、周囲がうるさいのよ。もともとあたしこんなでしょ、王位継承者にふさわしくないぞーってお偉方が多くてねえ」


 そしてレオさんは、自分がそういう仕事を手がけてる理由みたいなもんを口にする。

 あー、領主の跡継ぎでも院長先生とトーカさんみたいにいろいろごちゃごちゃあるってのに、ましてや次の王様だもんなあ。国を治める大事な人なんだから、余計に回りが神経質になっちゃうんだろうなあ。


「それで、あちこちの領主の税収とか、あと不正疑惑なんかを調査してるわけ。分かりやすく言うと、うちの収入にも直結するからね」

「あー」


 だからレオさんは自分にできる仕事をやってみせて、それで王位を継ぐものとして立派にやれるんだってところを見せてるわけか。将来王様になる時に、誰にも文句を言わせないために。

 外からだけじゃチャラチャラしたオネエとしか見えないんだけど、何気に苦労してんだなあ。


「でも、セイレンちゃんを見に来たって言うのは本音よ。箱入りのお嬢ちゃんがやっとお屋敷に戻ってきた、って聞いたら、やっぱり気になるじゃない?」

「屋敷で御披露目やったんですけど、あちこちの領主さんが私のこと見に来てましたよ。気になるんですね、やっぱり」

「そりゃもう。何しろ領主ってお仕事に追われてて結構退屈だからね、箱入り娘のお披露目なんて面白そうじゃないの」


 あー。やっぱ俺、動物園の希少動物扱いされてたかこんちくしょう。というかレオさん、俺見に来たのとシキノさんち調査しにきたのと、どっちが本命だよ。


「でさあ、セイレンちゃん」


 不意に、レオさんが目を細めた。あー、何か企んでるというか何というか、そういう感じの視線だよこれ。それが分かって俺は、ほんの少し上半身を後ろに引いた。


「男の子として育ったんだって? あたしよりずっと女の子だから、気が付かなかったわ」

「いっ」

「タイガちゃんがものすごく説明しづらそうにしてたから、無理やり聞き出しちゃった。だから、シキノの先代のこととかもちゃんと分かってるわよ」


 え。

 うわ、俺のこと、知ってた?

 てことは、先代がトーヤさんじゃなくて実はトーカさんだってことも全部、知ってて。

 でももしかして、その辺全部わかってたから、シキノの内側のことも分かって、ちゃんと調査できたのか。


「大丈夫。あたしもアヤトもマイトも、しゃべらない。他の人達には内緒、なんでしょ?」

「え、あ、はい」


 うわ、うっかり頷いちまったよ。あーあ、バレバレじゃねえか。

 参ったなあ、と頭抱えてるとレオさんは、とんと指先でテーブルを叩いた。慌てて顔上げた俺の前で、彼は真剣な眼差しになる。うわ、こうすると普通にかっこいいんだけど。タイガさんの次に。


「あたしの名前とスメラギ王家、そして太陽神様に誓ってあなたのことを他言はしない。信じてくれる?」


 自分の名前、自分の家、そして世界を作った太陽の神様。その3つに誓ったことは、絶対に破っちゃいけない約束。

 別に破ったからって犯罪になるわけじゃないけれど、この世界ではこれはとてもとても当たり前の常識だ。

 もし破ってしまったら、例えばレオさんなら王様になれなくなるだろうし、王子様ですらなくなるだろう。そのくらい、大切な約束。

 そんなことをレオさんは、俺の秘密を守るために使ってくれる。そんなことされたら、なあ。


「そこまで言われて、信じないわけにもいかないでしょう。それに、何だかんだ言って嘘つかないですもんね、レオさんは」

「あら、ありがと。信じてくれて、嬉しいわ」


 俺の答えを聞いてほにゃん、と笑顔になったレオさんは、やっぱりいつものレオさんだった。



 その、次の日。

 屋敷の玄関前には、重厚な装飾の馬車がお迎えに来た。うわ、堂々と王冠ついてるよ。王家すげえ。

 レオさんが乗ってきたハナコは、アヤトさんが乗って帰るらしい。どうもお転婆娘らしく、馬車を引くのには向いてないんだとか。

 そして、客間を引き払って出てきたレオさんは、まさに『王子様』だった。

 化粧もほとんどしてなくて、赤い髪はうなじでひとつにまとめてる。真紅のマントの下には白と黒の正装で、こうやって見ると王家の嫡男だっていうのが一目で分かるんだよな。


「短い間だったけど、楽しかったわよ」


 それでも口調は普段通りなので、やっぱりレオさんはレオさんなんだよなあと改めて実感。

 で、俺の方を向いて、ぱちんとウインクしてくる。このへんも、普段のレオさんのままでちょっと安心。


「タイガちゃんと、仲良くね。もし何かあったら、いつでもすっ飛んでくるから」

「お仕事優先ですよ?」

「分かってるわよお。サリュウちゃん、可愛いお姉様を守ってあげるのよ?」

「もちろんです。僕は、姉さまが兄さまのもとに嫁ぐまで守るって決めたんですから」

「勇ましいことね、頑張りなさい。でも、無理は禁物よ」


 俺と、それからサリュウにくれた言葉は、何だかよく分からないけど実感みたいなのがすごくこもっていた。レオさん、王子様として生まれてからいろいろあったんだろうなあ。


「モンドおじさま、メイアおばさま、お世話になりました」

「いや。こちらこそ、大したおもてなしもできずに申し訳ありませんでした。殿下」

「事情とはいえ様々なご無礼、どうぞお許しくださいませ」

「いいえ、とても楽しかったわ。本当にありがとうね」


 父さんと母さんはえらく恐縮してるけど、もともとそういう風に扱えってレオさんが言ってきたんだろうしなあ。俺やサリュウに正体ばれないようにって、さ。だから、しょうがないだろうよ。

 その2人に穏やかに微笑みかけて、レオさんはすっと立ち上がった。アヤトさんとマイトさんを従えて馬車へと数歩歩み出し、ふと振り返る。赤い髪とマントが、一緒に揺れて綺麗だなあ。


「任務完了、これより王都に帰還するわ。元気でね、シーヤ」


 いつも通りの声が、俺たちへの別れを告げていた。

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