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どうやら俺は育つ世界を間違えたらしい。あと性別も  作者: 山吹弓美
三:秋の新参者

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78.おひさの、居候青年

「あ、姫様、坊ちゃま。いらっしゃいませ!」


 初日にみたらし団子食べたお店に行くと、おばちゃんが覚えててくれて大歓迎してくれた。あの時使った竹箒は、今も現役で店の前掃くのに使われてるらしい。人殴って平気なのか、竹箒って丈夫だなあ。


「良かった。坊ちゃま共々、ちゃんと来てくださったんですね!」

「ええ。約束しましたもんね」


 テーブル席に陣取ると、早速注文にすっ飛んできてくれる。みたらしも美味しかったんだけど、今日は……あー、メニュー見るとおはぎっぽいのがあるな。これ頼もう。


「ありがとうございます。姫様に二度も来ていただいた店として、これから自慢ができますよ」

「へへ。そんなんで良ければ、いくらでも自慢してください。あ、これと……このお茶を」

「僕はこの前食べたお団子を。お茶は、姉さまと同じので」

「はいはい、他の皆も注文してって」


 サリュウに続き、メイドさんたちも次々に注文。何故か皆、お茶は緑茶になった。俺が最初に頼んだからだろうか、まあいいけどさ。

 お団子とおはぎ持ってきてくれたお姉さんは、どちらかと言うとサリュウのファンらしい。俺のおはぎは普通に置いたのに、サリュウのお団子は「どうぞ!」って目をキラキラさせて置いてたもんな。はは、良かったな。もててるぞ弟よ。


「坊ちゃま、今日のお召し物かっこいいですね!」

「え、本当? ありがとう、頑張って選んだんだ」

「さすがですね! 坊ちゃま、服のセンスもよくていらっしゃるなんて」


 よしサリュウ、そこで言葉止めたのは偉い。なんぼ何でも、憧れのお坊ちゃま見て目をハートにしてるお嬢さんに、姉と合わせようと思って選んだなんつーこと抜かしてたらツッコミと称して殴ってたぞ、うん。

 いや、多分俺ならうっかり言ってただろうからなあ。はは、女になってから考えると、ありゃないわー。いくら身内でも、他の女の話ほいほいと出すもんじゃねえな。うん。


「そういえば姫様。あの悪たれども、結局何だったんですかねえ」

「悪たれ? ああ、竹箒でしばかれたりしたあいつらですか」

「お恥ずかしいところお見せしちゃってすみません。だって、若様の姫様に手を出そうなんて馬鹿な連中が、この領地にいるなんて思ってもみなかったもんですから」

「いえ、助かりました。ありがとうございます」


 おばちゃん、俺がタイガさんの婚約者だってだけであいつらしばいてくれたのか。俺じゃなくってタイガさん、ほんと慕われてるんだなあ。いい領主さんだってことだよな。


「こっちでも、よく分からないんですよ。ま、金持ちの小娘なんでカツアゲにでも来たんじゃないですかね。サリュウ以外、皆女の子ですし」

「僕は頼りにならないってことですか、姉さま?」

「周囲から見たら、まだ子供ってこと。それに、相手結構多かっただろ? サリュウがいてもどうにかなるって踏んだんだよ、きっと」


 サリュウが頬を膨らませるのはまあしょうがないとして。ああいう連中、何でこっちが女子供だと甘く見るんだろうなあ。確かに俺自身は何のとりえもないし、ろくに戦えもしないけどさ。


「シーヤのメイドを、甘く見た報いですねっ」

「このお茶とお団子がある限り、私は無敵です」


 にこにこ笑いながらおはぎを頬張るオリザさんの横で、ミノウさんがみたらし団子を1串一気に平らげてしまってた。そうか、みたらし団子気に入ったんだな。


「あ、済みません。このお茶、美味しく淹れるこつがありましたら教えていただけないでしょうか」

「サリュウ様、またほっぺついてますよ。もう少しゆっくり食べても、お団子は逃げません」

「あ、ごめん、マキ」


 アリカさんはさっさとお団子を食べてお茶のお代わりをもらい、ついでに淹れ方を尋ねてる。これは、屋敷に帰った時に期待してもいいかなー。

 で、サリュウはマキさんに頬を拭いてもらってる。お前、屋敷なんかではちゃんと食べられるのに、何でこういうところだとそうなるんだ。だから子供っぽく見られるのかもしれないな、こいつ。


「ほんと、このお茶おいしいですよねえ。あの、このお茶っ葉どこかで売ってるんですかー?」

「ああ、うちでも売ってますよ。せっかくですし、いかがですか?」

「それはよかった。ぜひ、買わせてください。ああ、セイレン様のお飲みになる分も頂きます」


 カンナさんとトキノさんが、お茶っ葉ゲット。俺んとこの分まで買ってくれたので、ありがたくいただくことにする。うわーい、屋敷に帰っても緑茶が飲めるぞー。



 一服してからお店を出て、道を歩く。稲穂の壁飾りとか、多分豊作とか家内安全とかのお守りみたいなのとか、いろいろ売ってるなあ。

 布屋さんではちょうど今の季節に合ってる模様のタペストリーとか、あとこれから来る冬のためにってストールなんかも売ってる。せっかくなので、全員で好きなの1枚ずつ選んでもらって買ってみた。お茶っ葉のお返し。

 着けてくれるかどうか分からないけど、俺と色違いのやつをタイガさん用にもう1枚。チェック模様のやつで、俺のは青系、タイガさんのは何となくオレンジ系。何でだろ、まあいいや。

 布屋さんを出たところで、不意に目を引く存在を見つけた。って、あれ?


「やーっと見つけた、お姫様っ」

「うわ……あ、地味だ」


 いやごめん、挨拶の台詞より先にその感想が出てしまった。

 だってさ、レオさん、モノトーンの地味ーめな上下なんだもん。ただ、一緒にいるアヤトさんが茶色系、マイトさんがくすんだ青の色違い上下なので、何というかこう、違う意味で目立つなこの人。


「あら、第一声がそれ?」

「す、済みません。お久しぶりです、レオさん」


 ちょっと不満気な声で指摘されて、慌てて頭を下げる。いやほんと、久しぶりに会っていきなり地味だ、はないよな。ごめんなさい。


「何しろ、うちに飛んできた時の格好がもう焼き付いてしまってて」

「あはは、あれはごめんなさいねえ」


 文字通り飛んできた、ただし馬に乗ってだけど、この人はぽんぽんと俺の肩を叩いて、それから困ったように笑いつつ肩をすくめた。何だろう、こういう仕草似合うよね、こういう人って。


「さすがにねえ、あたしだって空気ぐらい読むわよ。収穫祭に赤だの何だのはないなー、って思ってねえ」

「花葉と同化しちゃいますもんねえ」

「そうそう、チェリアの花葉みたいにひらひららん。ってこらあ、サリュウちゃん」


 何ノリツッコミやってんだ。まあ、この人はそもそもこういう人だからしょうがないっていうか、おつきの2人がものすごーく済まなそうな顔してる。毎度毎度お疲れ様です。

 と、周囲の領民さんの中から茶化すような声がかかった。


「あら王子様、姫様引っ掛けようってのかい? そんなことしたら、あたしらが許しませんよ」

「やーだ、分かってるわよう。あたし、そこまで命知らずじゃないもの。若様から姫様の護衛頼まれてんのよ」


 あっはっは、と笑ってさらりと答えるレオさん。って、タイガさん、レオさんにそんなこと頼んでたの?


「何だ、そういうことですかあ。しっかり護衛、なすってくださいね?」

「もちろんよー」


 声をかけてきたおばちゃんに、レオさんはひらひらと手を振って答える。ちらりと俺に視線をくれて、ぱちんと前見たよりも地味目にウィンクしてきた。

 そういえば、化粧もだいぶ薄めだな。それで地味って思ったのか、俺。

 つか、俺が姫様でサリュウが坊ちゃま、レオさんは王子様か。面白い言い方するよな、こっちの人。


「ま、そんなわけで。しばらくあたしたちにエスコートされてくれる? サリュウちゃんも込みで」

「ほんとに、兄さまに頼まれたんですか?」

「うん、もちろん」


 サリュウの問いに間髪入れず頷いて、どんと自分の胸を叩いてみせる。あれ、意外と胸板厚めか? この人。まあ、剣術やってるようだし、何気に筋肉あってもおかしくないけどさ。


「領主様から、お姫様のこと守ってほしいってお願いされてるの。そんなこと頼まれちゃったら、引き受けないわけにはいかないでしょう?」

「お、お世話おかけします」

「いいのいいの、こっちももののついでだしー」

「こちらこそ、レオ様がお手数おかけします」

「済まない。俺には止められなくてな」


 きゃらきゃら笑ってみせるレオさんが護衛だって、あんまり気づく人いないんじゃないだろうか。アヤトさんとマイトさんならともかく。てかマイトさん、ものすご~く困った顔しなくても分かってるから、大丈夫。


「……セイレンちゃん、サリュウちゃん」


 不意に周囲に視線を巡らせてから、レオさんは声をひそめた。まるで、すぐ身近にいる誰かに聞かれたくないみたいに。それに、表情が妙に真面目になっている。こうやって見るとこの人、そこそこかっこいいんだけどなあ。


「いい? 今夜は気をつけるのよ」

「は?」

「はい?」

「庭向きの鎧戸は鍵閉めないで。何かあったら、そこから飛び出しなさい。行ってあげるから」


 ……。サリュウや俺の疑問符にはお構いなしに、レオさんはそこまで言い切った。

 つまり、何かあんのかよ。完全にレオさん、それ前提で話してるだろ。

 てか、その言い方だとほぼ確実に今夜誰かが襲ってきます、って感じじゃねえか。タイガさんの屋敷に。


「何か来るんですね」

「ま、そんなとこ」


 そうか。

 ……覚悟、決めるしかないな。どうせ、トーカさん派の残党とかいるんだろ。

 こんちくしょう、タイガさんにこれ以上迷惑掛けんじゃねえよ。


「……分かりました。サリュウもいいね」

「は、はい。姉さまがそうおっしゃるのなら」

「物分かりのいい子で助かるわ。よっし」


 俺とサリュウが頷いたことと、よっし、という一言で、レオさんは真剣な表情を霧散させる。いつものほにゃんとした笑顔に戻って、それから俺たちに尋ねてきた。


「で、お姫様たち、明日帰るんでしょ。モンドおじさまやメイアおばさまへのおみやげ、何がいいかしらね?」

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